24.山さん本当にやりすぎです。
「えっ!?」
部屋のドアを開けて、奥へ進むと、新太郎と凛の想像していた物とは全く違う部屋が用意されていた。
二人は驚愕し、固まる。
「せ、狭いな。」
新太郎は、凛を見つめる。
「想像と違うね。」
「あぁ。」
二人は、ベッドが2つ並ぶ寝室と、ソファーの置かれたリビングがある、そんな部屋を想像していた。
「しかも、ベッド小さっ!」
新太郎は、ベッドの小ささに気付いた。
「・・・だね〜。」
こ、これは・・・恐らくセミダブルベッド。
キングとまでは言わんが、せめて、せめて!ダブルベッドにしてくれよー!
新太郎は心の中で叫んだ。
お、恐ろしいわ、元刑事。
まるで犯人を追い込むかの様に。
・・・あの日、山さんの家に行った日から全ては計算されていた?
私は少なくとも、あの日、少しはその気にさせられた。
まず、山さんは、私の思考の中心を、山さんと由梨さんの企みから、お兄ちゃんに伝えるか伝えないかに移した。
それで警戒心を・・・。
しかも酔いも回って、思考が落ちている所に、由梨さんから別のホテルに誘導された。
あの時、山さんから言われていれば、私達は恐らく警戒していた。
そもそも、山さんは受付をする様な人じゃない。
いつもの感じなら、受付は由梨さんがしていたと思う。
そこで不審に思うべきだった。
恐らく、二人は入念に打ち合わせをしていたのね。
・・・つまり、これからは由梨さんも警戒しないといけないと言う事。
ここまでするなんて・・・おせっかいにも程があるわよ!
凛は、固まったまま考え込んでいた。
「なぁ、なぁ!凛さん?」
凛は新太郎に話しかけられているのにようやく気付いた。
「あっ、ごめん。考え事してた。」
「そう。とりあえず疲れたし座ろう。」
「そ、そうだね。」
二人は、座る所も無く、ベッドに並んで座る。
ふと凛は、カーテンを見た。
「そう言えば、景色いいのかな?」
凛は、立ち上がり、カーテンを開けた。
「な〜んだ。真暗。」
窓の外は恐らく海が広がっているのだろう。
真暗な暗闇が広がっている。
「あー!!」
と、凛が突然叫んだ。
「新太郎くん!」
凛は怒った顔で外を見ている。
「どうした?」
窓の外を指さす凛の横に、新太郎も立つと、凛の指さす先を見た。
「げ。」
二人の視線の先には、向かいのホテルの窓際に立つ、山さんと由梨の姿があった。
二人はこちらに気付いているようだ。
「おっ!二人でこっちを見と
るぞ!
まぁ、本当に。私達の頑張りが報われたわね〜!
とか話してんじゃないか?」
「あはははっ!何それ〜。
でも、言ってそう。」
バサッ。
新太郎は、カーテンを閉めた。
「あの二人にこれ以上いい思いはさせないぞ。」
「あはははっ!そうだね。」
凛と新太郎は、再びベッドに座った。
「驚きの連続でなんだか酔いも冷めたな〜。」
凛は、楽しそうに天井を見上げる。
「そうだな。とりあえず風呂はいる?」
「そうだね。」
「じゃあ先にどうぞ。」
「う、うん。ありがとう。」
凛は、カバンから着替えを出すと、洗面所へ入っていった。
ガチャ。
再び洗面所のドアが開くと、凛が顔を出した。
「覗くなよ。」
「覗くか!」
新太郎は、焦った様に答える。
「なんか怪しい〜。」
凛は目を細めながら、洗面所のドアを閉めた。
「はぁ。」
新太郎は、一人になるとため息をついた。
「凛さんの事、正直な所、好きなのかもしれない。
でも・・・それはきっと、凛に似てるからだと思う。」
新太郎は、ブツブツと一人で呟く。
凛は気を使ったのか、すぐに風呂から出てきた。
新太郎も、さっとシャワーを浴び、風呂を出た。
凛はテレビを見ていた。
「あれ?早いね。」
「あぁ、なんか疲れてるのか、早く横になりたくて、シャワーだけ浴びた。
明日は温泉だしな!」
新太郎は温泉を楽しみにしている様だ。
「そうだね〜。温泉、楽しみだね!」
「あぁ、楽しみだ!」
二人は笑顔で見つめ合った。
「な、なんか喉が渇いたな。」
見つめ合うのを回避しようと、独り言のように呟くと、新太郎は、備え付けられた冷蔵庫に気付いて、開けてみた。
「おっ!酒がある!」
「まだ呑むの?」
凛は軽蔑の視線を送る。
「たまにはいいだろ?」
新太郎は、嬉しそうに酎ハイの缶を手に取ると、凛の隣りに座った。
カチャ。
ゴクッゴクッ。
「かぁ〜!」
美味しそうに酎ハイを流し込む新太郎を凛は少し羨ましそうに見ていた。
「ん?冷蔵庫にまだあったぞ?」
「ちょっとちょうだい。」
凛は、新太郎の酎ハイを奪い取った。
「おぃー。」
「いいじゃん!」
ゴクッゴクッ。
「あー!美味しー!」
「呑まないんじゃなかったのかよ?」
「横であんなに美味しそうに呑まれたら。」
「あぁ、まぁ、気持ちは分かる。」
「だよね〜。」
ゴクッゴクッ。
「おぃ、俺の!」
「あはははっ!まだあるんでしょ?」
凛は笑いながら、新太郎に酎ハイを返した。
「めっちゃ減ってるし。」
新太郎はさみしそうに酎ハイの缶を振る。
ゴクッゴクッ。
「あ、もうない。」
新太郎がもう一本冷蔵庫から取り出すと、凛がまた奪い取る。
そんなやり取りが続き、二人で4本呑み終わった。
「あ〜!いい感じにほろ酔いだ。
これで良く寝れそうだな。」
「ふふっ。もしかして、私と寝るの緊張してたの?」
「そりゃぁそうだろ。凛さんは俺と同じベッドで寝るの何とも思わないのかよ?」
「何とも思わないと言えば嘘になるけど・・・バスでも一緒に寝た仲だし。」
凛は恥ずかしそうに俯いた。
「・・・。」
新太郎も思い出して、恥ずかしそうに俯いた。
「よし!寝ますか!」
ドンッ!
