報告
国也は、中学生の乃菊の写真を持って、乃菊の病室を訪れた。
「乃菊ちゃん、思い出したよ、君との出会い」
国也は、乃菊の手を握って、意識のない乃菊に話しかける。
「あの時、新幹線の隣に座ったのが、君だったんだね。気づくのが遅くなってごめん」
乃菊の指を握って話しをする。
「あれから10年たったのかな。今だったら、君さえ良ければ交際したい。君さえ良ければだけど・・・」
国也は、涙を流しながら訴える。
あっという間に面会時間が終わり、病室を出る国也。扉を閉めてため息をつく。
国也は、乃菊の瞼が動いたことを・・・見逃した。
「おじさん、元気?」
廊下で亜美に出会った。
「亜美ちゃん・・・」
国也は、亜美がここにいることが不思議だった。
「どうしたんですか?私の顔に何かついてます?」
「い、いや、今日は、休み?」
「うん、だから朝から一人で電車に乗って来たの」
サングラスを外した亜美。国也は、最初に遭った頃より、亜美が、大人っぽくなり、綺麗になった気がした。
「ファンやマスコミに気づかれなかった?」
「大丈夫、慣れてるから・・・」
それでも、こうして朝からここまでやって来た亜美に、国也は、感謝する。
「もう、面会時間終わっちゃったの?」
「この時間は、今終わったところ。午後にもう1回あるから、時間があったら会って行ってくれるかな」
「もちろん、私ののぎちゃんだから、会って行きます」
「私ののぎちゃんって・・・」
「そうよ、のぎちゃんが結婚するまでは、私も恋人候補だから・・・」
「こ、恋人・・・?」
「そお、おじさんには、負けませんよ」
「負けませんよって、僕は、恋人じゃないし・・・」
「じゃあ、のぎちゃんの何だったんですか?」
「保護者だよ」
「キスしたりする保護者ですか?」
「えっ、キスは、欧米式の挨拶・・・」
国也は、亜美の誘導尋問につい余分なことを言ってしまう。
「おじさん、のぎちゃんとキスしたことあるんですか?」
「あ、いや、その、あっ、これから君は、どうするの?時間があるけど」
話しを替えられた亜美は、不満顔になる。
「良かったら、おじさんの店に連れて行ってくれませんか?」
「いいけど、綺麗なところじゃないよ」
「のぎちゃんの生活してるところを見たいんです」
「じゃあ、行こうか・・・」
二人は、目立たないように病院を出て行く。
「母さん、ただいま・・・。お客さんだよ・・・」
仕事場に入ると、雲江が一人で仕事をしていた。
「あら、あなたは・・・」
「今堂亜美です」
「知ってますよ。いつも見てるから。今日は、どうしてここに?」
「病院で会ったんだけど、面会時間が終わってて、時間があるから店を見せてほしいって言うから、連れて来たんだよ」
「そうなの、じゃあ国也が説明してあげなさい。私は、お昼の準備をするから」
「わかった・・・」
国也は、小さな職場を亜美に説明しながら歩く。
「のぎちゃん、ここで仕事してたんだ・・・」
しばらくして雲江に呼ばれた二人は、母屋へ行く。
「亜美さんは、こんなところ初めてでしょ、小さなお店で驚いた?」
雲江が食事をしながら、亜美に尋ねた。
「小さなお店ですけど、だからこそ家族なんだなって思います」
「家族?」
雲江にも国也にも、亜美の答えの意味がわからなかった。
「のぎちゃんがここにいたいのは、のぎちゃんの求めているものがあるからです。生活環境の違う私でもわかる気がするんです・・・」
雲江も国也も黙って聞く。
「お二人とここの仕事場、ここ自体が家族愛何だって思ったんです」
「母さんはともかく、僕は、乃菊ちゃんと仲良くなんかないよ」
「そうだったとしても、ここにのぎちゃんがいるのは、お二人の愛があるこの場所だからだと思うんです」
二人は、胸が熱くなってきた。
「私・・・、のぎちゃんのことが好きなんです。・・・愛してるんです。だから、のぎちゃんのことをもっと知りたかったんです」
国也は、今まで亜美を見てきて、そんな気がしていた。
「ありがとう、亜美さん。私たちも乃菊ちゃんが大好きなのよ」
食事が終わると、雲江が国也に亜美を乃菊の部屋へ連れて行かせた。
「ここだよ」
亜美が乃菊の部屋へ入った。
「おじさん、座ってください」
亜美にそう言われて、国也は、少し戸惑いながら座った。
「おじさん、何度ものぎちゃんの部屋へ来てるでしょ」
図星だった。
「と、時々だよ、呼びに来る程度・・・」
「正直に言ってください。悪いことじゃないでしょ」
「何が言いたいんだい、亜美ちゃん?」
「私、のぎちゃんとキスしたんです」
「キス・・・」
国也は、驚いた。
「でも、のぎちゃんが夢を見てて、間違って私とキスしたんです」
国也は、亜美の顔をジッと見る。
「夢の相手が誰だったのか、その時わかったんです。だから諦めようって、・・・同じユニットのメンバーであることだけでも幸せだって、そう思うように決めたんです」
国也は、次の言葉を待った。
「病院に行きましょ!」
「えっ!」
「のぎちゃん、今日、おじさんに報告してきました」
亜美が、乃菊の指を握って話す。
「おじさん、女性の気持ちがわからないみたいですね。ひょっとして女の人と交際したことないんじゃないのかな。でも、好きな人が気づいてくれないって、腹立ちますよね。あっ、ごめんなさい。また敬語になってる、私・・・」
亜美は、乃菊の指にキスをして病室を出た。
「おじさん、駅まで送ってください」
「了解」
国也は、亜美を蒲橋駅まで送って行った。




