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行くぜっ!こもれび整体院  作者: 山崎奈緒


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12/14

#12 CAの麻美さん

 東京大田区の京浜急行線、雑色駅を降りて、雑色商店街をOKストア方面に歩く。国道15号を渡ると、今度は水門通り商店街になる。そのまま数分歩くと、左側に銭湯がある。

 第五相模湯は日曜日だけ、「かじめ風呂」が供される。

 かじめ風呂とは、かじめ昆布が入った薬湯である。先々代が元は千葉県の南房総で潜水夫をされてたそうで、その親戚からかじめ風呂が体にいいと聞いて試したことが始まりらしい。

 今でも南房総から直送された天然の海藻を使用して、ミネラル分が多く、豊富なヨードで血行促進、肌はツルツルし、髪はしっとりして、温泉なみの温浴効果がある。


 こもれび整体院の野崎は、寒くなって来ると、このかじめ風呂に時よりやって来る。

 お湯は琥珀色で、いかにも温まりそうだ。野崎はかじめ風呂に入って、次に無料のサウナ、そして、水風呂は無いので、水シャワーを浴びる。

 これを1セットとして、2か3セット繰り返す。温度差により自律神経が程よく刺激されて、整ったはずだ。

 

 野崎は銭湯から出ると、すかさず近所の焼き鳥屋さんに入店した。

 「こんばんは〜。」

 「らっしゃい!!」

 と威勢よく板前さんの挨拶が返ってきた。

 カウンター席に座り、まずは、大好きなバイスサワーを注文して、メニューを眺めた。

 すぐにバイスサワーがやって来て、サウナで極度にカラカラになったノドを潤した。

 「ああ〜。」

 と唸ったら、モモとねぎ間やつくねなどの焼き鳥とシイタケの串焼きを注文した。


 出来上がるのを待ちながら、日曜日夕方の長寿番組を見ていた。番組後半の大喜利が始まっていた。野崎は、好楽さんのファンなので、陰ながら応援した。

 焼き鳥がやって来た。串をつまんで、モモを食べるとトリ肉のうま味とチー油を堪能した。そして、バイスサワーで流し込んだ。至福の時間であった。


 さっきからちょっと離れたカウンター席のキレイな女性が気になっていた。

 日本酒を飲みなが、ちょこちょこ首と肩をさすっている。職業病からか、いちいち人の何気ない動作が、どうも気になる。

 たまらず、野崎は声を掛けた。

 「あの、ちょっといいですか〜?」

 「えっ、ああ〜、はい。」

 と女性は少しびっくりして応えた。


 「ええと〜、本当にごめんなさい!

 さっきから、肩とか、さすってるのが気になってしまって、すみません!」

 「ああ、これね〜。

 最近ちょっと痛くてね〜。

 四十肩か五十肩みたいなんだけど。

 お酒飲んでも、治らないね〜。」

 と笑って明るく応えた。

 やや酔っぱらっているみたいだ。

 絡まれると面倒くさい。


 「オレ、近くで整体やってるんですよ。

 もし、よろしかったら、一度診させてください。」

 と、名刺を渡して、会計を素早く済ませて、帰宅した。 

 かじめ風呂で気のめぐりが良くなったのか、専門書を読みながら、そのまま寝てしまった。

 

 その翌日の午後、焼き鳥屋さんにいた女性が、突然こもれび整体院にやって来た。

 受付の真由美さんは、いつものように明るく挨拶した。

 「いらっしゃいませ〜。」

 看板犬のモフモフちゃんも入り口にやって来た。

 女性は真由美さんのほぼコスプレ姿にちょっとビックリしていた。

 「突然すみません!

 予約とかしてないんですが、大丈夫ですか?」

 「大丈夫ですよ〜。

 おかけになって、少々お待ちください。」


 「お待たせしました〜。

 あれっ、焼き鳥屋さんにいたお姉さん!

 早速、来ていただいて、ありがとございます!

