13.忘れ物。
「いただきまーす!」
晩御飯は、別荘の庭でバーベキューとなった。
「に、肉が染み渡る〜。」
泳ぎ疲れた新太郎は、嬉しそうに肉をほうばっている。
「新太郎、なんであんなに泳いでたんだ?」
涼は不思議そうにしている。
「あぁ。流されそうになってな。
足が着く所まできた所で凛にくっつかれたんだよ。」
「ん?」
「・・・。」
新太郎は肉を口に運ぶ。
「で?」
「んんんんろ?」
「飲み込んでから話せよ。」
「ゴクッ。はぁ。分かるだろ?」
新太郎は、察しろと言わんばかりに涼を睨む。
「・・・あぁ、そう言う事か。」
涼は気付いた様で、申し訳なさそうにしている。
「えっ?何?どう言う事?」
ひよりは不思議そうに涼を見た。
「ひより、ひよりは分からないでいい。」
涼はひよりの肩に手をのせる。
「む〜。」
ひよりは不満気に涼を見つめる。
「さ、さぁ!どんどん焼くわよー!」
凛は誤魔化す様に叫んだ。
ザァーザァー。
「う、う〜ん。」
波の音が聞こえる。
窓から差し込む朝日の光が眩しい。
新太郎はゆっくりと目を開けると、起き上がろうとする。
「・・・いっ。筋肉痛だ。」
ベッドで体を起こした新太郎は隣りを見た。
「凛、もう起きたのか。」
新太郎は、痛む体を引きずる様に階段を降りてリビングに向かう。
「おはよ〜。」
「おはよ。」
キッチンには凛とひよりが立っている。
新太郎は、ソファーに座る涼の隣りに座る。
「おはよ。」
「おぅ、おはよ。」
涼は、どこか満足気な表情をしている。
「なんだ?なんだか気持ち悪いぞ?」
新太郎は、涼の顔を見ながら苦笑いする。
「気持ち悪いとはひどいな。
・・・で?どうだった?」
涼は小声で新太郎に話しかける。
「どうとは?」
「昨日の夜だよ。」
「・・・あぁ。思い出させるなよ。」
「ん?またダメだったのか?」
「いや、逆だ。」
新太郎は顔を伏せ、思い出したくないと全身から染み出している様に見える。
「・・・な、何があった?」
「・・・実は。」
新太郎は昨日の夜の事を思い出しながら口を開いた。
「今日ってその。」
凛は恥ずかしそうにモジモジする。
新太郎と凛はベッドに並んで座り肩を寄せあっている。
「その、何だ?」
「そ、卒業旅行なんでしょ?」
「う、うん。涼はそう言ってたな。」
「涼くんだけ?」
「いや・・・いいのか?」
新太郎は緊張した表情で凛を見つめる。
「う、うん。」
凛は恥ずかしそうに俯いている。
「凛・・・好きだ。」
新太郎は、緊張を振り払う様に凛を抱きしめた。
「いきなりびっくりした〜。
・・・私も、好きだよ。」
凛も新太郎を抱きしめ返す。
二人はベッドに横になり、抱きしめ合うと、何度も唇を重ねた。
「すごいな。」
「何が?」
凛は不思議そうに新太郎を見つめている。
「なんと言うか、幸福感?」
「そうだね。」
そして、二人は、ぎこちなく愛し合った。
「凛、いいか?」
「・・・。」
「どうした?」
「その、こ、恐いから・・・私が。」
凛は起き上がると、馬乗りになっていた新太郎をゆっくりと押し倒した。
「わ、分かった。」
新太郎は大人しく身構えている。
「・・・。」
凛は覚悟を決めた様に新太郎に乗りかかる。
「あっーー!」
新太郎はふと我に返ると叫んだ。
「えっ!?びっくりした。
どうしたの?」
「そ、その。」
新太郎はこの世の終わりかの様な、さみしそうな表情をしている。
「な、何?」
「忘れた。」
「何を?」
「その・・・ゴム。」
「・・・あっ。」
凛は、新太郎の上で俯いた。
「ごめん。俺が用意するべき物だった。」
新太郎は天井を仰ぎ見た。
「だ、大丈夫だよ!そのときは早めに言って!」
「ま、待て!」
凛は新太郎の制止を聞かなかった。
「痛いっ。」
「あっ。」
凛は痛みの中、我に返った。
「えっ?もしかして。」
「う、うん。ごめん。」
「ど、どうしよ!」
「と、言う事がありまして。」
ひよりは凛から昨日の夜の事を聞き、固まった。
「えっ?それってマズくない?」
ひよりは戸惑っている。
「う、うん。」
凛は、俯いた。
「まだ私達学生だよ?」
「うん。分かってる。
・・・・・大丈夫。きっと。」
凛は自分に言い聞かせる様に呟く。
「と、所でひよりは?」
凛は切り替えようと、ひよりにすり寄る。
「う、うん。実は涼くんも忘れてたみたいで。」
「え?」
「あ、でも私達はその・・・お母さんがね。」
卒業旅行出発前夜。
「ひーよりっ。」
「何?お母さん、えらくご機嫌ね。
嫌な予感しかしないのだけど?」
ソファーに座るひよりの隣りに、ひよりの母は嬉しそうに座る。
「これ。持って行きなさい。」
「・・・こ、これっ!」
「ふっふっふっ。ひより、既成事実を作りなさい。」
「またそれ〜?」
「いいから。」
「う、うん。」
ひよりは大人しく受け取った。
「あら、珍しく素直じゃない?」
「う、うん。私もそのつもりだったから。」
「キャー!大きくなったわね〜。
お母さんはうれしいわ〜!」
ひよりの母はひよりを抱きしめた。
「ちょ、ちょっとお母さん!」
「がんばれ、ひより。」
「う、うん。」
「と、まぁ、そんな感じで。」
ひよりは恥ずかしそうに俯く。
「なんかいいな。お母さんとそんな感じなの。」
凛は、羨ましそうにひよりを見た。
「ふふっ。」
ひよりはふと笑った。
「どうしたの?」
「あ、ごめん。忘れた事に気づいた涼くんの顔と、私が持ってたのを渡したときの顔を思い出して。」
「ふふっ。確かに。」
凛も、新太郎の残念そうな顔を思い出して笑った。
「きっと大丈夫!今日も楽しもう?」
ひよりは凛を励ます様に笑った。
「そ、そうだね!」
凛もひよりを見つめて微笑んだ。




