21.企みのデート。
「おはようございます!」
「おー!新太郎!復活したか!」
次の日の朝、新太郎はいつもの時間に出勤した。
「山さん、すいません。迷惑かけて。」
「何言っとる!大体新人はああなるんだ。気にするな!」
「は、はい。ありがとうございます。」
「凛ちゃんの看病のおかげだな!ワハハハ!」
山さんは満足気に笑う。
「山さん、俺を凛さんとくっつけようとしてますよね?」
新太郎は山さんを睨む。
「えっ?」
山さんはとぼけている。
「俺、話しましたよね?凛の事。
凛さんの過去は知らないですけど、凛さんにも思っている人がいて、俺もずっと凛を思ってます。
だから山さんの期待には応えられないですからね!」
新太郎は少し不機嫌そうだ。
「新太郎、凛ちゃんもだが、過去の事はもうそろそろ許してやったらどうだ?
お前たち二人はお互い好印象を抱いてる。それは見ていて分かる。」
「・・・それでも。俺は凛の事をずっと思い続けます。」
「・・・ま、まぁ、いい。少しづつでも自分を許していける。
きっと。
過去かどうであれ、お前たちは幸せになっていいんだ。」
山さんは、少し悲しそうに、熱く語る。
「あ、ありがとうございます。」
「所で新太郎。」
「はい。」
「お前、免許はもってたな?」
「はい、一応。お陰様で先月再取得が叶いました。ペーパードライバーですが。」
「今日は、ホームセンターに買い出しを頼みたい。」
「えっ?昨日も畑仕事、途中で抜けたのに、楽ばかりできませんよ。」
新太郎は申し訳無さそうにする。
「大丈夫だ。大河とも相談済みだ。
大河なんかは今日は休ませろって聞かなかったんだぞ?」
「そ、そうですか。
じゃぁ御言葉に甘えさせてもらいます。
で、何を買ってきたら?」
「あぁ、買うものは凛ちゃんにメッセージを送ってる。
お財布も凛ちゃんが握ってるからな!」
山さんはニヤリとする。
「はぁ。」
新太郎はため息をつく。
「またですか?」
「あぁ。だが、これは仕事だ。
しっかり頼むぞ〜!」
山さんは嬉しそうに社長室へと消えて行った。
「おはよ。元気そうね。」
山さんと入れ違いで、凛が出勤してきた。
「あ、うん。昨日はありがとう。」
「どういたしまして。」
凛はニコッと微笑えむ。
・・・その笑顔だよ。
新太郎は、凛の笑顔から目を反らす。
「ホームセンター9時からだから、しばらくゆっくりしてて〜。
私やる事済ませてくるね〜。」
「う、うん。」
何だかご機嫌な凛の背中を新太郎は見つめながら、休暇用のソファーに腰掛けた。
「こんな楽をさせてもらっていいのだろうか?」
新太郎は、天井を見上げた。
そして、数時間後。
カチャ。
新太郎は緊張した様子でシートベルトを閉めた。
「ちくしょー。軽トラかよ!」
「何かご不満?美女がこの狭い空間で隣りに座ってるんですけど?」
「いや、そう言う事じゃなくてさ。
軽トラ、ミッションだろ?
俺はてっきり山さんの車で行くものだと思ってたんだ。」
「なるほど。ミッションは難しそうだもんね。」
「う、うん。」
「じゃ、じゃあ、出発するぞ?」
「はい。」
新太郎につられて、凛も緊張している。
ウーウィーンーガタン。
「・・・。」
「・・・エンスト・・・したね。」
凛は少し不安そうにする。
「面目ない。」
「だ、大丈夫!もう一度!」
「う、うん。」
教習所に通っていたのが少し前の事もあり、2度目は上手く出発できた。
山道を窓を空けて、軽トラは走る。
「風が気持ちい〜!」
凛は楽しそうにしている。
「・・・。」
新太郎は、運転に全力で集中している。
「そうなに肩に力入れてたら疲れるよ?」
ガチガチになっている新太郎を見て、凛は笑う。
「あっ、ラジオでも聞こうよ!」
凛がラジオの電源を入れようと手を伸ばすと、新太郎は、凛の手を握った。
「えっ?」
凛は驚いた表情で新太郎を見つめた。
「すまん!エンジン音が聞こえないから。」
新太郎は、真っ直ぐ前を見ている。
凛がラジオを諦めると、新太郎は手をハンドルに戻した。
「はぁ〜ぃ。大人しくしてますよ〜。」
凛は少しつまらなさそうに、窓の外を見た。
山道を下ったり、登ったり、30分程車を走らせると、ホームセンターへ到着した。
「はぁ。畑にいるより疲れたぞ。」
新太郎は、ハンドルにおでこを乗せる。
「お疲れ様。無事に到着できて何よりだわ。」
凛は胸をなで下ろした。
「恐かっただろ?ごめん。」
「大丈夫!私が運転するよりは安全だったよ?一回、山さんに運転させてもらったんだけど、それから二度と運転させてもらえないし。」
「・・・どんな運転したんだ?」
「あはは。」
凛は照れている。
「いや、褒めては無いぞ?」
「わ、分かってるよー!」
凛は頬を膨らませて、俯いた。
「さぁ!買物いこっ!」
「スネたり笑ったり忙しいやつだな。」
「ふ〜んだ。」
凛は、軽トラをおりると、ホームセンターに歩き出した。
「お、おぃ、待ってくれよ!」
新太郎は、軽トラに鍵をかけ、急いで凛を追いかけた。
「ホームセンターでかいな〜!」
入り口の自動ドアを入り、新太郎は驚いている。
「そうだね。ここにきたら大体の物は揃うからね〜。
隣りはスーパーもあるし、ゲームセンターとかもあるんだよ!
