16.高い塀の外。
「お世話になりました。」
新太郎は、刑務所の門の警備にあたる警官に頭を下げた。
「がんばれよ。」
警官は、新太郎の背中を叩いた。
新太郎は、事件のあと、相手が死んでしまったと言う事もあり、10年の月日を刑務所で過ごした。
「父さん、光さん、元気だろうか。
・・・凛は。
もぅ、会う資格もないな。
みんな、幸せに暮らしていたらいいな。」
新太郎は、両親が一度だけ面会に来てくれた日の事を思い出しながら歩いた。
「新太郎!」
「と、父さん・・・光さん。
ごめん。本当に・・・ごめん。」
「謝るな!運が悪かっただけだ!
殺意なんて無かったんだから!」
新太郎の父は、新太郎との間にある透明のアクリルパネルに手を当てる。
「新太郎!刑務所をでたらまた一緒に暮らそう!」
新太郎の父は、涙をながしている。
「運・・・か。みんなそう言う。
でも、これは罰なんだ。」
「どう言う事だ?」
両親は顔を見合わせて不思議そうにしている。
新太郎は、凛との事をつつみ隠さずに話した。
「・・・そう、だったか。」
俯く新太郎の父の隣りで、光は両手で顔を覆う。
「凛。辛かったんだね。気付いてあげられなくてごめんね〜。」
しばらく泣いていたのだろう、光は、涙をぬぐう様に両手で目をこすり、新太郎を見つめた。
「相談・・・して欲しかった。」
「ごめんなさい。」
ゴンッ。
新太郎は、テーブルにデコを打ち付けながら謝る。
「謝らなくていい。」
光は、新太郎を見つめる。
「凛は!凛は必ず見つける。
私達ね、人の少ない田舎に引っ越す事にしたの。近所の目もあるし、辛いと言うのは本音よ。
でも、それ以上に、また4人で暮らしたい。
私はそう思ってる。
だから、必ず帰ってきなさい!」
「・・・。」
新太郎は、顔を片手で隠す。
目尻から隠しきれない涙がこぼれている。
「光さん・・・光さんがそう言ってくれるなら!新太郎!必ず、また4人で暮らすぞ!」
新太郎の父は立ち上がった。
「・・・父さん、光さん。」
新太郎は、涙を拭うと、両親を見つめた。
「俺は、父さんと光さんには幸せになって欲しい。
俺が一緒に暮らせば、絶対に良くない事になる。
だから、俺はここを出たら一人で生きていくよ。
もう誰も傷つけ無いように。
凛にももう合わせる顔はないし、
いなくなったのが凛の答えなんだよ。」
「だ、大丈夫だ!全部上手くいく!父さんに任せろ!」
「ありがとう。
父さん、光さん。
ここへ来るのはこれで最後にしてくれ。
そして、2人で・・・凛が見つかれば3人で、幸せになって下さい。」
新太郎は俯いたまま立ち上がった。
「し、新太郎!」
「新太郎くん!」
両親も立ち上がり、新太郎を止めようとするが、監視の警官に頭を下げると、ドアの取っ手に手をかけた。
「ごめんなさい。一人で生きていきたい。父さんと光さんの顔を見ると、消えてしまいたくなるから。」
新太郎は背中を向けたまま、ドアを開けた。
「分かった。新太郎、でもお前はずっと俺の!いや、俺達の子供だ!
困った時は頼ってくれ!」
「ありがとう。」
バタン。
ドアが閉まると、新太郎の両親は抱きしめ合い、しばらく泣いた。
青空を見上げ、新太郎は立ち止まった。
「これから俺は何故生きるのだろう。
・・・何の希望も、未来も無い。
でも・・・生きたい、そう思う。」
新太郎の刑期が終わる少し前、出所後の面倒を見たいと言う男が面会に来た。
それは事件の日、新太郎の背中をさすってくれた刑事だった。
定年後、その刑事は刑務所を出た未来ある若者を受け入れるべく、農家の会社を設立し、軌道に乗せていた。
新太郎は、素直に世話になる事を選んだ。
刑期の間に働き渡された、少しのお金を握りしめ、新太郎は電車を乗り継ぎながら、そこへ向かうのだった。




