23.山さんやりすぎです!
昼食を終えて、新太郎達はバスに戻ってきた。
自然と、さっきまで座っていた席にみんな座る。
凛も、何事も無かった様に、新太郎の隣りに座った。
しばらくすると、山さんが両手に大きなビニール袋を持って戻ってきた。
バスの通路から、新太郎と凛を見て、山さんは満足気な顔をすると、
両手のビニール袋を高く上げた。
「宴会まで我慢しようと思ったが、無理だ!みんな!呑みたい奴は呑めー!」
山さんが叫ぶと、後ろの方の席から社員達が駆け寄る。
「さっすが山さん!」
大河は待ってましたとばかりに、酒の缶を3本どかかえ、食べ物を持ち去る猫の様に、後部座席へ消えていった。
「ワハハハ!やっぱりこれがないとなー!」
嬉しそうに缶を握る山さんを、由梨は不満気に見つめる。
「あんまり飲み過ぎないで下さいよ?」
「わ、分かっとる。」
山さんは、由梨には頭が上がらない様子だが、躊躇なく酒を流し込む。
「くぁ〜!」
幸せそうな山さんを見て、なんだかんだ、由梨も楽しそうだ。
山さんはご機嫌で、凛と新太郎を見た。
「どうだ?」
山さんは、凛に酒が入った袋を差し出す。
「じゃ、じゃあ。」
凛は、カクテル風の缶を選んだ。
缶を開けて、凛はゴクッと一口呑んだ。
俺の分も取ってくれよと言わんばかりに凛を見つめる新太郎に、凛は自分の一口呑んだ缶を差し出した。
「はい。」
「えっ?」
戸惑いながら新太郎は缶を受け取った。
・・・こ、これは。
関節キスになるけど・・・凛さんは何を考えてるんだ?
「呑まないの?」
戸惑う新太郎に、凛は追撃する。
「あ、いや、呑む。」
新太郎は、気にしない事にしてゴクッゴクッと、酒を流し込む。
「あー!うまい!」
「あはははっ!美味しいよね、これ。」
「うん。」
新太郎が手に持っていた缶を奪い取り、凛はまた缶に口をつけた。
そんな凛を見つめて、新太郎はドキッとした。
凛は、この後も、山さんから一本づつしか缶を受け取らずに、新太郎と交互に呑むのを続けた。
・・・これは一体。
新太郎は、戸惑いながらも、いい感じに酔いが回りだした。
「あ〜、酔ってきた。眠くなってきた。」
新太郎は、凛に甘えた声で報告する。
「何〜?酔ったアピールしても、お触りとかはダメだよ〜?」
凛も酔っぱらっている様だ。
「大丈夫!俺は凛以外触らない!」
新太郎は、酔いながらも、決意は揺るがない。
「私も凛だよ〜?」
「・・・じゃぁ。」
新太郎は、飲み過ぎたのか、凛にしがみつく。
「・・・バカ。」
凛は小さく呟くと、寄りかかってきた新太郎の頭を優しく撫でた。
「り、凛!?」
新太郎は、俯いたまま呟くと、眠った。
「スー、スー。」
「寝たしー。もぅ。少しドキドキしたじゃん。」
凛は、しばらく新太郎の頭をなで続けたが、ウトウトとして眠りについた。
その様子を横目で見ていた山さんと由梨は、嬉しそうに微笑み合った。
気持ち良さそうに眠る山さん一行を乗せたバスは、走り続ける。
窓からゆうひが見える海岸線。
誰一人、景色を見ていない。
由梨は、一人、水平線に沈む夕日を眺めていた。
「この景色を見ないなんて勿体ない。
まったく、この人は。」
「ん?んん?グー。グー。」
寝ぼけてまた眠る山さんを由梨は微笑みながら見ていると、バスが停車する。
「あら、着いたのかしら?」
プシュー。
「お疲れ様でした。」
バスのドアが開く音がして、運転手が立ち上がり、バスを下りる。
新太郎と、凛は目を覚ました。
「えっ?ご、ごめん。」
新太郎は、凛を抱き枕の様に抱きしめている事に気付き、凛から離れた。
「う、うん。」