この辺の子供は大体ここへ遊びに来るんだって〜。」
「そうなんだ。」
新太郎は、カートに手を伸ばそうとする。
「お母さーん!!」
ふと、カート置き場の隣りを見ると、小さな女の子が泣いていた。
新太郎は、心配になり、女の子に近づく。
「どうした?お母さんとはぐれたのか?」
「うん。」
小さな女の子は、新太郎が話しかけてきたのに驚いて、泣きやんだ。
「じゃぁ、お母さん呼んでもらおうか?」
凛も女の子に話しかけた。
「うん。」
「よし!じゃぁ、お姉さん達とあそこに行くよ?」
「うん。」
凛は小さな女の子の手を取り、サービスカウンターの様な所へゆっくりと進む。
新太郎も、その後ろを歩いた。
「あれ〜?サービスカウンター、誰もいないね。」
凛は、辺りを見回す。
「このボタン押したら来てくれるんじゃないか?」
新太郎は、呼び出しベルのボタンを押した。
「・・・こないね。」
「そうだな。」
女の子は、不安そうにしている。
「ねぇ、お母さんは?来てくれるの?」
「大丈夫。」
新太郎は、女の子の頭を撫でた。
「凛さん、俺達で探そうか?」
「そうだね〜。」
凛は女の子の手をまた握った。
「じゃぁ、お母さんを探しにいこー!」
凛は楽しそうに笑っている。
「ねぇ、お兄ちゃんも〜。」
女の子は、凛と繋いだ手と反対の手を新太郎に差し出した。
新太郎は、ぎこちなく女の子の手を握る。
3人は、手をつないで、ホームセンターの中を歩き回った。
「なんかいいな。」
新太郎は小さく呟く。
「子供?新太郎くんも、こうしてたかもしれないもんね。」
「うん。そうだな。」
新太郎は俯いた。
「実は、私もなんだ。
私も、小さな命を奪ったから。」
「・・・そう、なんだ。」
新太郎は、凛を見つめた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、悲しいの?」
小さな女の子は、俯く二人を交互に見ている。
「大丈夫だよ〜!お母さん、早く見つかるといいね〜。」
「うん!」
凛が笑うと、女の子は安心した様子で笑った。
「莉子ーー!!」
どこからともなく、叫び声が聞こえる。
「お母さんだ!」
女の子は、視線の先に母親を見つけたようだ。
「莉子ー!」
母親も女の子に気付いた様子で駆け寄ってきた。
「すいません!うちの子が!」
女の子の母親は、申し訳なさそうにしている。
「いぇ、サービスカウンターに人がいなくて、私達で探そうって事になったんですけど、無駄に探し回らせてしまってたらすいません。」
「いえ、本当にありがとうございます。」
母親は、女の子に手を差し出すと、女の子は、新太郎と、凛と繋いだ両手を重ねた。
「えっ?」
新太郎と凛は、驚いている。
「お姉ちゃんとお兄ちゃん、仲良しね。」
ニコッと笑う女の子の顔を見て、仕方なく新太郎と凛は手を繋いだ。
「ありがとう〜。」
女の子は、母親の手を取ると、二人に手を振り帰っていった。
「さっ!私達もお仕事しないとね。」
凛は、新太郎を見て笑った。
「そうだな。」
二人は、繋いだ手を離すタイミングを逃した。
ホームセンターの中を手を繋いだままカート置き場を目指した。
・・・手、離すタイミングが。
何でだろう。この手を離したくないと思っている自分がいる。
・・・カート置き場に着いたら、手を離そう。
凛も同じ様な気持ちなのだろうか?
新太郎は、そんな事を思いながら、黙って歩き、カート置き場にたどり着いた。
「じゃ、じゃあ、俺、カート押すな。」
「う、うん。」
二人は、手を離した。
「・・・。」
何か不思議な空気を二人は感じた。
会話は始まらないが、居心地のいい。
しばらく、二人は黙って並んで歩いた。
「なぁ、それで、何買うんだ?」
新太郎は、我に返り、仕事の事を思い出した。
「あ、忘れてた。」
「ははっ!忘れんなよ。」
「だね。あはははっ!」
凛は、スマホをカバンから出すと、買物リストに目を通している。
「じゃあ、まずはあそこだね。」
凛は、お目当ての売り場を指さした。
買物を無事に終え、新太郎と凛は、軽トラに乗り込んだ。
「さっ、帰るか。」
「うん。」
新太郎は、凛との時間が楽しくて、幸せだと感じていた。
・・・ダメだ。
俺は、凛の事をずっと思って生きていく。
そう決めてるんだから。
「ねぇ、新太郎くん?」
「えっ?あぁ、ごめん。」
「何回も話しかけてたのにー!
どうしたの?」
「あ、いや、何でも無い。」
「そ、そう。」
「じゃぁ、出発するぞ。」
「うん。お願いします。」
運転にも少し慣れた様で、帰りはスムーズに帰る事ができた。
「買物無事終わりましたー!」
凛は、プレハブのドアをあけて山さんを呼ぶ。
「あぁ、ありがとう。
倉庫にしまっておいてくれ。」
「分かりました。俺、やっとくよ。」
新太郎は、少しぎこちなく凛に言う。
「う、うん。ありがとう。」
凛も少し照れくさそうにする。
そんな二人のやり取りを見て、山さんはニヤリと笑った。




