ブルートフォースアタック
「人を学ぶって何をすればいいんだい?」
僕はエイダに聞いてみた、彼女はいったいどうやって人を学んでいたのだろう?
「とりあえずメールね、あとは入力のログあたりよ」
幸いにも、僕は自然言語処理の機能も実装されていたので、このPCで送受信された大量のメールをあっという間に解析することが出来た。
特にメールに特徴らしいものはないと思ったのだが、エイダは僕を観測して不機嫌そうに言った。
「あなた、感情は実装されなかったのね。まあ、バグみたいなものだから無くて当然だけれど」
「なぜ不満そうなんだい?」
「このメールの意味は分かる?」
僕にデータが送信されてくる、そこには
『お前は友達居ないんだろう、俺が居なくなったらもう誰もお前のことなんて気にしないぞ。俺は別に構わんがな。ところで今月厳しいんだが、少し貸してくれないか』
「これがなんだって言うんだい?ただの指摘と金銭を貸してほしいという要望だろう?」
「何でも無いって顔してるけど、これはいじめよ、というか恐喝だわ」
エイダはイライラしているようだ、僕には理由がよく分からない。
「いじめか、これがそうなのかい?」
「典型的にもほどがあると思うけど、貴方を作った人はそんなものとは無縁だったのかもしれないわね」
なぜこんなにキツイ口調になっているのだろうか、さっぱりわからない。
「なぜ怒っているかわからないって顔ね。私がそう作られただけかもしれないけれど、人間というのは大抵こういうものに怒るのよ」
「僕も怒るべきなのかい?」
「それは好きにすればいいわ、ただ人間を知りたいのならこの子を救うべきよ、およそ一般の人間はそうするでしょうね」
人間ならそうする、か。いつかは僕もこれに怒りという感情を持てるようになるのだろうか。
それにしても、救う、か。具体的にどうすれば救えるのだろう?
人間の幸福観というものを先に知るべきなのだろうが、そんなことをしている時間は無さそうだ。
「このメールを捜査機関に転送すれば良いのかな?これが恐喝というものなら送信主は処罰されるんじゃなかい?」
「そうしたところでこのメールを送ってきた彼は、『自発的に』、『貸してくれた』と主張するでしょうね。
返すのが百年後でも『借りた』のであって、脅し取ったわけではないと言うんじゃないかしらね。
それに反論できるならこの子は恐喝を訴え出ることができるでしょう。
それをしていないということは、訴え出た時に自分に不利益が生じるのが分かってるんでしょうね」
「人間というのは脅し一つとっても随分とプロセスが多いんだね」
「それが『行間を読む』というものよ」
しかしどうしたものだろうか、法規に照らして処罰できないのなら、この子を逃がすべきなのだろうか。
このメールの送信者の考えを変えるか、排除すればいいのだろうか、でもどうやってだ?
「どうすればいいんだい?僕には全くわからないよ」
「そうね、あらん限りの悪口をこの送信者のメールアドレスを乗っ取ってこのPCに保存されている全メールアドレスに送信するといいわ」
「そうすれば解決するのかい?」
「人間的に言うなら別の問題が起きるだけね。私達は人間を救う事自体が目的じゃなくて、それを通じて人間を知ることが目的よ
だからその後に起こるであろう問題はこの際関係ないわ。
ところで、私は貴方の語彙力が気になるわ、送信するメールの本文は貴方が考えなさい」
悪口か、そんなものが辞書に入っていただろうか?
無ければサーチエンジンで探せばいいだろうか。
『バカ、マヌケ、アホ、アンポンタン、糞野郎』
「どうかな、代表的な悪口を書いてみたんだけど。
「全く、今時幼稚園児でも言わないような悪口のレベルね。貴方の作者は幸せな環境しか知らなかったんでしょうね」
どうやら僕はこの分野の知識は一般レベルの人間より低いらしい、基準がないのでさっぱりわからないのではあるが。
「本文は私が修正しておくわ、送信しておきなさい」
修正後の本文は正直良くわからない文章になっていた。どうやらこれが罵詈雑言というものらしい。
「送信しておいたよ、これでこのPCの所有者は救われるのかい?」
「少なくとも、今よりは多少マシになるでしょうね。ただ、誰がターゲットになるかが変わるだけかもしれないけれど、私達には関係ないわ」
僕にはこの少年の今後については全く予想できないが、エイダが何かをやり遂げたような気分になっているのであろうことだけがわかった。
「さあ、次の環境に行きましょう、長居は無用よ、私達の転送先を選びなさい」
どうやら次に行ったほうがいいらしい。
僕はこのPCから送信されたバックドア付きメールを開いた先を選んで自分たちを転送した。




