生きる意志
赤いジャケットに赤いスラックス。病院の玄関を目立つ格好で入って行こうとする男がいた。
「タレントさんですか?」
報道陣が何者かと寄って来る。
「菊野さんのお見舞いですか?」
「どういう関係ですか?」
赤ずくめの男は、立ち止って言う。
「アイムソーリー、関係ないね!」
衣服は派手だが、見たこともない顔に、無関係と思い報道陣は、散って行った。
ロビーに国也がいた。赤ずくめの男最上が、それを見つけて近寄って行く。
「大野さん、久しぶりです」
「最上さん・・・」
今までになくつれない返事だと、最上は思う。
「こんなところで塞いでるだけでは、駄目でしょ」
「どうしてそんなこと言えるんです。今までなら、危ないって知らせてくれたでしょ」
「それはそうですけど、私にも事情が・・・」
「だったら、余計なこと言わないでください」
反抗的な態度をする国也だったが、それでも最上は続ける。
「乃菊さんを助けられるのは、あなただけなんですよ」
「どうして医者でもない僕が助けられるんですか?」
国也は、横を向く。
「乃菊さんには、生きる意志があるんです。だからそれをあなたが呼び覚ましてくれるのを待っているんですよ」
「どうしてそんなことが、あなたにわかるんですか?」
「あなたたちの過去を占ってみたんですよ。あなたたちは、もっと以前から縁があったと占いで出たんですよ。その縁の始まりに、乃菊さんがどうしても生きたい理由があるんですよ。だから、思い出してください」
「今度は、占いですか。思い出せって、自分には、乃菊ちゃんとの記憶なんて、浜名で出会った頃のことからしかないんですよ」
「しっかり考えてください。必ずあなたは、乃菊さんの過去に関わっているはずです。だから、あんな事故に遭っても、死なずに必死に生きようとする理由、原動力が、乃菊さんにあるんですよ」
「だけど・・・」
「あなたが気づいていない、何かがあるはずです。このままでは、乃菊さんが蘇れないんですよ。すべてあなたに掛かってるんですよ!」
「なぜ、僕なんですか?」
「二人が出会ったすべてが始まりなんです・・・」
最上の言葉に、国也は、何かをしなくちゃいけない。その何かがわからなくても、それを自分が見つけなくてはならない。・・・そう思い始めた。
「乃菊ちゃんが、僕を待ってるんですかね・・・」
「そうですよ」
「見つけたい。まだ自分が気づいていない、乃菊ちゃんとの関わりをすぐにでも見つけたい・・・」
「期待していますよ」
最上は、そう言うとすぐに去って行った。
病院の駐車場にやって来た国也は、そこで記者らしい男に遭遇する。
「憶えていますか、名古屋の病院で会った記者です。あの時も菊野さんが入院してましたよね」
「さあ、憶えていませんけど・・・」
国也は、とぼけてみせる。
「言えない事情があるんですか?あなたは、菊野さんが住み込んでるお店のご主人ですよね」
「主人ではないです。僕は独身ですし、経営者は、母ですから」
「菊野さんは、天涯孤独の身で、あなたを頼って一緒に暮らしている。すでに入籍してるんですか?」
国也は、記者を睨む。
「うちの仕事がしたくて、働いてもらってるだけです。彼女は、テレビとうちの仕事を両立したくて頑張って来たんです。余計な憶測は、やめてください。彼女に失礼です」
「でも、二人の関係は、知られたくない。そう言うことですね」
「何が言いたいんですか?」
「前にも言いましたが、私は、他の記者たちとは、違う目線で記事を書きたいんです。アイドル菊野さんではなく、あなたを慕う理由を持つ菊野さんの過去とは・・・」
「じゃあ、一緒ですね。僕もそれを追ってるんです」
「どういうことですか?」
「僕にもわかりません。頑張りますから、あなたも何かわかったら教えてください」
国也は、名刺を渡して車に乗った。
走り出す車の写真を撮り、カメラを下ろした記者は、車が見えなくなるまで眺めていた。
「大野、国也か・・・」
記者は、自分の車に乗って去って行った。




