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行くぜっ!こもれび整体院  作者: 山崎奈緒


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27/29

#27 カフェの夏生さん

 こもれび整体院の患者さんが途切れた午後、整体師の野崎は受付の真由美に声をかけて、パーカー姿で出掛けた。

 何かあったら、スマホに連絡くださいと頼んでいた。

 ちょっと前に漢方薬局の真佐美先生に教えてもらったカフェに行くことにした。お店は雑色商店街の近くなんで、近所であった。


 カフェに入ると、挨拶された。

 「いらっしゃいませ〜。」

 と、店主の夏生なつきが明るく声を掛けてきた。

 「こんにちは。

 薬局の真佐美先生に教わって来ました〜。」

 「あらっ、真佐美とは中学校の同級生なのよ。古い付き合いでね〜。

 ところで、何にします?」


 野崎はカウンターの座席に腰掛けると、コーヒーを注文した。

 「野崎と申します。近所で整体院をやってます。

 先日、漢方薬局にお邪魔して、東洋医学のお話しをしてたら、陰陽五行の話しになって。それで、陰陽五行は医療だけじゃないよと、教えてもらって来た訳です。」


 「なるほどね。

 私は、夏生ね。よろしく。

 中国の四柱推命という占いをやってるから、それでだね。」

 「やはり、陰陽五行なんですか?」

 「もう、ガッツリだね。」

 夏生さんは笑って答えた。

 コーヒーは、ハンドドリップで丁寧にれて、運んでくれた。


 野崎はそのまま香りを楽しんでから、一口すすった。

 「いい香りですね。

 ちょっと油分もあって、濃くて美味しいです。」

 「ありがと。

 ペーパーフィルターに少し切れ込みを入れる技があるのよ。」

 そう言って、柔らかく微笑んだ。

 

 「私の場合、本が好きで、中学の頃から占いにも興味があったから、いろいろ読みあさってね。

 友達や知り合いの運勢とか見だしたら、まあまあ当たって、更に本とか読み込んだのよ。」

 「今はネットで占いを検索すると、ものすごく出て来ますよね。絶対当たる!とか。占い好きは多いんですね。」


 「東京には占い関係の専門書店があってね。そこの店主がまた詳しい方で、読むべき本を次々に教えてくれてね。本当、運が良かったわ。

 始めに、中村文聡先生の『推命判断秘法』そして、同じ先生で『韋氏推命学講義』を読んで勉強したわよ。」


 「何か、専門書な感じですね。」

 「最初の本は割と一般書だけど、次のは香港の推命家、韋千里先生の本を日本語訳なんで、まあまあ専門的だね。

 もう少し説明すると、四柱推命の三大名著というのがあって、

滴天髄てきてんずい

窮通宝鑑きゅうつうほうかん

子平真詮しへいしんせん

の3つの古典を指します。

 中でも、『滴天髄』は命術の帝王と呼ばれていて、その注釈書である

滴天髄闡微てきてんずいせんび

 も、重要文献とされていますよ。」


 「夏生さんは、これらを学ばれたんですね?」

 「まあ、基本的な文献だからね。

 陰陽五行は、『滴天髄』の中の説明で書かれているんですよ。

 ここから、四柱推命の話しになっていくんだけど、四柱とは、生まれた時の「年柱・月柱・日柱・時柱」を指して、これを「命式」と呼びます。

 この命式を自然界の現象である「木・火・土・金・水」に見立てて、本質を捉えてるところが四柱推命の根本なんです。」


 「命式の説明を続けますね。

 命式には、「十干じっかん」という10種類の曜日みたいなものを使います。

 具体的には、こうおつへいていこうしんじんの10個です。

 古代の中国では日付を10日単位で区切ってたんですよ。なので、上旬・中旬・下旬は、その名残りです。

 更に、「旬」と文字は10日間という意味で、漢字の成り立ちは、「日」を包み込むような形から出来ています。」

 「現代にも、いろいろ残っているんですね〜。甲・乙は、アパートの契約書で見たことがあります。」


 「そうそう、法律関係の文書でよく使われますね。

 それで、この10種類に五行を割り当てます。

 甲・乙 → 木

 丙・丁 → 火

 戊・己 → 土

 庚・辛 → 金

 壬・癸 → 水

 となります。」


 「五行を関連付けたんですね〜。」

 「そうです!

