顔が赤いよ
不愉快なものを見てしまった。
しばらくは忘れていたかった、正確には忘れていて、ここでの生活を満喫しかかっていた気がする。
なのに、あのグド王子が私の前に突如現れた。
今日はベッドの上で枕を殴るコースだわ、そう私はぼんやりと思った。
実物を殴ればすっきりとしそうだがそういうわけにもいかない。
あれでも私のいる国の“王子”だ。
「なにが、よりを戻さないか、よ。あれだけの事をしておいて……もぐっ」
そこでシルフが、売り物のビスコッティを一袋とり、一枚を私の口の前に差し出した。
なんとなくそのままカリカリと、噛んで食べてみる。
香ばしい小麦とナッツ、そしてチョコレートが美味しい。
すると目の前のシルフもそのビスコッティを食べる。
「相変わらずリズのお菓子は美味しいな」
「……シルフ、売り物」
「だったら後でお金を払うよ。……甘い物を食べると少しは落ち着くかなと思って」
「……ありがとう」
どうやら私を心配してシルフがお菓子を私の口に入れたらしい。
また、残りの数枚はヘレンとクロトに渡していた。
そこで私は、サナがここにいないことに気付く。
「あれ、サナは?」
そりにシルフが、
「サナはさっき近くのお店で飲み物を買いに行きましたよ。何でも“リザール国”で有名なお茶が売っているらしくて。地方を回っていた村長さんの息子さんが出している出店らしいですよ」
「そうなんだ。あ、あそこのお店にサナがいるわ。……看板は“ラディル国”特産て……」
「地域によってつづりの読み方が違うからね。“リザール国”も“ラディル国”も同じ国だから」
「うん、知っている。でも、サナとクロトはもしかして、“ラディル国”出身だったりする? あの“ラティスの花”の香水を貰ったと言っていたし」
「……うん、そうだよ」
そこでシルフが少し考えてから頷いた。
そしてそれを見て私は、
「シルフも“ラディル国”出身であったりするの?」
「……うん」
「そうなんだ。随分離れた町に来たのね」
「……実は、リズに会いに来たんだ」
遠い場所から来たんだと私が問いかけるとシルフがそう答えた。
面白い冗談だわ、と返そうと思ったのに、その時のシルフの瞳はやけに真剣に感じられて、私は笑い飛ばせなくなる。
そこでシルフが笑い、
「という、冗談でした。うん、リズにはもっと元気になってもらわないとな」
「もう……ごめんね。嫌な思いをさせてしまったわ」
「何が?」
「『庶民の男』とか」
「あ~、まったく気にしてないので大丈夫。俺の方が格好いいから、負けない!」
「何、それ」
そんな事を言い出したシルフに私は笑ってしまう。
でも私はあの時グド王子、“私のシルフ”に『庶民の男』といったのは気にくわ……。
そこで私は、ん? と思った。
そういえばさっき、私は何と思っただろう。
“私のシルフ”と思った記憶が……。
え、えっと……え?。
そこで私は自分が無意識の内に思ってした言葉に気づいて、衝撃を受ける。
だって、それは……。
「リズ、顔が赤いよ」
「な、何でもないわ」
シルフに言われて私はそう返すも、頭は混乱したままだ。
私は、今、何を。
そこでお客さんが来て、焦る気持ちを必死で抑えながら私は、残りの焼き菓子を販売していったのだった。
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