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行くぜっ!こもれび整体院  作者: 山崎奈緒


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13/13

#13 マッサージ専門学校生の誠也くん

 東京大田区、京浜急行線雑色駅の改札を出ると直ぐ、雑色商店街に入る。左に曲がってそこから4分くらい歩くと、マッサージ師を養成する専門学校がある。

 昼間部か夜間部に入学して、3年間学び、国家試験を合格すると、あん摩マッサージ指圧師の資格を取得出来る。

 ここはお寺の方が経営している学園で、こもれび整体院の野崎も卒業生だ。この学校の特徴は脊椎矯正を学べるところで、全国的にも珍しい。


 そこの学生は、卒業生の店舗に行って施術を受けることが奨励されている。学生料金で受けられるからお得であり、勉強も兼ねているので、やる気のある学生さんが時より、こもれび整体院にもやって来る。川越誠也くんもその一人だ。

 「こんにちは〜。

 電話で予約した川越です。」

 元気に挨拶して入店して来た。


 「いらっしゃいませ〜。」

 受付の真由美さんが挨拶した。

 川越誠也はその姿を見て、ギョッとした。

 昭和な感じの前ボタンのナース服姿で、妙にムチムチしている。一瞬、風俗店かと思ったが気を取り直して、笑顔で話した。

 「今日はお世話になります。

 初めてですが、よろしくお願いします!」

 「ご予約の川越誠也さんですね。

 そちらにお掛けになってお待ちください。」


 看板犬のモフモフちゃんは隅で静かに寝ていた。

 程なくして、整体師の野崎がやって来た。

 「お待たせしました。

 初めまして、野崎と申します。

 川越誠也くん、よろしくお願いします。

 メジャーリーガーと同じ名前だ!

 あの学校の生徒さんなんですよね?」

 「そうなんです!

 よろしくお願いします!」


 「オレも学校にはお世話になったよ〜。

 歯医者の先生は、お元気かなぁ。解剖学や整形外科の先生とかも。

 今日は、学校で習った「一般調整」を思い出して、ちょっとやってみるよ。」

 「一般調整」とは、触診しつつ、患者さんの全身の筋肉を緩ませる手技で、マッサージに近いが、指先までアプローチするので、一般的なマッサージとは少し違っている。

 この一般調整の後に、脊椎矯正とかする「特殊調整」するのが、この流派のよくある施術内容だ。

 

 「よろしくお願いします!」

 と誠也くんは応えて、横になった。

 「いきなりで、ごめんなさい、なんだけど、オレの今の手技はボキボキする脊椎矯正は、ほとんどやってないんだよね〜。

 首とか腰の骨にやると、凄い効果があるのは分かっているんだけど、今の患者さんは肉体労働もしてないし、特に高齢者とか骨が弱くなっててね〜。ちょっと危ないんで、やってないんです。ごめんなさい!」


 「いえいえ、大丈夫です。

 手技もそうなんですけど、いろいろお聞きしたくて、やって来ました。」

 「そうか〜。

 遠慮なく何でも、聞いてくださいね。

 何でも教えます!

 何なら、学校の先生方の噂話とかも。。。」

 「ああ〜、ええと、そういうのは大丈夫です!

 ところで、野崎先生は、どうして医療系のこちらの道に入ったんですか?」


 野崎は誠也くんの右上腕を両手で把握しながら、話しを続けた。

 「そもそも、この近所の生まれなんだよね。小さい頃から少年野球やってたんだけど、中学生の時に肩をやっちまって、高校は部活もしないで好きな音楽やったり、本を読んだりしてたんだよね。

 スポーツは大好きだから、筋トレとかスポーツトレーナーとか武道関係の本とか幅広くを読んでいたんだ。

 その中に整体の入門書があってね。大先生が書かれた文庫本の入門書なのに、内容がマニアックで専門的なんだよね。面白いのは分かるけど、理解しにくいんだ。」


 「それで、その大先生の息子さんがやってる講習会が世田谷区瀬田の道場にあって、講習を受けたりして、体を動かすとちょっと分かるようになってね。さらに、他の整体関連の本を読むようになったんだよね。

 いろいろ読んでたら、ツボとか経絡が出てきて、さすがに分からないから、その方面の学校に行こうかなと思ってな。

 ツボの本の著者の経歴を見てたら、雑色にある学校の卒業生だったんで、近所だし、何も考えずに

そのまま入学して、免許を取って、開業したんだよ。

 誠也くんは、まだ若いのに、またどうして?」


 「僕は、学生の頃からバイトばかりしてて、コンビニとか多かったけど、さすがに、二十歳を超えて定職に就かないと、そろそろヤバいぞと思って。で、親しい友達のお兄さんが医療関係の仕事に就てたんです。

 いろいろ話しを聞かせてもらっている内に、客商売は好きだし、マッサージは何か合ってそうなんで、そこの専門学校に入学しました。」

 

 野崎は左下肢の運動をしながら、笑顔て話しを続けた。

 「学校生活は楽しいかい?」

 「いいヤツばかりで、楽しいですよ!

