本当の最初の出会い
国也は、浜名にいた。
そしてルートの途中、乃菊の仕立ての師匠、澤田なつ枝に会っていた。
「菊野さん、まだ意識が戻らないんですね」
なつ枝も淋しそうである。
「私も菊野さんの過去のことは、知らないんです」
国也は、何でもいいから、乃菊の過去の手掛かりを探していた。
「あ、そう言えば、浜名に来る前は、神奈川にいたって言ってた気がします」
「神奈川ですか・・・」
それを聞いて国也は、しばらく自分の記憶を探していた。
「大野さん。少し気になる噂を聞いたんですけど・・・」
「何ですか?」
「菊野さんを轢いた女の人が、キトウ呉服店に出入りしていた人みたいなんです」
「キトウ呉服店って言うと・・・」
「あなたと菊野さんが関わった事件の木頭の店です。親兄弟が死んで、評判が落ちた長男夫妻は、店を閉めたんですけど、菊野さんの事故の前にお店を出入りする夫妻と事故を起こした女性の三人が一緒にいたのを見たって言う人がいたんです」
「それで・・・」
「だから、あの事故は、偶然じゃなくて、菊野さんだとわかって轢いたって噂なんです」
国也は、少し考えた。
「それはないと思いますよ。あの女性は、精神異常だったみたいですから」
「そうですかね。私も菊野さんが恨まれて轢かれたなんて思いたくないですから・・・」
「それじゃあ、お邪魔しました」
挨拶をしてなつ枝の家を出た国也は、二つの情報を土産にルートを済ませて帰って行った。
店に帰った国也は、ルートの荷物を整理してから散歩に出た。いつものコースで、乃菊とも行ったところである。
乃菊と手を繋いで歩いた道。そして、辿り着いた観覧車の見える公園のベンチに座って考え込む国也。
「やっぱり乃菊ちゃんが狙われたのかもしれない。でもそれより、今は、乃菊ちゃんが元気にならなければ、何も考えられない・・・」
一人景色を見ているのか、いないのか。前を見たり、頭を抱えたり・・・。
カシャッと音がする。小さな女の子が、おもちゃのカメラで国也を撮ったらしい。
「おじさん、頭痛いの、病気なの?」
「違うよ、おじさんは元気だよ」
こんな小さな子なら、おじさんと言われても腹が立たない。
「飴あげるから元気出して」
小さな手で持っている飴玉を、国也に渡す女の子。
「ありがとう・・・」
国也は、手のひらの飴玉を眺める。
「まいちゃん、もう帰りましょ」
お母さんが、女の子を連れて行く。
「ばいばい、おじさん。元気でね・・・」
国也は、ハッとする。遠い昔、同じような場面に遭遇した気がする。いや、その時の光景が、はっきりと思いだされた。
「あの子は・・・」
急いで家に帰る国也。
「確かに神奈川だった・・・」
「おかえり」
雲江が声をかけるが、国也は、そのまま二階へ上がり、乃菊の部屋へと直行した。
またカラーボックスの中を探す。
「きっとあるはず・・・」
数冊あるアルバムを開いてみる。
「これかな・・・」
国也が手にしたのは、一番古いアルバムである。
乃菊の赤ん坊の頃から、幼児の頃の写真が何枚も貼ってある。
「あった!」
国也の目から涙がこぼれる。
「ずっと前から、僕のことを知っていたんだ・・・」
そこにあったのは、国也の写真だった。
幼い乃菊の写真の中に、どうして国也の写真があるのか?
それは、乃菊が忘れていると言って怒っていた本当の理由。そう、国也がやっと思い出した乃菊との最初の出会いだったからだ・・・。




