蘇る記憶・・・前編
乃菊は、死んだように意識がない。毎日2回、返事もしない乃菊を10分間見ている国也。
「何か夢でも見てるのかな?」
包帯や人工呼吸器などで、見えるのは、閉じている眼だけである。
今、国也は、誰よりも乃菊のことを愛おしく思っている。たとえ乃菊に思っている人がいたとしても、今は、誰にも譲れない。いや、譲らない。そんな気持ちでいっぱいだった。
「大野さん、お時間です」
看護師の言葉に、病室を出る国也。
「お母さーん!」
乃菊は、花畑の真ん中にいる母を見つけて、駆け寄った。
「お母さん、何してるの?」
「お前が旅行へ行ってる間に、病室に花がないと心配だから、旅行に行けないって言い出すから、自分で摘んでたんだよ」
「私がするから、寝てなさいよ」
「ありがとう。だけどお前が・・・」
ベッドの横で眠る乃菊は、夢を見る。
眼を覚ました乃菊は、夢と同じ話しをしている。
「静夫さんに言ってあるから、ちゃんと旅行に行きなさい。学生時代の大事な思い出づくりをしなきゃ・・・」
「だから、修学旅行なんて行かないよ。お母さんのそばにいる!」
乃菊は、病室から出ることを拒んだ。
「行きなさい。行けばきっと、私の代わりに出会う人がいるはずだから・・・」
「お母さんの代わりなんて・・・」
「これからの乃菊にとって必要な人との出会い、わかるわね。お母さんの予感は、いつも当たるでしょ」
「おかあさん・・・」
「願っているわ。だから、行ってらっしゃい」
乃菊は、後ろ指をさされる思いのまま、病室を後にした。
動かない乃菊と看護師しかいない病室に、夢と記憶が漂っている。この空気を誰かが感じるのだろうか・・・?
看護師は気づかなかったが、乃菊の瞼が少し動いたように見えた・・・。
国也は、報道陣を避けるように、一般人の雰囲気を出して、総合病院の駐車場へ向かった。
「お母さん、明日から旅行に行ってくるから、お土産待っててね」
「ありがとう、気をつけてね・・・」
母親の見舞いらしい女学生が、手を振っている。
「旅行って、修学旅行かな?」
そんな光景を見て、国也は、なぜか懐かしく思う。
「そうだ!乃菊ちゃんの学生の頃の写真とかないかな・・・」
国也は、急いで家に帰る。
家に着くと、雲江は、食事の支度をしていた。
「乃菊ちゃん、どうだった?」
「うん、笑ってたよ」
「そうかい、良かったね・・・」
「ちょっと探し物をしてるから、ご飯出来たら呼んでくれる?」
「わかった・・・」
国也は、2階へ上がった。
乃菊の部屋の扉を開ける国也。
「乃菊ちゃん、久しぶり・・・」
国也は、乃菊が事故に遭ってからこの部屋に入ったことがない。いや、乃菊が元気な頃も、乃菊がいたからこそこの部屋に入って来ていたのだ。改めて乃菊の存在が、自分に必要なんだと思うのである。
「どこかにないかな?」
見回しても、そんなに家具があるわけでもない。
「ここかも・・・」
乃菊が使っていたカラーボックスの中を探してみると、アルバムが入っていた。
「これは、中学校の卒業アルバムか・・・」
クラス写真やクラブ活動、体育祭や文化祭、ところどころに中学生の乃菊が写っている。
修学旅行・・・。
「んっ!」
姫路城だ。
「あれっ?」
乃菊が、クラスメートと写っている同じ写真の中に、カメラを持って歩く男の姿が・・・。
「これは・・・」
国也だった。国也は、胡坐をかき、頭に人差し指を当て、くるくる回して考える。
「そうだ!」
この頃、確かに国也は、姫路城を撮りに行っている。
「あっ!もしかして・・・」
この写真の乃菊の制服姿に見覚えがある。
国也は、乃菊の部屋を出て、自分の部屋へ向かった。
国也は、押し入れに入っていた段ボール箱を取り出し、部屋の真ん中で開く。
「確かこの中にあるはず・・・」
段ボールの中には、撮りためた写真のアルバムが、何冊も入っている。
「姫路、姫路、これだ!」
そのアルバムを開いて見る。姫路城の門から、天守までたくさん撮ってある。
「あった!」
城壁の間から天守を撮った写真の中に入り込んでいる女学生。制服姿・・・。中学生の乃菊だ。
「この子は・・・」
確かに乃菊だったが、もっと確かな写真があった。国也は、アルバムの最後のページを開く。
「やっぱりそうだ・・・」




