悪役令嬢
クロト達のいる家のドアを叩くと、クロトがすぐに顔を出し、
「シルフさ……おはようございます」
「おはよう」
にこやかにクロトに挨拶するシルフを見て、私はあれっと思った。
「シルフはここに住んでいるのでは? なのに挨拶?」
「クロトが寝ぼけていたんだろう。とりあえず俺はあいさつしかえしてみました」
楽しそうにシルフが答えるので、何をやっているんだろうと私はおかしくて、小さく笑ってしまった。
それからクロトがヘレンをじっと見るも、それ以上は何も言わず……次に現れたサナも、クロトと同じような行動をとっていたが、何も言わないのでそれ以上私も聞かなかった。
それからこの村の市へと移動しながら私はある疑問について、クロト達に聞く。
「そういえば駆け落ちしている関係上、村おこしに参加して目立っても問題ないのかしら?」
私の疑問に答えたのはサナだった。
彼女は恥ずかしそうに笑って、
「同じような名前の人はいくらでもいますしそれに、何らかの稼ぐ手段を手に入れないと生活が……持ってきた貯金だけではいつか底を尽きてしまいますから」
「そうなの……私に出来る事があれば、その駆け落ち関係に関しては別人の振りをして、私が“サナ”ですと対応してもいいから」
「ありがとうございます」
嬉しそうに微笑んだサナがそこで、
「でも、悪役令嬢? ですか。シルフさ……から聞きました。変な呼び方ですね。リズはこんなにいい人なのに」
「……悪役令嬢は、物語に出てくる悪役のような令嬢だからそう呼ばれていただけ。寝取り女コミヤがおそらくは創作した悪事に関係しているから……創作された物語の“悪役”という意味で間違ってはいないわね。もっとも、その創作にはあの寝取り女コミヤ自身が今までやって来たことが含まれていたけれどね」
「あ、えっと、すみません」
「いいの、シルフに話したのは私だもの。悪役令嬢。“悪役”を演じさせられた“令嬢”、“悪役”を押し付けられた“令嬢”、どちらとも取れるわね。どちらも“本当”の“悪”ではない」
皮肉気な口調になってしまった私に、サナは何も言えなくなってしまったようだ。
そこでシルフが私の手を握った。
「でも俺は、リズがそんな人物じゃないって知っているから」
「……うん」
私は小さく頷く。
支えてくれる人がいるから、私はまだ、私でいられる。
そう思っているとそこで、ようやく村の市らしきものが見えてきたのだった。
評価、ブックマークありがとうございます。評価、ブックマークは作者のやる気につながっております。気に入りましたら、よろしくお願いいたします。




