14.たった一言で。
「あー。うー。あー。」
「おい、こっちまで落ち込みそうなんだが?」
卒業旅行から数カ月。
新太郎と涼はいつものベンチに座っている。
「いいよな涼は。」
「まだ気不味い雰囲気なのかよ?」
「あぁ。旅行依頼、何もない。」
「ま、マジか!?」
「マジだ。」
旅行から、順調に愛を育んでいる涼に対して、新太郎は気が気ではなかった。
「凛、最近変なんだよな。」
新太郎は頭を抱える。
「と、言うと?」
「悩んでると言うか、思い詰めていると言うか。」
「それは、まさか?」
「うん。アレが来ないと。」
「アレとは?」
「察しろ。女の子の日と言うやつだ。」
「おま!まさか!それ!?」
「かもしれない。」
「・・・就職、間に合わないよな?」
「そうだな。」
「まぁ、まだ確定では無いんだよな?
大丈夫だよ!」
「だといいんだが。」
新太郎は空を見上げた。
「雲はデカいな〜。」
「・・・そうだな〜。」
新太郎を思う涼も、不安の余り、空の雄大さに呆然としていた。
「あぁ。」
新太郎は、授業が終わり帰宅した後、ベッドに横になり、天井を眺めていた。
「あぁ。うー。」
トントントン。
「はい?」
ドアを叩く音に、新太郎は体を起こした。
ガチャ。
ドアが開くと、凛が不安そうに部屋に入ってきた。
「お兄ちゃん。」
「凛。どうした?」
「お兄ちゃん、あのね。」
「うん。」
「赤ちゃんがここにいる。」
凛は大事そうにお腹をさする。
「・・・。」
新太郎は言葉が出なかった。
「お兄ちゃん?」
「そ、そうか。」
「嬉しく・・・無い?」
「いや、素直に喜べない状況と言うか、まだ学生だし。」
「そ、そうだよね。ごめん。その報告だけだったから。」
凛は、俯くと、新太郎の部屋を出て行った。
「おぃ、凛!」
新太郎は、凛を追いかけることができず、ベッドに倒れ込むと、また天井を見上げる。
「やっぱりか。」
新太郎は、これからどうするか考え出した。
・・・父さんに相談して・・・いや、それは違う気がする。
俺と凛は親になるんだ。
やっぱり、大学をやめて働くべきか。
子供を諦めるのが正しいのか。
凛は・・・凛はどうしたいのだろうか。
新太郎は、同じ事をグルグルと考え続けた。
カァカァカァ〜。
外でカラスが鳴いている。
窓からはオレンジ色の光が差し込む。
「もう、夕方か。」
新太郎は、決意を固め立ち上がる。
トントントン。
新太郎は、凛の部屋のドアを叩いた。
「凛、いないのか?」
新太郎は、ドアを開けた。
「いない。」
胸騒ぎを感じ、階段を駆け下りリビングのドアを開けた。
「凛!」
「あら、どうしたの?」
キッチンに立つ凛の母が不思議そうにしている。
「凛は?」
「ひよりちゃんの家に泊まるとか言って出かけたわよ?」
「あ、ありがとうございます!」
新太郎は、家を飛び出した。
「もしもし!涼か?」
「どうした?デートの邪魔するんじゃね〜よ。」
「デート?じゃ、じゃあ、今ひよりちゃんといるのか?」
「あぁ、今日はひよりの家に泊まる予定だ。」
「凛は?凛も泊まるのか?」
「ん?凛ちゃん?そんな事は聞いてないが?」
「分かった!」
プープー。
「何だ?良く分からん奴だな。」
涼は不思議そうにしながらひよりを見つめた。
「ハァハァハァ。どこ行ったんだよ!」
新太郎は、凛の行きそうな所を探し続けた。
「電話もでねーし。」
走り続けて体力の限界に達した新太郎は、公園のベンチに座った。
「・・・凛。」
新太郎は、少し休むと、トボトボと家へと歩いて行った。
「ただいま。」
「こんな時間までどこ行ってたんだ?」
リビングで待っていた両親は、心配そうにする。
「ちょっと。」
新太郎は、まだ話せない、凛と一緒に話そう。そう思って、誤魔化した。
「ご飯は?温めようか?」
凛の母は、立ち上がろうとする。
「あ、大丈夫です。ありがとう。」
新太郎は、コップに注いだお茶を飲み干すと、トボトボと階段を上がった。
バタン。
ベッドに倒れ込み、目を閉じた。
「・・・凛。」
ゴーー!
家の前をトラックが通ったのだろう、大きな音で新太郎は目を覚ました。
「あぁ、もう昼か。」
トントントン。
新太郎が体を起こすと、ドアを叩く音がする。
「はい。」
ガチャ。
「お兄ちゃん。」
「凛!どこいってたんだよ!」
「うん。あのね・・・もういないよ。」
凛は、涙を流しながらお腹をさする。
「えっ?」
新太郎は頭の中が真白になり、言葉が出ない。
「ごめんね。もう大丈夫だから。」
「い、いや、俺は・・・。」
新太郎の目尻からも涙がこぼれる。
「じゃ、じゃぁ疲れたから少し寝るね。」
「・・・あ、あぁ。」
凛は自分の部屋へと入っていった。
凛が部屋を出た後、新太郎は放心状態でベッドに座っていた。
長い時間、そうしていた。
「ダメだ。少し散歩にでも出て、夜風に当たろう。」
新太郎は、ヨレヨレと歩きながら、河川敷を歩く。
「俺は・・・取り返しのつかない事を。
あの時もっとちゃんと話していれば。」
後悔が新太郎を押しつぶそうとする。
「月が綺麗だな。」
新太郎は、流れそうな涙を堪える様に、空を見上げていた。
新太郎は、もう遅いと思いながらも、自分の気持ちを凛に伝えるべきだと思いたった。
家に帰ると、まっすぐ凛の部屋のドアの前に立った。
トントントン。
「凛、まだ寝てるのかな。」
新太郎は、凛の部屋のドアを開けた。
「凛?いない?」
新太郎は、凛に電話をかけた。
ブー、ブー、ブー。
「えっ?」
凛の部屋の机の上で、凛のスマホが鳴っている。
部屋を見回すと、いつも机の横に置かれていた大きな旅行用のカバンが無い。
「まさか!?凛!?」
新太郎は家を飛び出した。




