第27話「時限式の愉快犯」
月曜日。
遼の視界の端で、赤い警告ログが異常な速度で点滅を繰り返していた。
「……五件目だぞ。どうなってんだ」
机に広げたノートパソコンの画面には、東京二十三区のマップが表示されている。渋谷、新宿、池袋、中野——赤いピンを一つ立てるたびに、遼の眉間の溝が深くなった。
すべて、今日の半日で発生したバグの座標だ。
世界の設計図を読み解く男の顔が、モニターの青白い光に照らされている。その表情は、納品前にバグ報告が五件同時に飛んできた時のプログラマーそのものだった。
壁際で——いや、今はソファの端で待機していた凛が、状況を補足した。
「通常、自然発生するバグの頻度は都内全域で週に二、三件程度です。半日で五件の発生は、確率論的に異常値を示しています」
いつの間にか、凛の定位置が壁際からソファに移っている。三日前の夜——あの新宿地下街の帰り道から。遼はそのことに気づいていたし、凛もおそらく気づいている。だが互いに指摘はしない。バグを直す男と、バグを直す男を監視するシステムは、自分たちの間に生じた変化については驚くほど鈍感だった。
「自然発生じゃないってことだろ」
遼はマップ上のピンを線で結んだ。
きれいな五角形にでもなれば映画的なのだが、現実のバグはそう気を利かせてはくれない。一見するとランダムに散らばっている。
「しかも全部、レベル一とか二のしょうもない小物ばかりだ。階段がループするとか、自動ドアが永遠にフェイントかけてくるとか——」
「被害規模は小さいですが、放置すれば民間人の認識に齟齬をきたします」
「わかってる。問題は《《なぜ》》だ」
遼はエアキーボードを展開し、五つのバグから抽出したログデータを宙に並べた。深紅の光が指先から伸び、空間にデータの格子を編み上げていく。
五件のバグ。どれも、市民生活を脅かすほどの代物ではない。修正に必要な演算量も微々たるものだ。わざわざ手間をかけて仕掛けるには、あまりに割に合わない。
まるで——嫌がらせだ。
「あのさ、バグってのは放っておいてもプログラムのほころびから湧いてくるもんだけど……誰かが意図的に『バグを発生させる装置』を仕掛けることはできるのか?」
「……『強制錯誤出力機』のことでしょうか」
「物騒な名前だな」
「局地的に空間のコードを書き換え、意図的にバグを誘発させる違法デバイスです。強固なセキュリティロックがかかっており、一般の人間が入手・起動することは不可能です」
「一般の人間じゃなきゃ、できるってことだろ」
凛は否定しなかった。
遼は宙に浮かぶログデータの一箇所に手を伸ばした。すべてのバグの根元に埋め込まれた、不自然な記述——タイムスタンプ。
「これを見ろ。五件のバグ、発生時間はバラバラだ。渋谷が午前七時、新宿が九時、池袋が十時半、中野が正午……。だが根元に組み込まれた起動コードの生成時刻は、五件とも『今日の午前零時』で完全に一致してる」
指でコードの数列をなぞる。
「つまり、昨日の夜のうちに五箇所にまとめて仕掛けられてた。時限爆弾みたいに。犯人は深夜に都内を巡回して、朝になれば順番に起動するようセットした——ってことだ」




