18.晴れる心。
新太郎は、買物を終えると、無事寮に到着した。
「あっ、新太郎くん、明日朝6時にさっきのプレハブ集合だからね!」
「やっぱり朝早いんだな。」
「まぁね。夏は涼しい間に作業進めないとだし、もう少し早くなるよ?」
「そ、そうなんだ。
じゃあ、今日はありがとう。
明日からよろしく。」
「うん。こちらこそ。」
バタン。
二人はそれぞれの部屋に帰った。
新太郎と凛の部屋は隣り同士だった。
「部屋は綺麗だな。」
新太郎は、備え付けられたテーブルの上にスーパーで買った弁当を置いた。
「至れり尽くせりだな。凛さんが言ってた様に、生活に必要な物は一通り揃ってる。
助かるな。
明日から頑張らないとな。」
新太郎は、ベッドに倒れ込んだ。
「体、臭いかな・・・今日は風呂いいや。」
新太郎は、目覚ましをかけると、眠った。
窓から朝日が差し込む。
「う、う〜ん。」
微睡みの中、新太郎は時計を見た。
「はぁーー!!」
時計の針は5時半をさしていた。
「目覚ましなんで鳴らないんだよ!」
新太郎は、飛び起きると、出発の準備を急いだ。
「初日から遅刻とかシャレにならんぞ!」
バタン!
家を飛び出すと、新太郎は必死に走った。
畑の中を駆け抜け、プレハブ小屋が見えてきた。
「ハァハァハァ。なんとか間に合いそうだ。」
新太郎が走っていると、凛が前を歩いていた。
「あら、おはよ。」
「ハァハァハァ。おは、よ。」
新太郎は、凛に追いつくと、凛に歩幅を合わせて歩く。
「もしかして寝坊した?」
「う、うん。目覚まし鳴らなくて焦った。」
「声かけるか迷ったんだけど、静かだったからもう行ったのかなと思ってた。」
「あはは。」
「あっ!ちなみに、少し早く着くように出てるけど、私の出勤時間は6時半だよ?6時まであと3分。」
「えーー!!早く言ってくれよーー!!先に行くな!」
新太郎は慌てて走り出した。
「うん、頑張ってー!」
凛は笑顔で手をふった。
「ハァハァハァ。おは、よう、ございます。」
「おー!新太郎、おはよう。
初日から遅刻かと思ったぞ?」
山さんはニコニコしている。
が、相変わらず恐い顔で、新太郎は怒られている気分になる。
「す、すいません!目覚ましが鳴らなくて。」
「目覚まし?」
「は、はい。寮に置いてもらってた目覚まし時計です。その、実家にいた時は、スマホで目覚まししてたんで、ちゃんと使えなかったみたいで。」
新太郎は、事件や刑務所での日々を思い出し、俯いた。
「まぁ、何だ。そう落ち込む事は無い!今日からは、きっと心が晴れる!」
山さんは、大きな手で新太郎の背中を叩いた。
「ぐはっ!ゲホッ、ゲホッ。」
「おぉ!すまん!ワハハハ!」
「や、山さん。」
新太郎は、山さんをみて怯えている。
「さぁー!今日も頼むぞー!」
「おはよう。俺は、大山 大河だ!一応、みんなをまとめる役割で、今日からしばらく新太郎の教育係だそうだ。」
「よ、よろしくお願いします。」
「あはははっ!そんな賢まるなよ!
やりにくいわ!とりあえず、道具は用意しといたから、そこの一輪車にのせてついてこい!いくぞ!」
「は、はい!」
新太郎は、言われるまま、一輪車をヨレヨレと押しながら付いていく。
「今日は、苗を植えるんだー。
ひたすらな。」
「な、なるほど。」
新太郎は、慣れない一輪車に気を取られながら、ヨレヨレと進む。
「大丈夫か?そのうち慣れると思うけど、一輪車を使いこなすのは重要だぞ〜?土を運んだりする時は重くなるから、もっと押すのが難しいからな。
まぁ、がんばれ!」
「は、はい!」
新太郎は、なんとか大河の後ろをついていく。
「さぁ、ついた!」
「ふぅ。」
新太郎は、一仕事終えた感で一息ついた。
「おぃ、おぃ、新太郎。
大変なのはここからだぞ?
