25.温泉街デート。
リンリン、リンリン!
「う、う〜ん。」
新太郎は、スマホを手に取ると、目覚ましを消すと、起き上がる。
凛は眠っている。
「酒のお陰か、こんな状況でも熟睡できたな。」
しばらく体を起こしたまま、ボーっとした後、新太郎は、立ち上がりカーテンを開けた。
「まだ真暗だな。日の出、6時45分だっけ。」
新太郎がスマホを見ると、日の出まではあと10分程だ。
新太郎は、ベッドの窓の外が見える位置に座った。
「あっ。水平線が少し明るくなってきたな。凛さんも見たいかな。」
新太郎は、凛を起こそうと振り返った。
「おはよ。」
「わぁ!」
新太郎が振り返ると、凛が後ろに座っていた。
「起きてたんだ。」
「うん。新太郎くんがブツブツうるさいから目が覚めたよ。」
「それは申し訳ない。」
「私も日の出見たかったから。」
「そう。良かった。」
「あっ!見て!太陽が見えてきた!」
凛が嬉しそうに指さすと、新太郎は窓の方を見た。
「おー!すごいな!」
「うん!」
「所で、この腕は?」
凛は、新太郎に後ろから抱きついている。
「くっつくのはいいんでしょ?」
「う〜ん。嬉しいのは嬉しいけど、凛さんの事を考えると、ダメだと思う。」
「それは新太郎くんにその気が無いから?」
「うん。」
「私、ずっと諦めないかもよ?」
「諦めてくれ。」
「ひどいな〜。」
二人は、くっついたまま、朝日が昇るのにしばらくの間、見惚れた。
朝日を堪能し、朝食を済ませた二人は、向かいのホテルへと向かう。
「おはよう!」
山さんは、相変わらず、外でバスを待っている。
由梨も仕方なさそうに、震えながら山さんの隣りに立っていた。
社員達はみんな、ホテルの中にいる様だ。
挨拶もそこそこに、山さんと由梨の前を素通りし、新太郎と凛はホテルの中に入ろうとする。
「おぃ、おぃ。そこの二人。」
山さんは二人を呼び止める。
「山さん、中入りましょうよ。
旅の醍醐味とやらは理解不能ですよ?」
新太郎は、中に入りたそうにしている。
「中じゃ話せない事もあるだろ?」
山さんは、ニヤニヤと期待が滲み出た顔をしている。
「山さんのご期待には沿えて無いのでご安心を。」
新太郎は、不満気に答えた。
「な、何!?凛ちゃん!本当か!?」
山さんは、絶望している。
「えぇ。まあ。そうです。」
凛は、少し不満そうに、新太郎を睨んだ。
「全く。頑固な奴らだ。」
山さんはつまらなそうに俯くと、由梨の耳元に顔を近づける。
「どうする?さすがに昨日のでダメだとは。」
由梨も山さんの耳元に顔を近づける。
「もうネタ切れですよ。今回は諦めるしか。」
「ゔ〜ん。」
山さんは、腕を組み、思案を始める。
「全部聞こえてますし、思案始めないでくれます?」
新太郎は不満気に山さんを睨む。
「おぉ!バス来た!」
山さんは、寒かったのだろう。
バスに駆け寄り、ドアが開くとすぐにバスに乗った。
「新太郎!みんな呼んで来てくれるか?寒くて敵わん!」
「だから中にいればいいのに。」
新太郎は、文句をいいながらも、ホテルの中へ入って行った。
バスは、山さん一行を乗せ、温泉街へ向かう。
30分程走ると、温泉街へ到着した。
「よーし!とりあえず、旅館にチェックインして荷物を置くぞー。
それからは、夜の宴会まで自由行動だ!」
山さんは叫ぶと、旅館に歩いて行った。
荷物を部屋に置いた社員達は、それぞれ温泉街へ散っていった。
新太郎は、部屋に一人残された。
「俺だけ置いてけぼりかよ。」
新太郎は不満気に畳の縫い目を見つめる。
「まさかと思うけど、これ、山さんのさしがねじゃないだろうな?
みんな、ハミ子にするような奴らじゃないし・・・それとも、俺が凛さんと行動すると思い込んでるのか?
まぁ、確かに、山さんの所に来て、凛さんといた時間が一番長いけどさ。
たまには男同士で騒いだりしたいんだけどな。」
新太郎は、一人、愚痴が止まらない。
「とりあえず、温泉街ぶらついてみるか。」
新太郎は、立ち上がり、部屋に置かれた浴衣に着替えると、下駄をはいて部屋の入り口の戸に手をかけた。
ガチャ。
「わぁ!」
新太郎がドアを開けると、凛が立っていた。
「びっくりした〜。」
凛も突然ドアがあいて驚いた様だ。
「俺も。」
「あはははっ!」
二人は笑い合った。
「・・・。」
新太郎は、凛を見つめて停止している。
「何?見過ぎじゃない?
