21.元刑事は伊達じゃない。
バサッ。
ヒラヒラと赤い葉が地面に堕ちる。
新太郎が来て半年程経った。
山さんはあれこれ作戦を練り、新太郎と凛をくっつけようと努力したが、未だに実ってはいなかった。
「お疲れ様!」
プレハブに戻ってきた社員達を山さんは労う。
「お疲れっす!」
「みんな揃ってるな?」
「えっ?はい。」
大河は周りを見渡し、全員揃っている事を確認する。
「重大発表だ!」
山さんは嬉しそうに叫ぶ。
社員達は、仕事の内容だと思っているのか、身構えている。
「山さん!まさか、新しい作物に挑戦とかっすか?」
社員一同の不安を一身に背負い、大河は問いかけた。
「ワハハハ!それも検討中ではあるが・・・もうすぐ収穫も終わりだ。
みんな頑張ってくれたおかげで、今年はかなりの利益が出た!」
「おー!まさか!飲み会っすか?」
大河の顔は見る見る明るくなる。
「いや、驚け!来月、初の社員旅行を計画する事にした!」
「・・・。」
一瞬場が静まる。
「おーーー!!!山さん最高ーー!!」
社員達は嬉しそうに叫ぶ。
「ちょ、ちょっと山さん!」
凛は、嬉しそうにする山さんを睨む。
「今年は良かったけど、来年は分からないですよ?蓄えは残しておくべきです!」
不機嫌そうに言う凛を見て、社員達はしょんぼりしだした。
「ワハハハ!みんな給料はそう高くないにも関わらず、文句も言わず働いてくれてるんだ!来年の事は来年考えるわい!」
山さんは、折れる気が無さそうだ。
「ボーナスってのも考えたんだが、ボーナスと言える程は出せん!なら俺が少し補充はするが、みんなで絆を深める温泉旅行に行こうと思ってな。
どうだ?」
「賛成っす!」
大河が叫ぶと、みんなワイワイはしゃぎ出した。
「はぁ。」
凛はため息をついた。
「知りませんよ〜?二年前なんて、台風にやられて大変だったのに。」
凛は釘をさす。
「大丈夫だ!もう決めた!」
山さんはもう止まらない様だ。
大盛り上がりを見せたミーティングは終わり、それぞれ帰路についた。
「あ〜ぁ。ほんと、経理の身にもなって欲しいわ。」
ブツブツと文句を言う凛の横を、新太郎は自転車を押しながら歩いている。
「まぁ、山さんの気持ちも分からんでもない。山さんは、本当に尊敬できる人だ。」
「まぁ、そうね。来年の事は来年考えようっと。」
凛も腹をくくった様だ。
プープー。
二人がゆっくりと歩いていると、後ろから車がきた。
「凛さん。」
新太郎は、凛の肩に手を回し、引き寄せた。
「あら、ありがとう。」
凛は、少し照れている。
車が隣りに並ぶと、二人は同時に叫んだ。
「山さん!」
「お疲れ様。」
山さんは、窓から声をかけると、車を停めた。
「お疲れ様です。山さんこっちじゃないですよね?」
新太郎は不思議そうにしている。
「あぁ、新太郎、凛ちゃんを借りてもいいか?」
「えっ?別に、そもそも帰る方向が同じなだけなんで。」
「そうか。凛ちゃん、ちょっとうちに来てくれるか?話したい事があるんだ。
晩御飯も用意してもらってるし、帰りは送る。」
「え?まぁ、いいですけど。
・・・嫌な予感しかしないですが。」
「ワハハハ!まぁ、俺達夫婦から大切な話なんだ。」
「まぁ、それなら。」
凛は疑いの目を山さんに向けながらも、助手席に回る。
「じゃぁ、新太郎くん、お疲れ様。」
「あ、うん。お疲れ様。」
新太郎は、凛を乗せた山さんの車を見送った。
「大事な話・・・少し気になる。」
新太郎は、小さく呟くと、寮へと自転車をこいだ。
車は、あっという間に山さんの自宅に到着する。
「ごめんね〜突然。」
「いえ、何だか嫌な予感がするんですけど。」
凛は、恐る恐る居間へと通された。
ソファーに座ると、向かいのソファーに山さん夫婦も座った。
「・・・。」
沈黙が居間を包んでいる。
「そ、その、話って?」
凛は、恐る恐る切り出した。
「・・・凛ちゃん。」
「はい。」
いつになく真剣な顔をする山さんに凛は姿勢を正した。
「実はな・・・新太郎と話をするために、刑務所に行った時、新太郎の身の上を聞いたんだ。」
「そ、そうなんですか。」
凛は、何となく何の話か分かった気がした。
「凛ちゃん、新太郎に全部話したらどうだ?」
「・・・なるほど。元刑事は伊達じゃないんですね。」
凛は、俯いた。
「新太郎に話を聞いて、まさかと思ったが、一応調べたんだ。
新太郎だけじゃない、ご両親もずっと探してるみたいだぞ?」
「・・・。」
凛は、俯いたまま黙っている。
「すまない。ずっと話すか迷っていたんだが。」
山さんは、申し訳なさそうにしている。
「凛ちゃん、私達は子供がいないから、凛ちゃんや他のみんなも、本当に家族だって思ってる。だからいつまでだってここにいて欲しいと思ってる。
だけど、ご両親の気持ちを考えるとね。」
由梨は、立ち上がると、凛の隣りに移動して手を握った。
「私・・・私は、小さな命を奪ったんだよ?私だけ幸せになんて・・・おこがましいよ。」
凛は、由梨を見つめる。
「そんな事無い!凛ちゃんはずっと、ずっと、苦しんできたの。
忘れたらいけないとは思う。
でも、幸せになったっていいの!」
由梨は、凛を抱きしめた。
「由梨さ〜ん。」
過去を思い出した凛は、由梨の胸の中で泣いている。
山さんは、凛の様子を伺いながら話すタイミングを伺っている。
「り、凛ちゃん、いいか?
突然言い出すのもなかなか難しいだろう?だから、温泉旅行の時に新太郎に伝えてみたらどうだ?」
山さんは、恐る恐る口を開いた。
「・・・考えてみる。」
凛は、由梨の胸の中で小さく呟いた。
「よし!じゃぁ、二人きりになれるシナリオを考えんとなー!!」
山さんは前向きな凛の返事に嬉しそうにしている。
「だ、だから!考えるの!」
既に山さんの中で、伝えると言う事になってしまってる事に、凛は焦った様子で否定する。
「そうか〜?」
山さんはさみしそうな顔をしている。
「まぁ、旅行まで時間もあるし、ゆっくり考えるといいわ。」
由梨は、凛の頭を優しく撫でた。
凛は、由梨に抱きしめられながら、山さんのシナリオとやらに恐怖を覚えた。