新太郎、今日は腰が終わると思っていろ。」
「腰が・・・終わる?」
「みんなの表情を見てみろ。」
新太郎は、周りを見回す。
他の社員達は、永遠と続く畑を見て、呆然としている。
「苗を植えるのは大変なんですか?」
「そうなんだ。力のはいらないんだけどな。みんな、土作りとか、収穫は好きなんだが、この作業はな。」
大河も俯く。
「初日から脅かさないで下さいよ。」
新太郎は、恐怖を覚える。
「まぁ、やるしかない!新太郎、俺の向かいにまわれ。」
「は、はい!」
「じゃぁ早速やるぞ。まずこうして苗を植える穴をほる・・・。」
大河は、新太郎に説明しながら苗を植えて見せた。
「あとは、これを永遠に繰り返す!」
「はい!」
新太郎は、一生懸命に苗を植えていく。
「新太郎、やるな〜。」
新太郎は苗を植えるのが楽しいと感じ、自分でも驚くくらいに、上手に作業を進められていた。
大河は、感心している。
「あ、ありがとうございます!」
・・・山さんの言ってた、気持ちが晴れるって言うのが良くわかる。
何だろう?凄く清々しい気分だ。
こんなに心が軽くなるのはいつぶりだろうか。
新太郎は、ここへ来て良かった。
そう思いながら作業を続けた。
「新太郎。」
大河は、少し思いつめた様な雰囲気で新太郎に声をかける。
「はい?」
「あぁ、手は動かしながら聞いてくれ。」
「は、はい。」
「俺も、新太郎と同じ年くらいの時にここに来た。
山さんに一番最初に拾ってもらったんだよ。」
「そ、そうなんですか。」
「うん。俺はみんなをまとめる役だから、新太郎の事は大体聞いてる。
俺だけ知ってるのはどうかと思うからさ、俺の事も話しておこうかと思う。」
「大河さんの事か。」
「そうだ。俺は、新太郎とは違ってな。
どうしょうもない奴だった。
いわゆるヤンキーってやつだな。」
「あぁ、見た目そうだと思ってました。」
「おぃ。」
大河は新太郎を睨む。
「す、すいません。」
「別にいいけど、やっぱりそう見えるんだな〜。」
「まぁ、嘘はつきたくないので。」
「あはははっ!俺もそうだ。嘘は大嫌いだ・・・そう。嘘は嫌いだ。」
「それが原因ですか?」
「まぁ、そうだ。」
「・・・。」
新太郎は、大河が口を開くのを待った。
「親友がいたんだ。一緒にバカばっかやってた。
親友・・・だと思ってた。
向こうは違ったみたいでさ、俺の事、嘘ついてハメたんだ。
そいつに呼び出されて、俺は不思議に思いながらも、人気のない廃ビルに行ったんだけどな・・・大人数に囲まれて、病院送りになったんだ。」
「テレビドラマみたいですね。」
「あはははっ。あんな優しいもんじゃないよ。死ぬかと思ったし。」
「・・・世界が違いすぎる。」
「まぁ、その後、退院して一番にそいつに会いにいった。
そいつ、恐かったからって言ってた。
俺は、許したんだよ・・・その時は。」
「その時は?」
「うん。後で分かったんだ。
そいつ、俺をボコッた奴らと手を組みたくて、目障りに思われてた俺をハメたって言うのが。」
「ひどいですね。」
「あぁ、俺は問い詰めた。
何でだって。
そしたら、いつも親友顔して絡んでくる俺が嫌いだったそうだ。
だから、一石二鳥だったって笑いやがって。」
「大河さん。」
「あはは。後はご想像の通りだよ。」
「山さんが大河さんを選んだ理由が分かった気がしました。」
「・・・そうだな。山さんには本当に感謝してる。」
「俺も。」
「あーー!!」
大河は、突然畑に寝転がった。
「どうしました?」
大河は空を見つめている。
「新太郎、腰痛くないのか?」
「えっ?別に大丈夫ですけど?」
「新太郎、お前、この仕事天職ってやつかもな〜。俺の腰は悲鳴を上げているぞ?」
新太郎が辺りを見回すと、同じ様に畑に寝転ぶ社員達が視界に入る。
「えっ?そんなに?」
新太郎は不思議そうにしている。
「すげーな。」
「なんか嬉しいな。少しでも役にたてた気がします。頑張ります!」
新太郎は、休んでいる社員達を尻目に、どんどん苗を植えていった。