もしかして、浴衣姿に見惚れた?」
凛は冗談めかしく笑う。
「うん。」
「えっ?そうなの?」
「うん。似合ってる。」
「や、やけに素直だね。」
「可愛いすぎて驚いたから。」
「バカ。」
凛は、照れて俯いた。
しばらく二人は黙っていたが、凛が顔を上げる。
「ねぇ、一人でしょ?」
「あぁ。まさか!!凛さんが知ってるって事は!」
「山さんよ。新太郎が一人だろうから、凛ちゃんいってやれ!ワハハハ!って笑ってた。」
「まだ粘るのかよ。」
新太郎は呆れている。
「まぁ、せっかくだし、一緒に温泉街見に行こうよ。」
「そうだな。」
凛は、楽しそうに、新太郎の前を歩いた。
温泉街に出ると、店が沢山立ち並び、活気がある。
「わぁー!すごい!ワクワクするー!ねぇ!早く!」
凛は、自然に新太郎の手を掴んだ。
新太郎は、戸惑いながらも、凛の手を握り返し、一緒に歩いた。
「足湯だー!」
凛は足湯を見つけると、新太郎の手を引く。
「そんなに急がなくても足湯は逃げないぞー。」
新太郎は、ブツブツいいながら、首輪をつけられた犬のように、凛について行く。
二人は、足湯に足をつけた。
「温かいね。」
「そうだな〜。」
新太郎は、なんだかんだ楽しいなと、空を見上げた。
「ねぇ、次はどこ行く?」
「何があるんだ?」
「あ〜、これ、地図だよ。」
凛は、カバンから温泉街マップを出すと、新太郎の前に広げた。
「おぉ!射的とかあるんだ。」
「射的したいの?」
地図を見るのに夢中になっていた二人が、お互い顔を見合わせると、顔の距離が近い。
「・・・キス・・・する?」
凛は、新太郎を見つめたまま呟く。
「し、しない。」
新太郎は慌てて顔を反らした。
「ちぇ〜。」
「なぁ、凛さん、昨日からどうしたんだよ?」
「う〜ん・・・色々とあるんだけど、由梨さんに言われたんだ。
過去の事、忘れるのはダメだと思うけど、幸せになったっていいんだって。」
「もしかして、凛さんの心に決めた人と言うのも、俺と同じ様な理由なのか?」
「そう、かな。少し違うかもだけど、結果、傷つけてしまったと言うのは同じかな。」
「・・・そうか。」
「新太郎くんも、これから幸せになったっていいと思うんだ。」
「そうかもしれないな。でも、俺、自分を許せなくてさ。
俺も山さんに言われた。
少しづつでも、自分を許していけるって。でも、今はまだ、許せない。
いつか許せるんだろうか。」
「がんばれ。」
凛は、新太郎の頭を撫でた。
「凛さん。」
「なぁ〜に?」
凛は、新太郎の頭を撫でながら微笑む。
「こうやって、凛も良く俺の頭を撫でてくれたんだ。」
「そ、そうなんだ。
今カノの前で前カノの話はやめて頂けますか?」
「おぃ。」
新太郎は、凛のメンタルの強さに呆れている。
「そろそろ行こうよ!射的!」
「そうだな。」
二人は、足湯を出て歩き出した。
「足湯、失敗したな。」
「うん。足が寒い。」
「タオル持ってきてたら良かったな。」
「そうだね。足についてたお湯が氷になってるんじゃ。」
「あはははっ!それは言い過ぎだろ。」
「それぐらい寒いのー。」
少し震えている凛を見て、新太郎は凛の手を引いた。
近くのベンチに座ると、凛を隣りに座らせた。
「何?」
凛は不思議そうにしている。
「キャッ。」
新太郎は、凛の足を持ち上げると、自分の膝の上に乗せた。
驚いている凛の足に、着ていた上着を脱いで巻いた。
「温かいけど、新太郎くんが寒いよ。」
「女の子は冷え性なんだろ?」
「それはまた、前カノからの情報でしょうか?」
「つべこべ言わず、少し温めろ。」
「はぁ~ぃ。」
凛は嬉しそうにしている。
しばらくすると、凛の震えが止まった。
「温まった!じゃあ射的いこー!」
「はいはい。」
新太郎は、上着に袖を通しながら、楽しそうな凛を追いかけた。
パンッ!
「やった、やったー!」
新太郎は、凛が欲しがったクマのぬいぐるみを見事射抜いた。
店主が差し出すぬいぐるみを受け取ると、凛は嬉しそうに抱きしめた。
「始めてのプレゼント、大切にするねー!」
「大げさな。」
新太郎は、茶化しながらも、喜ぶ凛をみて嬉しそうにする。
「じゃあ、次は私ね!」
凛は、店主にお金を渡し、鉄砲を構えた。
パンッ!
「・・・。」
パンッ!
「・・・。」
パンッ!
「もー!!全然当たらないよ!」
凛は不機嫌そうにしている。
「あはははっ!」
新太郎は、笑いながら、凛の背中に近づき、鉄砲に手をかける。
「まず、この先を狙いに合わせるんだよ。」
新太郎は、無意識に凛の頬に自分の頬を当て、狙いを合わせる。
「あの〜。」
凛は、真剣な新太郎の隣りで上の空だ。
「ん?」
新太郎は、凛の顔を見た。
「あっ。」
我に返った新太郎は、凛から離れる。
「ご、ごめん。」
「いいから、ちゃんと教えてよ。」
凛は、鉄砲を再び構えた。
新太郎は、凛の体を支えながら、もう一度凛に頬をあてると、狙いを合わせる。
「今だ!」
凛は、新太郎に言われるまま、引き金を弾いた。
パンッ!
「やったー!」
凛の弾丸は、カエルの貯金箱を射抜いた。
「おぉ!やったな!」
「うん!」
凛は店主からカエルの貯金箱を受け取ると、嬉しそうにはしゃぐ。
「はい!」
「ん?くれるのか?」
「うん!」
「あ、ありがとう。」
「もっと嬉しそうにしてよー。」
凛は頬を膨らませてスネている。
「ごめん、ごめん。大切にするよ。」
「うむ、我らの将来のため、沢山貯金をしたまえ。」
「御意。」
「あはははっ!」
二人は、楽しい時間をとても幸せと感じた。