 改めまして、野崎と申します。

 よろしくお願いします。」

 丁寧に挨拶した。

 「昨夜はありがとうございました。

 中野麻美と申します。

 こちらこそ、よろしくお願い致します。」

 麻美さんは完璧な角度でお辞儀と、凛とした滑舌で挨拶をした。全身ユニクロウェアであったが、品があり、最早ユニクロに見えなかった。


 「それでは、こちらの小上がりに上がって、横になってください。

 症状は四十肩でしたよね?」

 麻美さんは仰向けになりながら答えた。

 「そうなんです。

 昨夜は、まあまあお酒を飲んだけど、夜中に、やっぱり肩の痛みが出てきて、あまり眠れず、今日もお休みだったので、先生のお名刺を頼りに来ました。」

 

 野崎は、胆経の肩井穴あたりを触診しながら続けた。

 「肩は独特の痛みがあって、辛いですよね〜。

 オレは少年野球で肩をやっちまってるんで、よく分かります。

 ええと、ところで、どんなお仕事されているんですか?」

 「国内線の客室乗務員をしてします。」

 「そうなんですね〜。

 昨夜の雰囲気と少し違った立ち振る舞いだったので、そういうことですね〜。」

  

 客室乗務員は、昔はスチュワーデス、今はCAキャビンアテンダントと呼ばれて、羽田空港から数駅の蒲田や雑色あたりではよく見かける。

 その主な仕事は、機内サービス業務と保安業務がある。

 保安業務とは、飛行機内という高度1万メートルという環境でトラブルに対処する目的で、航空法に基づく「保安要員」としての任務である。

 乗客の命を守る最優先の任務であり、緊急時の脱出誘導、救急対応、機内不審者・火災への対処、離発着時の安全確認(手荷物収納やシートベルト)を日常的に行う。

 厳しい訓練をクリアした安全のプロフェッショナルで、昭和世代にとっては、ドラマ「スチュワーデス物語」が懐かしい。


 野崎は、続いて小腸経の肩外兪・肩中兪のあたり、そして、肩甲骨と胸椎の間にある僧帽筋と菱形筋をほぐしながら、筋肉の状態を確認した。

 「まあまあ、凝ってますね。

 昔から肩コリはあったんですか?」

 「学生の頃からありました。

 酷い時は首の方まで凝って。。。」

 「元々、肩はあまり良くないんですね。

 お休みの日は、今日みたいに普通にあるんですか?」

 

 「ありますよ。

 だいたい、4日出社して2日休みの4勤2休というローテーションを基本としたスケジュールなんです。

 例えば、国内線だと羽田から那覇、那覇から羽田、羽田から福岡、と一日に3から4 便に搭乗します。

 で、福岡にお泊まりして翌日は福岡からスタートして3・4便に搭乗します。

 それから、4日目に羽田に戻って来ます。そして、2日間のお休みをいただきます。

 こんな感じなんですよ。」


 「シフト制なんですね〜。」

 「そうなんです。

 前は国際線にも搭乗してましたけど、今は国内線で後輩の指導をしつつの業務です。」

 「もうベテランですね〜。

 なんかイメージですけど、機内は狭そうだし、揺れるし、体を自由に体操とか出来なさそうだし、まあまあストレスたまりそうですね〜。」


 「本当そうなんですよ。

 お客様の接客もあるし、安全面にも気を使うし、そうそう、最近だとスマホのモバイルバッテリー火災とかもあってね〜。。。

 まあそれでも、いろいろなところに行けるし、そこでの美味しい食べ物とか、楽しみもあるんですよ。」

 麻美さんは、野崎を安心させるような笑顔で応えた。さすが、ホスピタリティあふれる接客のプロフェッショナルだ。


 「四十肩なんですけど、そもそも、肩関節は人間の関節の中で一番可動域が大きい関節なんです。その分、構造がちょっと複雑になっています。

 肩関節はローテーターカフという筋肉たちが囲って安定化させています。

 ローテーターカフは、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋で構成されているんです。

 で、四十肩の原因は、ほとんど棘上筋で、麻美さんの場合も、おそらくこれです。」

 