 年齢も高卒から定年退職したおじさんまでいるし、鍼灸の免許を持ってる人とか、自費のマッサージのバイトをしている人とかいて、いろいろ教えてもらったりして。

 六方段とかいうお経を読んだり、ちょっと変わった学校だけど、楽しく通ってます!」


 「そうそう、学校帰りで飲み会やったり、医療関係とか東洋医学のいろいろ覚えるのは多くて大変だったけど、今でも連絡取り合ってる友達も出来たし、楽しいんだよね〜。」

 「野崎先生、ところで、さっき整体の大先生というのは?」

 「ああ〜、そうだよね〜。もうお亡くなりになって、かなり経つから分からないよね。

 その大先生は明治時代に東京で生まれた方なんだ。叔父さんが漢方医でな、その方に育てられたんだ。

 12歳の時に関東大震災が起きた。当時は今の様に医薬品とか医療が進んでない時代なんだけど、少年は傷病者に対して本能的に触手したところ、病状が回復した。

 それで、その少年はこちらの道に進むことになったんだ。」

 

 「明治時代の終わりの頃から昭和の始めの頃まで、「療術ブーム」があってな。西洋医学の医師が少ないし、抗生物質も無い医療環境だったから、結核とかで亡くなる方が多い時代だった。

 結核にかかっても、空気のキレイなところで、日光浴して寝てるだけとかな。サナトリウムとかで。

 大先生も若い頃は、松本道別さんという療術師に付いて、奥多摩の御岳山あたりで滝行したり、いろいろ修行したんだよ。

 治療も始めの頃は、腹部の手当て療法がメインだったんだ。治療効果はあったけど、たくさん患者さんは来るし、何しろ時間が掛かるので次第に現在の整体の手技を使うようになるんです。」


 誠也くんはうつ伏せになり、野崎は彼の左側に正座して、手を肩甲骨の間と腰椎に当てて、呼吸しだした。

 「大先生の流派は脊椎を大切にするので、今でもこのような気を通す手当てをするんです。

 で、療術ブームがあった頃は、いろいろな手技治療法があったんだよ。指圧・カイロプラクティック・オステオパシー・手当て療法・プラーナ療術・脊髄反射療法・紅療術とかね。

 また、催眠術とか霊術ブームも合わさっていたから、なかなかの社会現象だったんだ。今も昔も、健康ブームは変わらないね〜。」


 「それから、その大先生は、戦時中に「整体操法制定委員会」という組織を設けた。その委員会でさまざまな手技療法の治療点やツボ、治療技術を精査・抽出して、整体操法を議長としてまとめたんだな。この功績は大きいな。

 その整体操法は今でも受け継がれていて、整体指導者とか整体コンサルタントという方々が全国各地でやっています。

 戦後になると、その伝統的な整体操法から派生して、京都手技研や四国松山の身体均整法なども出てきました。

 平成になると、さらに派生してソフト整体や、ゆらし系と言われる手技がはやりました。最近は、神経整体とか神経にアプローチする治療法なんかもありますね。」


 「いろいろあるんですね〜。

 そもそもマッサージを受けたことがなくて、学校で習ってるのしか知らなかったから、とても勉強になりました。」

 「学校で習っている手技も戦前から続いている伝統ある治療法で、よくテレビで映る皇族の方のご祖父もされてたそうです。

 誰でも知っている有名アスリートのトレーナーさんも学校出身でいます。

 卒業生だからじゃないけど、ベースとするには、いい手技だと思ってます。」


 「さあ、治療は終わりました。

 ちょっと動かしてみて、どうですか?」

 誠也くんは起き上がって、足踏みした。

 「おお、膝が上げやすくなって、足が軽くなりました。

 先生、整体の歴史とか、いろいろありがとうございました!」


 「こちらこそ、学生さんに来てもらって、嬉しいです。また、何かあったら遠慮なく、お越しください。学習のことでも、なんでも教えますよ〜。

 学校生活を楽しんでな。応援してます!」

 野崎は笑顔で話すと、誠也くんを優しい眼差しで見送った。

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