↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行くぜっ!こもれび整体院  作者: 山崎奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/38

#30 整体師野崎、滝行に行く

 真夏のとある日、野崎は、こもれび整体院を夏季休暇にした。

 JR中央線、下り電車の車内にいた。時間はお昼過ぎのため、乗客は少なく空いていた。立川駅で青梅線の青梅行きに、青梅駅で奥多摩行きに乗り換えた。

 御嶽駅で降りると、ここは東京都か!?

、というくらい山奥に来てしまった感があった。。。

 

 改札を出て、西東京バスに乗り込んだ。途中、「奥多摩フィッシングセンター」の看板を見つけて、ニジマス釣りをしたくなった。渓流の釣り堀で楽しいだろうな〜。

 と思ったが、指定時間までに宿に入らなければならないので、グッと我慢した。

 御岳登山鉄道の滝本駅で、バスを下車した。

 

 今度は、ケーブルカーに乗り、更にリフトに乗った。

 乗り物好きの野崎でも、さすがに、お腹いっぱいだ。

 大展望台駅に降り立つと、しばし新宿の方を眺めた。

 少しぼーっとしてから、坂道を登り始めた。


 御岳山(みたけさん)は江戸時代から続く信仰の山である霊山だ。なので、修験道の方や参拝者がこの山奥に多く集まった。「講(こう)」と呼ばれる信仰団体がケーブルカーなどない頃より、関東一円から集まり参拝した。

 その名残りで、この山上に旅館や宿坊が何軒もある。今となっては、登山やハイキングの客がメインであろう。

 野崎は旅館がある通りを抜けて、長い坂道と階段を登り、御岳山山頂の武蔵御嶽神社に着いた。

 標高は約1000mで山中でもあったので、大田区の雑色より爽やかだった。


 普通の神社の狛犬は獅子だが、ここの神社の狛犬は、秩父の三峰神社と同じニホンオオカミである。「おいぬ様」とお札(ふだ)にも描かれて親しまれている。おそらく、かつてこの山にもニホンオオカミが生息していた。

 愛犬家から愛されている神社で、愛犬の御祈祷もされているそうだ。今回は参拝を済ませてから、モフモフちゃんのために、「わんこのお守り」とペットの御守を購入した。


 境内の階段を降りて、来た道を戻った。

 宿坊でもある静岳荘に、なんとか時間に間に合って到着した。

 受付をして、説明を聞いた。早速、この後、滝行に行く予定になっている。

 そもそも、何で滝行するのか、というと、数年前に本で読んだことが、きっかけになっている。

 

 昭和の整体の大先生が10代のころ、おそらく昭和初期にこの御岳山の滝で修行された、と本で知った。戦前の療術修行も大変だ。

 この伝統は、その流派のお弟子さんや孫弟子さんにも引き継がれている。現在でも各地の滝で滝行されているそうだ。

 中には真冬の滝行をされる熱心な方もいて、焚き火を焚いたりするとネットで読んだことがある。


 何故、冬に、滝行をするのかというと、身体を冷やしきり、逆に身体の芯の熱を呼び覚まし、寒さによる刺激で血行が良くなるそうだ。

 野崎は、さすがに、そこまでやる勇気がないので、真夏の滝行に来たわけである。


 静岳荘のご主人は、御師(おし)であり、神職でもある。この方の案内・指導で滝行する。

 ご主人から白いハチマキ、白いふんどし、白装束などを受けとり、宿坊から「綾広(あやひろ)の滝」に向かった。 

 ご主人を先頭に、女性二人組、カップル、そして野崎、という構成だ。険しい登山道ではなく、ハイキング感覚で滝まで歩いて行く。


 滝の近くまで来ると、滝の音がだんだん大きくなってきた。

 滝ツボ付近に到着すると、ご主人が

大きな岩かげにブルーシートを広げて、そこで、野崎は例の白装束に着替えた。

 さすがに、この姿になると、修行感が増してくる。


 滝に入る前の準備運動として、舟こぎ運動をする。舟の櫓(ろ)を漕ぐ動作で、よく合気道の練習でやる動きだ。これをやると体が温まる。

 神職であるご主人が祈祷(きとう)をしてから、右手の人差し指と中指を立てて、頭上から下に切るようにして、「えいっ!」と気合を入れた。滝行なので、作法が重要だ。


 ご主人は滝ツボに入り、滝に打たれながら、両手を「鈴の印」で組み、へそ下の丹田の前で、小刻み揺らした。ここでも、作法が重要だ。

 これをすると、真冬の水の中でも耐えれるらしい。水垢離(みずごり)など、古神道のガチ修行は厳しい。。。


 野崎も、神職の指導を真似して、「えいっ!」と大きな声で気合を入れて、滝に打たれた。

 見ているより、上からの水圧がまあまああった。打たれながら、両手を鈴の印で組み、数十秒すると、なんか精神的に落ち着いてきた。

 不思議な感覚で、滝の水と一体になったような感じがした。

 大げさに言えば、自然と一体化した。


 野崎は滝から出ると、他のメンバーの滝行の様子をぼーっと見ていた。思考は、ほぼストップしていた。

 それからは、また着替えて、山道を歩いて宿坊に戻った。

 それから、入浴して、夕食になった。

 メニューは、ニジマスの塩焼きとか、山の中の旅館といった感じの普通で安心した。

 

 食事中にご主人が、いろいろとお話しをしてくださった。

 最近は、女性客が多いとか、先日、ロシアの富豪の姉妹が5連泊していったとか、実に興味深かった。

 この宿坊の特徴は、滝行のほかに、このあと行われるクリスタルボールの演奏を聴くことができる体験だ。


 夕食を終えると、ご主人が直径40センチほどの大きなものから20センチほどの小ぶりのクリスタルボールを数個並べて、演奏を始めた。

 お寺の本堂にある大きな大徳寺りんの金属音とは違い、水晶で作られた鉱物のクリスタルボールは音に深みがあり、余韻も長い。


 大きいクリスタルボールのシンプルな音に小さいクリスタルボールの音、そして、ボールを打つ音やバチでこする音が混じり合い、和室の部屋中が複雑な倍音の空間であった。

 野崎は畳(たたみ)の上で寝そべりながら、音に集中して聴いていると、思考は停止して、眠くなってきた。

 演奏が終わると、野崎は半ば意識を朦朧(もうろう)とさせたまま部屋に戻り、そのまま寝た。


 翌朝、野崎は気持ちよく寝覚めると、滝行に行く準備をした。

 向かう滝は昨日と同じなので、もう慣れた山道であった。

 滝行も、昨日のような緊張感はなく、気持ちに余裕があり、浄化というか、リフレッシュ効果があった。

 もう高齢になったご主人は、冬でも滝行するそうである。命懸けだ。


 滝行を終えると、宿坊に戻り、入浴した。朝風呂はちょっと得した気分になる。そうそう、整体の大先生も朝風呂派だったそうだ。

 朝からいろいろやって、お腹が空いたところで朝食となった。全て美味しくいただいた。


 以上で、全てのプログラムが終わった。

野崎は玄関でご主人に丁重に挨拶して、宿坊を出た。真夏の日差しは強かった。

 山が大好きな野崎にとって、日常からかけ離れた滝行とクリスタルボールは十分なリセット効果があった。

 軽い足取りで坂道を下って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。