 更に陰陽を関連付けます。

 男が陽で、女が陰ですよね。

 ここでは、ちょっと変化して、兄が陽で、弟が陰になります。」


 「ところで、昔、中大兄皇子さん、という方がいましたよね〜。

 なかのおおえのおうじ、と読むんですけど、兄を「え」と読みます。

 さらに、弟や妹は、おとうと、いもうと、ですよね。

 で、ここでは、そこから取って、弟を「と」と読みますよ。

 ちょっと独特ですよね。」


 「整理すると、まず十干があって、五行が合わさって、更に、陰陽のがプラスされる訳ですね。

 なんか、きっちりシステマチックです。」

 「素晴らしい!

 その通りです。

 まとめると、次のようになります。


 きのえ:木の兄(木・陽)

 きのと:木の弟(木・陰)

 ひのえ:火の兄(火・陽)

 ひのと:火の弟(火・陰)

 つちのえ:土の兄(土・陽)

 つちのと:土の弟(土・陰)

 かのえ:金の兄(金・陽)

 かのと:金の弟(金・陰)

 みずのえ:水の兄(水・陽)

 みずのと:水の弟(水・陰)

 です。」


 「あれっ、もしかして、丙午ひのえうまは、ここからきているんですか?」

 「さすがです!

 気が付きましたね〜。

 これに、干支えとの十二支が組み合わさりますよ。


子(ね / ねずみ)

丑(うし / うし)

寅(とら / とら)

卯(う / うさぎ)

辰(たつ / たつ)

巳(み / へび)

午(うま / うま)

未(ひつじ / ひつじ)

申(さる / さる)

酉(とり / とり)

戌(いぬ / いぬ)

亥(い / いのしし)」


 「これらの組み合わせの中で、丙午ひのえうまが出てきます。」

 「カレンダー見てて、なかなか丙午を読めなかったんですよ〜。

 ようやくスッキリしました!」

 「ちなみに、2026年は、丙午ですね。

 60年前の丙午の年は、子供の出産がガクッと減ったのよ。」

 

 「これは少し説明しますね。

 ひのえは、火の兄なんで、強い陽のイメージなんです。

 それから、干支えとの十二支は、そもそも動物と無関係で、元々は方角の方位や時刻を表してました。

 で、「午」は時計でいうと、12時を指します。なので、午前と午後に分けたりしますね。

 そして、「午」は一番上にあるので、最も陽のパワーが強いとされます。

 まとめると、丙午は最大限に陽の力が強いので、丙午生まれの女性は気性が荒く、夫の寿命を縮める、という迷信が信じられていたんです。」


 「それで、1966年はガクッと出生数が

減ったんですね。」

 「さすがに、令和の世の中は、そんな差別的な迷信は信じられていないけど、当時の親やその上の世代は信じていたんだね〜。

 まあ、逆にいうと、まだその頃は、言い伝えみたいなものが生きていたんだね。」


 「それで、まだ説明していないのが、四柱推命の推命だね。

 「命」は、生命という、かけがえの無いものです。

 で、「推」は、推理するとか、今では「推し活」の推しでもありますね。好きな言葉です。

 まとめると、「推命」は、生命を命式で分類して、推理する、ということになります。」


 「命式という生まれた時の年月日とかで、性質とか性格とか傾向を占うのは分かったんですけど、その後の運勢的なのは、どうやって調べるんですか?」

 

 「とてもいい質問です。

 ここでまた、五行が登場します。

 「五行」の「行」は、英語の“go “という意味では無いのです。

 “go “は中国語で「チー」と言います。

 で、古典での「行」は、循環、めぐる、を意味します。

 木→火→土→金→水は、水→木に戻って、循環する訳です。円環するんですね。」


 「生きている限り絶えず生命、命は運ばれているんです。なので「運命」なのです。」

 「なんか、厳粛さを感じます。」

 「生まれてから、子供の頃があって、成年となり、中年になり、高齢者になって行きます。その時々で、どの木→火→土→金→水にいるかで、現在の運勢や将来の見通しを占うわけです。