凛は、立ち上がり、ベッドにダイブした。
「そうだな。」
新太郎は、静かに凛の隣りに横になった。
「・・・肩、当たりますな〜。」
凛は照れくさそうに言う。
「そ、そうだな。」
・・・そりゃ肩も当たるだろ。
ベッド小さいんだよ!
新太郎は、ドキドキが止まらない。
バサッ。
凛は、天井を見ていた新太郎の方を向いた。
「なんかさ、中途半端じゃない?」
凛は新太郎を見つめる。
新太郎は凛の方へ頭だけ向けた。
「何が?」
「この距離感だよ。」
「ギリギリ大丈夫なんじゃ?」
「そのギリギリが嫌。」
「ど、どうすれば?」
「おりゃー!」
凛は、新太郎に抱き枕に抱きつくの様に、腕と足を回した。
「おぃ。」
新太郎は、冷めた目で凛を見ている。
「どう?」
「どうって。近い。」
凛の顔は、新太郎の顔と数センチしかあいていない。
「む〜。美女がこんなにアピールしてるのに。えいっ。」
「んー!!」
凛は、新太郎に突然キスをした。
新太郎は、口がふさがったまま、声にならない叫びをあげる。
「ハァハァ。ちょっ!ちょっと待て!」
ドンッ!
新太郎は焦って凛から距離を取ると、ベッドから転がり落ちた。
恐る恐る、新太郎は床から這い上がる。
「なぁ、何で?」
「ん?何でって・・・好きな人以外にあんな事しませんけど。」
凛は、恥ずかしそうに俯く。
「なぁ、凛さん。俺さ、凛さんの事、多分好きなんだ。」
「本当に!?」
凛は嬉しそうに新太郎を見つめる。
「でも、前に話しただろ?
だから、凛さんとそう言う関係にはならない。」
真剣な顔をして新太郎は凛を見つめる。
「そう・・・だよね。ごめん。
・・・もうしないから、ここへきたまえ。」
凛は、自分の隣りをトントンとたたく。
「約束してくれよ?俺だって男なんだ。
こんな状況、普通なら我慢できないんだよ。」
新太郎はブツブツ言いながら凛の隣りに戻った。
「別に我慢しなくていいし。」
凛は不満気に呟くと、新太郎に腕と足を回した。
「おぃ、しないんじゃなかったのか?」
「キスはね。」
「だ、だまされた。」
「えへっ。」
・・・可愛い。可愛いすぎる!
しかも、腕にものすごく柔らかい感触が!
あーーー!!!
新太郎は、必死で目を強く瞑った。
「む〜。怯えた子犬みたい。」
凛は頬を膨らませてスネている。
「もう寝よう。頼む。」
「やだ。」
「・・・凛さんさ、心に決めた人がいたんじゃないのか?」
「・・・まぁ、そうなんだけど。」
「じゃあ、寝よう。」
バサッ。
油断した凛が、腕と足を緩めると、新太郎は、凛に背を向けた。
「あー!ずるい!」
「・・・。」
新太郎は、凛を無視して目を瞑った。
「寂しい。」
「こっち向いてよー。」
「ねー。」
凛は、諦めない。
「おっ!おぃ!凛さん!」
凛は、新太郎の背中に抱きついた。
「はい、凛です。」
「・・・ダメだって。」
「もぅ!最終手段!」
凛は、新太郎の下半身に手を伸ばそうとした。
バサッ。
新太郎は、凛の手を握ると、凛の上に乗った。
「もう無理だ。」
新太郎は、凛の胸に触れて、唇を重ねた。
「えへっ。私の魅力に耐えられなくなった?」
凛は、新太郎を見つめる。
「えっ?」
新太郎の目は潤み、凛の顔に涙が一粒堕ちた。
「ご、ごめん。」
凛は、反省した表情で謝り、新太郎から顔を背けた。
新太郎は、凛に触れていた手を離し、凛の胸元で俯く。
「・・・ごめん。好きだ。凛さん。
でも、やっぱり、傷つけた凛の事を忘れられない。
俺の事は忘れて欲しい。」
「忘れるかは分からない。
でも、今日は大人しく寝るね。
新太郎くん、ごめんなさい。」
「俺も、ごめんなさい。」
新太郎は、凛の隣りに仰向けに寝た。
「でも、くっついて寝るのはダメ?」
「大人しく寝てくれるなら。」
「ありがとう。」
凛は、新太郎に腕を回し、静かに目を閉じた。




