!!!
国也が早朝の新聞配達で、人の通らないビルの前に来た。
「ああ眠い、まだこんなにある・・・」
新聞の束を見て、ウンザリとする国也。一つ掴んで、ビルの1階にある銀色の新聞受けに差し込む。
ギュン!ウグッ!
国也の上の方で、妙な音がして見上げる。
「ウワッ!」
思わず腰を抜かして歩道にしゃがみ込む。
「な、何だ!」
眼を擦って見る。
「ひ、人だ!」
5階建のビルの屋上からロープが伸び、3階辺りで首を吊った状態の人がブラブラと揺れている。
「!!!」
女性である。しかも見覚えのある女性だ。
「う、嘘だ・・・」
国也は、立ち上がり、もう一度眼を擦って見上げる。
「乃菊ちゃん・・・」
足がピクピクと痙攣を起こしている。まだ死んでいない。
「乃菊ちゃんが、死、死んじゃう!」
国也は、うろたえて、右往左往する。
「た、助けなきゃ!」
ビルの入口へ行くが、シャッターが下りている。走って裏口へ行く。しかし開かない。
「早くしないと、乃菊ちゃんが・・・」
また乃菊の見える所へ行く。さっきよりぐったりとしているように見える。白目を剥いて、舌がだらりと垂れている。
「乃菊ちゃん、今助けに行くから・・・」
しかし、ジャンプしたところで届くはずがない。助けを呼んでる余裕もない。
「よし!」
国也は、意を決して壁を這いあがることにした。指先を壁に食い込ませるようにして、足を片足ずつ壁に貼り付ける。
ヤモリのように壁を上がって行く国也。
「今助けるから・・・」
人間、必死になると壁も制覇出来るんだ。国也は、少しずつ乃菊に近づいて行く。
「乃菊ちゃん・・・」
やっと乃菊の横まで這いあがった国也。死んでいるような乃菊の無残な顔を見て、涙が出てくる。
「何で、乃菊ちゃんがこんな目に遭わなきゃいけないんだ・・・」
手を伸ばして、首に掛かっているロープを外そうとした時だった。
「ギャーッ!」
白目を剥いていた乃菊の眼が、国也を睨む。しかもワニの眼のように瞳が縦に細くなっていて、だらりと垂れていた舌の先が二つに分かれて、ペロペロと出入りしていた。
国也は、壁からはがれ落ちて行った・・・。
「ウワーッ!」
国也は、飛び起きる。辺りを見回すと、自分の部屋だった。
「夢か・・・」
ホッとする国也。
「なんて怖くて嫌な夢なんだ・・・」
しかし、国也は、気になって乃菊の部屋へ行く。
そっと扉を開ける。布団が敷いてある。乃菊は・・・、寝ていた。
「良かった・・・」
ホッとして、乃菊の寝ている布団の横へ行って座り、寝顔の可愛い乃菊を見つめる。
「良かった、夢で・・・。また乃菊ちゃんが死んだ夢を見たなんて言ったら、怒られるだろうな。でも、オッパイ触ったわけじゃないから、怒られる理由がないか・・・」
一人でブツブツ言っている国也。
「おじさん・・・」
「呼んだ?」
国也が、乃菊の顔を見ると、険しい顔になっている。
「助けて・・・」
苦しそうにしている乃菊。
「どうしたんだろう、嫌な夢を見てるのかな?」
「ウググ・・・」
乃菊が手を伸ばして、国也の腕を掴む。あまりに力が強くて、国也は、乃菊の寝ている上まで引っ張られる。
「どうしたの、夢だよ、夢!」
乃菊の眼が、パッと開く。
「おじさん、私が、死んじゃった・・・」
乃菊が、国也に抱きつく。急なことで国也は、バランスを失い、そのまま乃菊の上に被さった。
「おじさん、死にたくないよお・・・」
触ってはいないけれど、乃菊の胸の膨らみが、国也の胸に気持ち良く接触する。
「動かないでくれ、これ以上我慢出来なくなっちゃう・・・」
「死にたくないよお・・・」
乃菊が抱きついたまま、身体を揺するため、国也の理性が崩壊寸前だった。
「の、乃菊ちゃん・・・」
我を忘れて、乃菊の胸に顔を埋めてしまった国也。
「キャーッ!」
乃菊が悲鳴を上げてしまう。国也は、それにびっくりして動けなくなった。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ!一階から人がやって来る。
ドン!扉が勢いよく開く。国也が乃菊に被さり、襲っている?
「国也!」
そこに立っていたのは、鬼ババ!いや、箒を持った雲江だった。
「なんてことするんだい、乃菊ちゃんに!」
雲江が箒を振りかざし、乃菊を襲っている?国也のお尻を何度も叩く。立ち上がって逃げる国也。
「違うんだよ、まだ何もしてないよ!」
「まだってことは、これからしようとしたってことじゃない!」
「違うってば、乃菊ちゃんが引っ張るから、抱きつくような格好になっただけだよ!」
乃菊の周りを走り回る二人。
「このバカ息子は、言い訳するな。乃菊ちゃんは、ファンもいるアイドルなんだよ。そんな子を犯そうとするなんて!」
「だから違うってば、乃菊ちゃん、違うって言ってよ!」
「乃菊ちゃん、遠慮しないで本当のことを言いなさい!」
乃菊は、二人を目で追いかけていたら、クラクラして来た。
「眼が覚めたら、おじさんが私の胸を、舐めようと・・・」
「ゲッ!」
「ほらやっぱり!乃菊ちゃん、ごめんね。あいつを二度と立てないようにするから」
雲江が、乃菊の手を握って誓う。
「違うってば、乃菊ちゃんは、寝ぼけていたんだよ」
雲江が、国也を睨む。もう駄目だと、国也は、隙を見て乃菊の部屋を出て行く。
「コラ待て!」
雲江が国也を追いかける。
「えーん、もうお嫁に行けないよお・・・」
「乃菊ちゃん、仇は打つからね!」
雲江も階段を下りて行く。
「良かった、生きてて・・・」
乃菊は、ホッとしてまた布団を被る。
「おじさん、ごめんね。少し叩かれといて・・・。でも、あああ、声出さなきゃ続きがあったかも、残念・・・」
乃菊は、ニコリと笑って、眼を閉じる。
二人は、同じ状況でそれぞれの夢を見た。これが夢で終われば良いのだが・・・。
この時の夢が、これから二人に起こる悲劇の、ほんの序章なのかもしれない・・・。
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