 なので「運命」をまとめると、「命」は、生まれた時点での静的・スタティックなベースとなる局面。

 対して、「運」は生まれてからの動的・ダイナミックな生命活動の局面です。

 これら2つの局面から人間を捉えることが重要なんです。」


 「似たような言葉で、宿命とあるんですが、これはどういう意味なんですか?」

 「これも、重い言葉ですよね。宿命の対決とかね。

 宿命は運命と比較すると、分かりやすいんですよ。

 宿命は、変えられない持って生まれた条件、例えば、生まれた場所とか時刻とか、持って生まれたうつわを意味します。

 さっき説明した「命」に当たります。」


 「そして、運命は、生まれてから、その先の活動内容、後天的な行動や環境、意志によって切り開いていく過程や結果を意味します。

 繰り返しになるけど、さっきの「運」と同じ意味です。

 宿命という持って生まれたものをただ受け入れるのではなく、足りないものをどう補い、過剰なものをどう捌くかという人生の処方箋を導き出すのが、四柱推命の最大の特徴です。」


 「鍼灸治療では、よく「補瀉ほしゃ」と言って、足りない温かさを「補法」で足したり、逆に過剰な熱やコリを「瀉法」で取り除きます。

 それと、全く同じですね〜。」

 「そうなのよ。

 昔の中国では、何でも陰陽五行で対応してしまうの。

 また、関連して「五術」というのがあってね。

命術、卜術ぼくじゅつ、相術、医術、山術さんじゅつの5つで構成されてます。」


 「では、個別に説明していきますよ。

 命術は、さっきまでお話ししていた四柱推命、運命学、算命学、九星気学があります。これらは、こよみや数字を使います。

 次に、卜術は易占い、煙占い、星占い、奇門遁甲きもんとんこうがあります。これらは、主に潜在意識や直感、霊感を使用します。

 聞き慣れない奇門遁甲は、古代中国で生まれた時間と方角の吉凶を占う開運・方位術なんです。

 三国志の諸葛孔明さんが軍略や開運に使用してたことで有名で、今でも自分にとって良い気運が上がる方位をとして、引越しや旅行先を決める時に使用します。」


 「そして、相術は、人相、手相、骨相、体相などがあります。ここらへんはイメージがつきやすいですよね。」

 「昔の中国は、占いの種類がいろいろあったんですね〜。」

 「古代から三国志とか争いも多かったし、歴代皇帝も始皇帝から始まって、コロコロかわるからね〜。現状の判断や未来を見透したかったんだろうね。」


 「五術の残りは2つだね。

 医術は、漢方、鍼灸、推拿すいな、外気功などです。ここらへんは、野崎さんの専門だから、私より詳しいですよね。

 推拿は、マッサージみたいなもんですよね?」

 「手技的には微妙に違うところもあるけど、ほぼマッサージです。」


 「最後の山術は、養生、薬膳、内気功、符呪ふじゅです。

 前の医術は他者からの治療だけど、山術は自己治療です。

 養生は体操や呼吸法です。

 薬膳は、流行りの薬膳カレーとかスープとかです。大体、花山椒ホワジャオや八角が入ってます。

 符呪は、主に道教に由来していて、神仏や霊的な力を借りて災いを取り除き、幸福を招くための文字や記号(呪符・霊符)や呪文を使用しますよ。」


 「昔、日本でも流行った映画『霊幻道士』や『幽幻道士』でキョンシーとかテンテンとかで、お符や霊符をおでこに貼ってたやつだね。

 野崎さんの年齢だと、ちょっと分からないかもだけど、ネット検索すれば、イメージが分かると思います。」


 「まあ、四柱推命やその周辺をいろいろ説明してきたけど、理解できたかな?」

 「いや〜、たくさん説明・解説ありがとうございました。四柱推命が陰陽五行をベースにして、システム化されていたのに驚きました。恐るべしです。」

 「それは良かった。

 コーヒーとか、ちょっとジェラートとかも始めたので、お暇があったら、またお越しくださいね。」

 「ありがとうございます!

 アイスも大好きなんで、また来ます!」

 野崎はお店を出ると、整体院に戻って行った。


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