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妹に婚約者を奪われた姉ですが、獣人皇帝からの溺愛が待っていました  作者:


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19


「――ナタリア、愛している」


 アレクセイの吐息が、言葉ごと、耳をくすぐる。

 あまりにも甘い言動に、もうナタリアは立っていることが難しくなっていた。半ばアレクセイに支えられる形で、使い物にならなくなりつつある2本の足を叱咤させる。


「愛しているよ、ナタリア。何度でも言おう。私と共に来い。人間と鼠では文化の差もあるだろう。戸惑うこともたくさん出てくるはずだ。だが必ず、私がお前を幸せにしてみせる」

「あ、アレクセイ、さま……」


 なんと答えるべきなのか。

 初めてのこと尽くしで、ナタリアは頭も舌も回らない。心臓だけが破裂しそうなぐらい鼓動を打っていて、それは、アレクセイも全く同じだった。


「……、……明後日、夜会が開かれるのは知っているか?」


 不意にアレクセイの声色が変わった。

 砂糖菓子のように甘いものから、どこか鋭さを帯びるものへ。それでようやくナタリアも、ぼんやりしていた思考がはっきりしだす。


「存じています、……こんな短い間隔で、国王陛下主催の夜会は珍しいと思っていて……」

「……本来であればな、その夜会で、私とエカテリーナの婚約を発表する予定だったのだよ」


 エカテリーナ。アレクセイの元々の婚約者。

 ナタリアははっとして顔を上げる。予想に反して、アレクセイの顔は、どこか憂いを帯びたものだった。


「しかし私とエカテリーナの婚約はなかったことになった。だが招待状も出している手前、夜会を無かったことになどできやしない。故に、私とエカテリーナのことは抜きに、夜会は夜会として開催される予定なのだが――」


 アレクセイの手が、ナタリアの頬を撫でる。尻尾はナタリアの体に巻き付いたまま。だからナタリアは、未だアレクセイから逃げることはできない。


「――お前が許してくれるのであれば、その夜会で、私とお前の婚約を発表したい」

「――……」

「ドレスやら、必要なものは全て私が用意しよう。サイズは……まぁ少しばかり合わない可能性もあるが、できる限り、お前に似合う、最高のものを見繕ってやる」

「……本当、ですか……? そんなことをしてしまえば、アレクセイ様は、本当に、私を妻に迎え入れなければならなくて……」

「本当だ。それに今さら、お前を他の男になど渡せるものか。少なくとも私は、お前の元婚約者より地位は高い。お前に見合う男だという自負はある。だからナタリア、もう一度聞かせてくれ」


 アレクセイが目を伏せた。短い沈黙があった。


「――ナタリア。私の妻になってはくれないか」


 意を決したようにナタリアを見つめ、アレクセイは静かに告げた。

 ――もう、もう、本当に、この人の言葉に偽りはないのだと、ナタリアはわかっていた。それでも唇が震える。嫌だからじゃない、嬉しい、のだ。

 ほんの数日前、自分は婚約破棄を突きつけられたばかりだった。それなのに今は――こんなにも満たされていて、


「……返事は?」


 痺れを切らしたようにアレクセイが口を開いた。


「……わ、私、は……」


 セルゲイとの婚約は家同士の取り決めだった。

 だからナタリアは、こんなふうにプロポーズされたのは初めてのことだった。なんと返せばいいのだろう。ただ一言、はい、と返事をするだけなのに。


「アレクセイ様の……妻になりたい、です……」


 ――こんな返事でよかったのだろうか。

 自分の声が遠くに聞こえるぐらい、鼓動がうるさかった。

 失望されていないだろうか。急にナタリアは不安になる。現にアレクセイは呆気に取られたようにぽかんと薄く口を開いていて――、


「……だ、だめでしたか……?」

「……だめなわけがないだろう。……あまりにも嬉しすぎると、言葉というものは出てこなくなるんだな」


 言葉と共に、止まっていた口づけの雨が再開する。

 だが今度は様子が違った。頬やら口元ばかりが執拗に狙われるではないか。その意味がわからないほどナタリアも子供ではない。伺うようにアレクセイを見つめれば、


「……目を閉じてもらえるとありがたいんだがな」

「目、っ……」

「……私の妻になることを受け入れてくれたんだ。つまり、お前も私のことが好きなんだろう?」

「っ……それは……っ……」

「好きな女とは口づけがしたくなる。まして互いの思いが一致してるとなればなおのこと。違うか? 純血の人間の世界ではそうではないのか?」

「あ、合ってます、正解です」

「それなら目を閉じて――……、……いや、その前にお前からも聞いておきたい」


 鼻先が擦れるような距離で。とろけるような甘さを孕んだ声で、アレクセイは言う。


「ナタリア。私のことが好きか?」

「っ……」

「ナタリア」

「……好きです、アレクセイ様……」

「……私もだよ」


 ――重ねられた唇は、どこまでも熱くて、これ以上なく甘かった。

 一度だけで終わるはずもなく、それから飽きるまで、二人は何度も何度も口づけを繰り返したのだった。


 

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