乃菊の足跡
大人少女23のメンバーと別れて、一人歩いて駅へ向かっている国也。
「時々、乃菊ちゃんもこの道を歩いていたんだろうな・・・」
と思うのも、乃菊が時々仕事の帰りに、駅までの道のりの途中にある和菓子屋のお菓子を土産に買ってくるからだ。
「あそこだ」
国也は、その和菓子屋に辿り着いた。
「えっ!」
店のガラス窓に、商品メニューと一緒に、和菓子屋のポスターらしくない写真が、数枚貼ってあった。
「こんなところに、乃菊ちゃんが・・・」
事故の前・・・。
「そうだ、この前、お菓子屋さんのポスターの写真撮ったよ」
「片口屋?」
「そう、ヌード写真だよ」
「ばーか。お菓子屋さんでそんな写真撮るわけないじゃないか、今度は、騙されないよ・・・」
「ふーん。見て驚くなよ」
・・・。
「これだったのか・・・」
国也は、乃菊が写っているポスターを眺めて歩く。そしてその中の一枚の前で、腕を組んで立つ。
「うーん・・・」
その様子に気づいた店員が、外へ出て来た。
「乃菊ちゃんのファンの方ですか?」
「あ、いいえ、あ、そ、そうです・・・」
「そうですよね、そんな気がしました」
「よく来るんですか?」
国也は、聞いてみた。
「お仕事帰りに寄ってくれてました。駅にも支店があるんですけど、本店の方が商品が多くて、それが楽しみだからって言ってました」
何だか店員の表情に変化が・・・。
「乃菊ちゃんとよく話すんですか?」
「はい、いつも私がいる時に来てくれて、お話もたくさんしてくれるから、うちの商品のモデルになってくれたことが、とても嬉しかったんです」
そう言いながらも、涙を流している店員。
「心配してくれてるんですね、ありがとうございます。彼女は、必ず意識が戻って、ここに来ますよ。いつも喜んで食べてましたから・・・」
店員が不思議そうな顔をする。
「あのお・・・、もしかして、週刊誌に載っていたOさんじゃないんですか?」
「えっ、いえ、ただのファンです。あの、これって服着てますかね?」
国也は話しをすり替える。そのポスターは、合成のような光線で隠れているが、その向こうの乃菊は、どう見ても裸のように見える。
「さあ、どうでしょう。ただ、撮影は、女性スタッフだけで行われたって聞いてますので、ひょっとしたら・・・」
「だからヌードを撮ったって言ってたんだ」
独り言のつもりで言っていた国也だが、店員は聞き逃さなかった。
「やっぱり、乃菊ちゃんの世話をしているOさんですよね!」
国也は、仕方なく頷く。
「このポスター、差し上げましょうか?」
「いいんですか?」
「外に貼っておいたら、何枚も盗まれちゃって、今はこうして内側に貼ってあるんですよ。予備がありますから、待っててください」
店員が中へ入って行く。
「お世話になっております。社長の片田です」
しばらくして、店員だけでなく、社長も出て来て、名刺を国也に差し出す。
「大野さんでしたよね。一度田沢さんのところへお願いに行った時、乃菊さんと一緒のところを拝見しました」
「そうでしたか・・・」
「今、乃菊さんのおかげで、すごく商品の方も売れ行きが右肩上がりで、とても感謝してます。だから、早く良くなってほしいと、店の者全員が思っています」
「ありがとうございます」
「どうぞ、これ持って言ってください」
店員がポスターを、社長が和菓子を国也に渡した。いつのまにか、周りに店員や客が集まっていた。
「また来てください」
「良くなるように祈っています」
国也は、深々と頭を下げ、店から離れて行った。
「きっと乃菊を甦らせてやる。こんなに乃菊を待っている人たちがいるんだから・・・」
国也は、涙を流しながら歩いて行った。
その日の夜。
「母さん、土産・・・」
国也は、雲江に和菓子を渡した。
「じゃ、お茶を入れるよ。あれ、それは・・・?」
「ああ、これ、乃菊ちゃんのポスター。和菓子屋さんで貰ったんだ」
「じゃ、私に頂戴!」
「駄目だよ、僕の部屋に貼るんだから!」
「私の部屋に貼る!」
二人とも譲らない。
「何枚あるの?」
国也は、ポスターを開いてみる。
「あっ、同じのが二枚ずつある・・・」
「何だ、それじゃあ喧嘩することないね」
「良かった・・・」
雲江も乃菊が恋しいんだろうな、と国也は思った。
とにもかくにも、二人の部屋の壁に、乃菊のポスターが三枚ずつ貼られた。
親子である・・・。




