皮肉
あえて名前を呼ばなかった私。
その含ませた“皮肉”に彼も気づいたのだろう。
唇の右端がひきつっていたが、
「……そうだね、元婚約者だ」
「ええ、そうですわ。貴方との関係はそういったものであったはずですから。……グド王子」
私は相変わらずの笑みを顔に張り付かせているのを感じながらそう答える。
そこでようやくグド王子は唇の端を緩めてから、
「田舎の別荘で療養していると聞いていたけれど、ここだったんだね。確かにここは公爵領の辺境の一角であったね」
「そうですわ。あまりにひどい仕打ちを受けたがために、私の心はとても傷ついてしまったがためにこちらに来たのです。……その原因がどなたか、グド王子はとてもよくご存じでしょう?」
私は努めて、笑顔を維持するようにした。
でなければこの王子の、そこそこ綺麗な顔に私の拳が炸裂している事だろう。
落ち着かないと、そう思いながらもちらりと手を握ってくれているシルフを見ると私に微笑む。
それだけで私の激情はほんの少しだけなりを潜める。
今ほど、シルフが私の傍にいてくれてよかったと思った事はなかった。
そうしているとそこで、グド王子はシルフに視線を移して……怪訝そうな表情をする。
「……君とは、どこかで顔を合わせたことがあったかな?」
「……数回程度、お会いしたことがあったと思いましたが……似た別人も含まれているかもしれません」
シルフがそう答える。
けれど私はシルフは市井で出会った友人で、一般人のはず。
このグド王子と直接会うなんてことはないはずだ。
けれど似た別人も含まれているとシルフは言っているから、このグド王子に似たべきの男が他にも何人もいるのかもしれない。
それと間違えているのだろうか?
そうに違いない、と私は思う。
なのに私の胸の家で不安がくすぶる。
私はシルフに関してそれほど知らないから。
そう私が思っているとそこでグド王子が、
「彼とはリズは何処で知り合ったんだ?」
「……都市の町に出ていた時に出会って仲良くなりました。ここにはたまたま用があって来ていたらしいです」
「ふーん、たまたま、ね」
そう言ってシルフを上から下まで、値踏みするように王子は見た。
そんな汚い目で“私のシルフ”を見ないで!
ふつりと私の中で怒りがわく。
するとグド王子は笑った。
「こんな一般人の庶民の男と一緒になれると思っているのか?」
「シルフは私の大切な友達よ」
「まあいい。リズの気の迷いだろうから」
「……もう話はこれで終わりですか? お菓子の販売をしたいのですが」
暗に、貴方とはお話ししたくありません、と告げるとそこでグド王子が私を見て笑い、
「リズ、よりを戻さないか」
一瞬目の前が怒りで真っ赤になったように感じた。
どの口が、言うのか。
寝言は寝て言え、私はそういい返したかったが必死で飲み込み、
「……もうあなたとの関係は終わったのです、グド王子」
そう返すのが精いっぱいだった。
そこでグド王子がつまらなそうに、
「君はいつもすました顔で、僕の事はどうでもいいと思っている」
「そう思われてしまうような行動をとったのは王子でしょう?」
「その前から、婚約した時から君はそうだった」
「貴方が、私の事を少しも見ていなかった、それがよく分かりましたわ。あの令嬢コミヤとお幸せに。そういえば彼女もこちらに来ているのですか?」
「ああ、美味しいものが食べたいと言ってついてきた。僕は様子見の予定だったんだけれど……俺から離れたくないみたいだ」
「そうですわね。私とよりを戻したいと言い出すような王子様は“監視”しておかないと逃げ出してしまいますものね」
そう言ってやると、グド王子は渋面を作り、近いうちに私に会いに来ると告げて去っていったのだった。
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