出口は一つ・・・?
何もない霧のかかったような世界。・・・乃菊は、あてもなく歩く。
「おじさん、私を見つけて・・・」
かなりの時間歩いているように思えるが、乃菊は、疲れを感じない。
「誰かいる!」
乃菊は、人影を目指して走り寄る。
「すみません、家に帰る道を教えてください」
大きな石の上に座る小男に、乃菊は、話しかける。
「何言ってるんだい。お前様の行き先は、花安天だろ。早くあの門を開けて行きなさい」
「嫌よ、私は、おじさんのところへ帰るんだから」
小男が笑う。
「花安天を知らないから、生きていた世界へ帰りたがるんだ。花安天は、花畑や木の実や果物がいっぱいある、素晴らしいところなんだ。それも、選ばれし者しか行く権利がないところなんだ。過去など忘れて、さっさと行きなさい」
「だから、そんなところへいかないってば。それに私、死んでないんだもん・・・」
「何を言ってるんだ、自分の身体を見て御覧。それが生きてる者の姿か?」
乃菊は、自分の身体を見る。膝や腿に傷があり、出血している。お腹も黒ずんでいて内出血しているようだ。乃菊は、口元を拭いてみる。血がべっとりと手のひらについた。
「嘘だ!こんなの私じゃない・・・」
しかし、乃菊は、事故に遭ったことを思い出す。
「そうだよ。お前は、事故に遭い、内臓は、粉々になり、骨も折れ、脳みそも考えることも出来ないくらい出血してるんだ。残念だが、前の世界で、お前様は、即死だよ。だからここへ来たんだ」
「違う!違う!」
小男が乃菊を指さす。
「えっ!」
乃菊は、全身の力を失い、その場に倒れた。
「聞きわけのない子だ。ここへ来た時の状態に戻さなければ、花安天に行かないとは・・・」
立ち上がった小男が、大男になった。
「さ、さっき、の・・・」
倒れた乃菊は、もう立ち上がる力がなかった。大男は、乃菊の足首を掴み、引きずり始めた。
「い、や、いき、たく、な、い・・・」
しかし、抵抗することも出来ず、ただ引きずられて行くままの乃菊。
「乃菊ちゃん!」
この声は・・・?
「お、じ、さ、ん・・・」
霧の中に微かに見える人の姿は、国也である。自分を探しているんだ!乃菊は、引きずられながらも、必死で手の指を開き、国也を呼ぼうとする。
「こ、こ、よ・・・」
しかし、国也の姿は、霧の中に消えて見えなくなった。涙を流す乃菊。
「おじ、さ、ん、し、に、たく、な、い、よ・・・」
引きずられる乃菊の姿も、霧の中へと消えて行った。
国也の姿は、幻だったのか・・・。




