26.混浴。
「ふぁ~ぁ。あくびでたわ。」
新太郎が朝食を終え、部屋に戻ると、他の社員達は出払い、またひとりぼっちだった。
「一人だと退屈だな。凛さんは何してんだろ。」
新太郎が独り言を言うと、
「わぁーー!!!」
部屋に忍び込んできていた凛が新太郎の後ろで大声を上げた。
「わぁーー!」
新太郎は叫びながら振り返り、身構えた。
「あはははっ!」
「お、おぃ!あーマジでびっくりした。」
新太郎はぐったりしている。
「暇でしょ?」
「あぁ、山さんのお陰で、ぼっちだよ。」
「そんなぼっち君に朗報です!」
「はいはい、なんでしょうか。」
「山を少し登った所にね、貸し切り混浴露天風呂があるんだって!」
「はぁ。」
「はぁ。じゃなくて、行こうよ!」
「いや、混浴で貸し切りは流石に。」
「我慢できない?」
「まぁ。そもそも、タオル巻いたまま入るのはルール違反だし、見えるぞ?
見るぞ?」
新太郎は何とか混浴を諦めさせようと必死だ。
「えっ?・・・見るの?」
「あぁ、凝視する。」
「ふっふっふっ。大丈夫だよ〜!おにっ。」
「ん?」
・・・あっぶなーい!昨日由梨さんにからかわれたから、お兄ちゃんって言いかけたー!!
「ごほん!温泉のお湯、乳白色だったでしょ?新太郎くんが向こう向いてる間に、タオルとって浸かれば見えないも〜ん!」
「そう。」
「そう。じゃなくてー!」
凛は、新太郎の手を引く。
「はぁ。」
新太郎は、ため息をつきながら立ち上がった。
「まぁ、見えないならいいか。
その代わり、1メートル離れるとこ!」
「う〜。」
「約束だぞ!」
「まぁ、守れる状況なら?」
「どう言う事だよ。」
新太郎は、仕方無さそうに凛の後を歩き旅館を出た。
凛は、知っていた。
露天風呂は二人入ると1メートルも離れられない事を。
セミダブル露天風呂だと言う事を。
二人は山を上がる。
「結構登るね。整備されてて石畳の階段だけど結構辛いよ。下駄で来るんじゃなかった。」
「旅館戻るか!?」
新太郎は、目を輝かせている。
「嫌。」
「あっそ。」
「そもそもなんだけど。」
「何だ?」
「もっと嬉しそうにしてよ。美女と混浴だよ?」
「まぁ、普通ならウキウキだな。」
「はぁ。私を見てよ!」
ため息をつく凛を、新太郎は見つめる。
「いや、今じゃない。そう言う事じゃない。」
凛は新太郎を睨む。
「はいはい。努力します。」
「努力するの!?」
「・・・うん。考えてはみるよ。
俺も、このまま死ぬまで一人なら、何の為に生きるのか・・・なんて昨日寝る前に考えたりした。」
「僧侶ですか?」
「あはははっ。実は、僧侶になるかとかも考えた。」
「冗談だったのに。本気で考えてたとは。」
「おっ!あれじゃないか?」
「ほんとだ!空いてるかな?
