15.人の命。
凛がいなくなってから1週間。
新太郎と両親は凛を探した。
警察には捜索願いを出し、駅前で凛の目撃者を探したりした。
凛の行方は全く分からなかった。
ひよりの母には、凛の母から連絡が入り、涼にも自然と伝わった。
心配した涼は、新太郎に何度も連絡を取ろうとしたが、新太郎とは連絡がつかない。
スマホが鳴っているのに、新太郎は気付いていたが、連絡を取る気力も無かった。
毎日、毎日、新太郎は街を歩き、凛の姿を探している。
今日も、新太郎は、精神不安定でヨレヨレと町中を歩いていた。
「凛。こんな所にはいないんだろうな。」
ドン。
「いってーな!」
新太郎がヨレヨレと歩いていると、柄の悪い男と肩がぶつかった。
「・・・。」
新太郎は、虚ろな目で男を見ると、無視する様に無言で歩き出した。
「おい!待てよ!」
男は、新太郎の肩をつかむと、人気のない路地裏に引きずり込み、新太郎を押し倒した。
「痛いな。俺は忙しいんだ。」
新太郎は小さく呟くと、立ち上がる。
「おい!」
柄の悪い男は、新太郎の胸ぐらを掴んだ。
新太郎は、少し前に、もしもの時に凛を守れたらと何度も見返した護身術の動画が脳裏に蘇った。
新太郎は、男の腕を両手で掴むと、力いっぱいひねった。
喧嘩などした事のない新太郎は、力加減も分からず、全力で男の腕をひねったものだから、男の腕からは、聞いた事のない音が聞こえた。
「あーーー!!!」
男は、悲鳴と共に、地面に倒れて行く。
「あっ!」
新太郎は、思わず叫ぶ。
男の倒れ込むであろう所には、誰が何の為に置いたのだろうか、コンクリートブロックが角を立てる様に置かれている。
ゴンッ!!
男は、後頭部をコンクリートブロックにぶつけ、少しもがいたあと、動かなくなった。
「・・・お、おぃ。」
新太郎は、男に声をかけるが、反応がない。
「・・・。」
新太郎は、壁に寄りかかると、ズルズルと背中を壁にひきづりながら座りこんだ。
放心状態のまま、新太郎は長い間座り込んでいた。
「そうだった。俺はこの男を?」
我に返った新太郎は、立ち上がり、男の体に触れた。
「・・・冷たい・・・警察・・・電話しないとな。」
新太郎は、冷めた表情でスマホを手に取った。
110番に連絡し、淡々と男とのやり取りを伝えると、ビルの隙間から空を仰いだ。
「俺は・・・また命を。」
男を見つめる。
「こんな簡単に命は。」
消えてしまいたい。そう思いながら、
新太郎はまた座り込んだ。
しばらくすると、警察が駆けつける。
事情を簡単に聞かれた後、
新太郎は、パトカーに乗せらた。
後部座席で刑事に挟まれながら、新太郎は俯く。
「・・・終わった。
父さん、光さん・・・本当にごめん。
本当に・・・。」
新太郎の目尻には涙が溢れて、こぼれ堕ちた。
隣りに座るベテラン刑事に見える男が、新太郎の背中をさする。
「君が嘘を付いている様には見えない。
捜査はするが、正当防衛は認められるだろう。無罪とはいかないが、私もできる限り君の力になるよ。」
「・・・ありがとうございます。」
新太郎は、俯いたまま答える。
「運が悪かった。
・・・それだけだ。」
「・・・運・・・ですか。
これはきっと、罰なんです。
きっと。」
ベテラン刑事は、何があったのかは聞かなかったが、大きなゴツゴツした手で、新太郎の背中をさすり続けた。