 「棘上筋は始めに触った肩井という肩のメインのツボにある筋肉なんです。

 この棘上筋は、腕の重さを常時ぶら下げているので、年齢と共に磨耗して筋繊維が細かく切れて損傷していきます。40代や50代に出てくる訳です。」

 棘上筋が損失すると肩関節の安定機能が失われて、肩の骨同士が衝突したり、可動域制限や痛みが発生します。」


 「更に、肩だけの問題で無くて、首と連携して、重たい頭蓋を支える役目が、肩にはあります。この負担もあり、肩は症状が出やすい関節になってます。

 また、整体の視点から考えると、真の原因は体幹・姿勢の不安定化と思います。

 年齢的なことも、もちろんありますが、麻美さんのように、狭い客室や通路での特殊な勤務サービスも負担になってそうです。」


 「棘上筋の筋繊維の損傷は、もう少し時間が経てば回復して、痛みも治まります。

 しかし、麻美さんの場合、巻き肩と言って、肩が前方に転位してます。これも肩コリの原因になってます。

 これらの根本的な原因は、体幹のインナーマッスルが弱っていることです。

 誰しも40代あたりから、加齢によりどうしても、インナーマッスルが弱まります。」


 野崎は説明を続けた。

 「と言うのも、脚や腕の筋肉と違って、インナーマッスルは文字通り身体の深い位置にあって、可視化しにくいんです。

 インナーマッスルとは、具体的に、さっきのローテーターカフの筋肉たちも含まれるけど、特に、腹横筋・横隔膜・骨盤底筋群・多裂筋の4つは「インナーユニット」とも呼ばれて、安定した身体づくりに重要なんですよ。」

 

 「例えば、腹横筋の場合、そもそも腹筋とは、腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋で構成されているんです。中でも、腹横筋は腹筋の中で最も深部にあって「天然のコルセット」と呼ばれてます。

 この腹横筋が弱くなると、腹圧が低下して内臓が支えられなくなり、ぽっこりお腹になりやすいです。」


 「次に、横隔膜の場合、これ膜というより、筋肉で出来ているんですよ。焼肉屋さんでいうハラミね。この横隔膜が弱くなると、呼吸が浅くなり、酸素の交換量が減るので、疲れやすくなります。

 そして、骨盤底筋は弱くなると、尿漏れや内臓下垂、またしても、ぽっこりお腹になりやすく、なります。」

 

 「最後に、多裂筋は背骨についている筋肉なんで、これが弱くなると、姿勢が維持出来なくなります。

 こう見ると、体幹のインナーマッスルが弱くなると、老化現象のイメージがありますね〜。

 麻美さんも、薄っすら思い当たるところがありそうですか?」

 「残念だけど、あります。(苦笑)

 気付かない内に、老化が始まってたんですね〜。。。

 私、大丈夫かしら?」


 「全然、大丈夫ですよ。!!

 まだ、四十代ですし、インナーマッスルを強化して行きましょう!

 四十肩の治りも早くなりますよ〜。」

 麻美さんの表情が明るくなってきた。


 「今日の施術は、ここまでです。

 全身調整と、四十肩を重点的にさせていただきました。

 次回から、インナーマッスル強化をやった行きましょう!

 姿勢が良くなって、美しさに磨きがかかりますよ〜。」

 野崎は笑いながら話した。


 「野崎先生、ありがとうございました。

 焼き鳥屋さんで声を掛けていただいて助かりました。

 四十肩だけでなく、老化防止まで教えていただいて。私、まだまだ働けそうです。

 今日は本当にありがとうございました。」

 麻美さんは床に降りて、丁重にお辞儀した。

 会計と次回予約を済ませた麻美さんを野崎は見送った。そして、少し大きくなった背中を観て、頬を緩ませた。

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