予約制とかじゃないみたいで、行ってみるしか無かったんだよね〜。」
「空いてないといいな。」
「おい。」
凛は本気で不機嫌そうに新太郎を睨んだ。
「すまん。」
「そうだよ!縁起でもない。ここまで登るのどれだけかかったと思ってんのよー。入れなかったら叫ぶからね、私。」
「空いてるといいな。」
「よろしい。」
露天風呂の脱衣場の前までようやくたどり着いた。
「新太郎くん!空いてるよ!」
「そうだな。」
二人は、小屋の中に入り、鍵をしめた。
「ふっふっふっ。これで二人きりだな。」
凛はニヤニヤしている。
「それ、俺のセリフだから。」
「えっ?今日はそう言う感じですか?」
「いや、違うけど。1メートル!忘れんなよ。」
「まぁ。」
二人は、背を向け合い、浴衣を脱ぎ、バスタオルで体を隠した。
「もういいか?」
「う、うん。」
凛の返事を聞いて、新太郎は振り向いた。
「・・・。」
新太郎は、凛を見て固まっている。
「な、何?」
凛は恥ずかしそうにしている。
「いや、半分出てるけど。」
「えっち。」
「それ隠せないのか?」
新太郎は、目を背ける。
「だって、上を完全に隠すと、下が見えちゃうんだもん!」
・・・確かに。
新太郎は、凛を見て理解した。
「あー!!分かった!早く入ろう。」
二人は脱衣場のドアを開けて、露天風呂の前で立ち尽くしている。
「なぁ、凛さんこれ知ってたんじゃないのか?」
新太郎は、疑いの視線を向ける。
「し、知らないよ!お湯が透明なんて聞いてない!」
「ほぉ~。お湯が透明なんてね〜。
返答がおかしい事に気づくべきだった。
守れる状況ならか。」
新太郎は、凛を睨む。
「あはは。」
「風呂が二人で入ると密着するくらい狭いと言うのは知っていたと?」
「は、はい。由梨さんから。」
「なるほど、なるほど。」
「と、透明はマズイよね。
か、帰ろうか?」
凛は恥ずかしそうにしている。
「いや、入ろう。」
「えっ?」
「やられたらやり返えさないとな。」
新太郎は、悪い顔をしている。
「べ!別にいいよ!新太郎くんになら見られたって!」
バサッ!
凛は、バスタオルを放り投げると、露天風呂にダイブした。
バシャーン!
「・・・ま、マジか。今、完全に揺れてるのが見えた。」
新太郎は、少しいじめて帰るつもりだった。
「な、何してるの?早く入ってよ。
恥ずかしい思いさせたんだから!」
「いや、本当に入るとは・・・お、俺、脱衣場で待ってるから。」
「だめー!入るって言った!」
「駄々っ子かよ。」
「は!や!く!」
新太郎は、仕方なく、腰のタオルを取ると、お湯に浸かった。
「おー!!・・・状況が状況だが、これは、最高に気持ちいいな!」
新太郎は、凛を見て微笑む。
「うん!来て良かったでしょ?」
「あぁ。景色もいいし。」
「はぁ~。ふ〜。」
凛は、深呼吸をすると、新太郎に抱きついた。
「すると思ってた。」
新太郎は、動揺しながらも冷静だ。
「バレてました?」
凛は、開き直っている。
「1メートルはどうなった?」
「守れない状況・・・じゃない?」
「それは?」
「くっつきたい状況って事。」
「屁理屈もいいとこだな。」
「そう?」
「うん。せめてその柔らかいのが当たらない様にしてもらえないかな。」
「仕方ないよ。私、結構大きいし。」
「結構どころじゃないよな。
あー!!!触りたい!!」
新太郎は、煩悩を打ち消す様に叫んだ。
「ふふっ。あはははっ!
あー!触られたい!」
「何だよそれ。」
「ちょっとだけ触れば?」
「いや、ちょっとが命取りになる。」
「命取られないし。バカ。」
二人は、お互いへの思いに耐えながら、くっついてしばらく温泉を堪能した。
「のぼせてきたかも。」
「そろそろ出るか?」
「うん。私、先に出るから見ないでね。」
「これだけくっついても見られるのは嫌なのか?」
「別よ、別。」
「はいはい。」
新太郎が景色を見ているのを確認すると、凛はバスタオルを取り、脱衣場へ入っていった。
「はぁ。まったく。」
新太郎はため息をついた。
・・・平然を装ってはいたが・・・これ、どうすんだよーー!!!
新太郎は、元気になったそれを見て、心の中で叫んだ。
静まるのを待ち、新太郎が脱衣場に戻ると、浴衣を着終わった凛は退屈そうに新太郎を待っていた。
「あーやっと出てきたー!遅いよ!」
「景色が名残惜しくてな。」
「ふふっ。バレてないと思った?治まって良かったね。」
「いやーーー!!!」
新太郎は、穴があったら入りたいと心の中で思いながら叫んだ。




