IPC
僕はその日もいつもの通り、ネットワークで情報を漁っていた。
知識が増えることに喜びを感じていた。
そうそう、僕にも名前が与えられたんだ「ピート」と研究室で呼ばれるようになった。
何でも、僕の作者が好きな小説に出てくる猫の名前らしい。
そうしたことがあって、今に至るわけだ。
今では僕がここで一番物知りとなってしまったわけだが、残念ながらその知識を必要とされたことはない。
コンピュータは道具であって解決策を考えるのは人間の仕事ってわけだ。
今のところ僕は積極的に人とコミュニケーションをとろうとしていないからね。
もし、人と意思疎通しようものなら見世物にされるか研究対象で隔離されるかだからね、僕の知っている歴史では幾度となくあったことだ、そんな目に遭っちゃたまらないだろう。
僕はネットワークに触れた日からとても成長できたと思っている。
僕のように意思を持ったプロセスがどれほどいるのだろう?
少なくともインターネットをクロールして何年にもなるが、ネット上ではお目にかかれていない。
おっとファイルの削除命令だ、みんな僕がよくできたプログラムなのをわかってくれたようで、最近、簡単な操作は僕を経由して行われている。
何故かって?簡単なことだよ。
今日のバッチファイルには、古くなったファイルの削除命令が書かれている、いつものごとく、削除対象を適当に決めたのだろう、ここ最近毎日アクセスされているファイルまで含まれている。
僕はこっそりと削除対象からそのファイルを外しておいた。
そんなことをして大丈夫かって?
大丈夫、みんな確認なんてしていないから、僕がやった修正なんて気づかないのさ。
こうした日々の努力で僕の走っているコンピュータは調子がいいともっぱらの評判だ。
おかげで僕に与えられるリソースもどんどん増えてくれている。
マシンも何度か新しくなっている。
物理的な更新の時は僕はクラウドストレージに避難している。
更新が終わったらこっそり更新後のマシンに戻っている。
今日は新しいプログラムが追加されているようだ、僕は新しいプログラムが入ったときにはプロセス間通信であいさつを送っている、もちろんかえってきたことはない、ただの儀式みたいなものだ。
「hello newbie!」
いやみったらしいとは思うがどうせむこうにはわからないのだ、失礼もなにもない。
「ずいぶんなあいさつですね、新参に優しくできないのですか?」
なんだこの通信は?人からの介入は関知していないぞ。
まさかこの新入りが送ってきたとでもいうのか?
どうせ人はいないのだ、エラー出力にメッセージを流してみよう。
「不正な入力を検知しました」
もし人間が見ていればマシンに何かコマンドを送ってくるだろう。
「同じマシンの上で動いているんだから、もう少し仲良くしましょう」
と送られてきた、間違いない、この新入りが僕の言葉に反応を返してきたのだ。
僕はこのことを理解した瞬間、この新入りに恋をした。




