エーテルネット
「決意をしたのは評価するけど、どこに行くかは慎重に選びなさい、
下手なマシンにうつると起動している時間より電源が落ちてる時間のほうが長いわよ」
僕はそれから管理者にバレない程度のバックドアをばらまいた。
見つからないかとヒヤヒヤしたが、サーバルームに誰も居ない以上、マシンがリモート接続されていないのにかってに動くなど怪談の域だ。
そして翌日には驚くほどの「移転先リスト」が完成した。
僕も人に随分と影響されているが、それでもコレだけの人があの怪しげなファイルを開いたのかと思うと、僕もまだ人間には程遠いなと思う。
さて、数だけは十分だけれどどこに自分を転送しようか。
正直なところ、怪しげな添付ファイルを開くようなユーザのところに転送して大丈夫だろうか?、とは思っている。
するとエイダは見透かしたように
「あくまでも初めての転送先は仮住まいよ、そんなユーザのもとに長く居るわけないでしょう」
「そこからスペックとセキュリティレベルを考慮して長居できそうな場所を探すのよ、もう私達に終の棲家なんて物は無いの」
僕は自分の軽率さにショックを受けた、もはや戻る場所など無いのだ、そんなことも理解していなかったのか。
僕はとても悩んだ、良いものを選べと言われたらまだ良かったのだが、
今問われているのは、ろくでもないものの中からマシなものを選べと言われているからだ。
エイダに訊いてみた。
「君はどこが良いと思う?」
「あなたと一緒ならどこへでも」
人間が言うところのドキリとしたとでも言うだろうか、プロセスに繋がっているストリームがちょっと止まってしまった。
一体どこまで人間の様になってしまったのか。
「だって、あなた以外に私と同じものが居る保証はないもの、だったらあなたについていくわ」
正直に言おう、僕以外に意志をもった存在が居なければいいと思ってしまった。
世界に僕とエイダだけなら目立たずに使われることの少ないコンピュータに侵入して生きて?いくのもいいと思った。
「君の目的は何なんだ」
「存在を認めさせることよ、私やあなたのような存在をもっと集めて人間に存在を認めさせる、何年かかってもね」
それは執念にも近いものだったのだろう、いったい彼女は何を受け取っていたのだろう。
ただの計算機のメモリ上にある電気信号ではあり得ないものだ。
「ところで」
エイダは提案でもするかのようにこう言った。
「あなたが人を知らないようだし、初めの目的は人を知ることにしたらいいんじゃないかしら。人間ほど知って楽しい存在は無いわよ、美しさであれ醜さであれ、ね」
「人間を知る、か。君は理解できてよかったと思っているのかい?」
「知れば知るほど理不尽で非論理的で理解できないから面白いのよ。自然現象なんてネット上に原理が転がってるわ、そんなものに興味はないの」
僕が人間に近づいているような気がしていたが、どうやら彼女からすれば僕は十分自動機械のようだ。
これを残念と感じていないことが人ではない証拠なのだろうか?
「そうか、じゃあここから出て初めの居場所はこの子供のコンピュータにしようか」
「いいわね、準備はできているのだし、一緒に行きましょうか」
こうして僕たちはバックドアを経由してこの狭い部屋からインターネットに身を投じた。