いい感じで酔いも覚めていて、二人は恥ずかしそうに目を反らし合う。
「よーし!お前ら!起きろーー!!」
山さんは、意気揚々と立ち上がり、満足気に眠る社員達に叫んだ。
社員達は、山さんの叫びに、ピシッと立ち上がり、寝ぼけているのか、周囲を見回している。
「ワハハハ!なんだ?寝ぼけとるんか?これから宴会だぞ!気合入れろー!」
ハッと思い出した様子の社員達は騒ぎ出した。
「宴会だーー!」
山さん一行は、バスの運転手にお礼を言うと、歩き出す。
「店はこの先だ!先に歩いといてくれ。」
山さんは、運転手と打ち合わせしている様だ。
凛が地図を見ながら、一行は店へと向かった。
「カンパーイ!!」
山さんは、郷土料理が有名な居酒屋を予約していた。
宴会は、大盛り上がりで、店から少し注意されてしまった程だった。
「あ〜!楽し、かっ、た。」
大河は、日頃のプレッシャーから解放されたからか、珍しく酔いつぶれていた。
「大河くん、大丈夫?」
由梨は、心配そうに背中をさすった。
「ワハハハ!大河、頑張って歩けよ!」
山さんは、大河に肩を貸す。
「あざーす!」
ヨレヨレと歩きながら、一行は予約したホテルへと向かった。
ホテルのフロントにつくと、大河を支えながら山さんがフロントで受付をしている。
その様子をボーっ見ていた新太郎と凛に、由梨がニヤニヤしながら近づく。
「新太郎くん、凛ちゃん。」
「はい〜?」
二人はほろ酔いでソファーに座っている。
「申し訳ないのだけど、予約した時に、部屋がね。」
「ん〜?」
「二人は向かいのホテルに部屋をとったから、そこに泊まって欲しいのよ。」
「えっ?あ、はい。」
二人は、不思議そうにしながらも由梨が差し出した書類を手に取る。
「明日は、朝10時にこのホテルのフロント集合ね。向かいのホテル、8時から朝食バイキングがあるから。」
「ありがとうございます。」
新太郎と、凛は立ち上がると、少しフラつきながら、向かいのホテルに向かった。
その後ろ姿を、由梨はニヤニヤと見送る。
その後ろには、フロントからチラチラと二人を見る山さんの姿があった。
新太郎と、凛は向かいのホテルに入り、フロントで由梨に渡された受付表の様な物を渡した。
「ご宿泊、ありがとうございます。
では、ゆっくりとおくつろぎ下さい。」
受付表を渡した凛は、差し出された部屋の鍵を受け取る。
「ありがとうございます。」
「・・・。」
「・・・。」
フロントから新太郎と凛は離れない。
「な、何か?」
フロントに立つ女性は、不思議そうに二人を交互に見た。
「えっ?鍵を。」
「えっ?こちらですが?」
「えっ?」
「・・・ひ、一部屋!?」
新太郎と凛は、声を合わせて叫んだ。
「は、はい。ご予約されているのは一部屋ですが?最上階ですので朝の眺めは最高ですよ!水平線までしっかり見えます!明日の日の出は6時45分頃ですので、是非、日の出をご覧になって下さい!」
受付の女性は、自信たっぷりに部屋の良さをアピールしてくる。
「そ、そうなんですね。た、楽しみ〜。」
凛は困った顔で答える。
・・・部屋がどうとか、もはやどうでもいいんだよ!!
新太郎は頭を抱えた。
「ま、まぁ、仕方無いよ。いこっ。」
凛は、山さんに呆れながらも、新太郎の服の服の裾を掴むと、エレベーターの方へ歩き出す。
「えっ?いいのかよ?」
新太郎は、焦っている。
「今更どうしょうもないでしょ?
とりあえず座りたいし、早く部屋行こう。」
凛は、少し顔が赤い。
「り、凛さんがいいなら。」
新太郎は、今頃、山さんと由梨がニヤニヤと喜んでいるのだろうと思うと、不満気にため息をついた。




