第24話「新宿地下街の攻防」
(面倒くさいタイプだな)
一層目を突破する。通常のパッチ。深紅の光が赤黒い表層を切り裂く。
二層目。少し手間取る。コードが暗号化されていて、読み解くのに数秒かかった。凛がリストアで周囲の空間を安定させている間に、遼は暗号を解いた。
三層目——核の本体に触れた瞬間、それが来た。
核が爆ぜた。
膨張。収束。そして——全方位への衝撃波。
路地裏の時とは桁が違う。あの時の衝撃波は壁と壁の間の狭い路地裏だった。今回は地下通路。天井と床と壁に衝撃が反射し、増幅される。
凛が動いた。
「リストア・シールド——」
展開が間に合わない。衝撃波の速度が凛の展開速度を上回っている。凛の目が僅かに見開かれた。彼女のシステムが「回避不能」を算出した瞬間——
遼が凛の前に立った。
反射ではなかった。
前の時は、身体が勝手に動いた。考える前に動いていた。今回は違う。遼は衝撃波の速度を見た。凛のシールド展開速度を見た。間に合わないことを計算した。そして——計算した上で、凛の前に立った。
背中に衝撃が叩きつけられた。
「——————ッ!」
身体が浮いた。壁に叩きつけられる。背中から嫌な音がした。視界が白くなり、一瞬だけ意識が飛んだ。
床に崩れ落ちる。
「朝霧——!」
凛の声だった。いつもの無機質な声ではなかった。最後の一文字が、僅かに上擦っていた。
遼は壁にもたれて身体を起こした。背中が焼けるように痛い。肋骨が一本、いったかもしれない。
だが——凛は無傷だ。
「……大丈夫だ」
「大丈夫ではありません。バイタルに複数の異常値を確認。右第七肋骨に——」
「核は」
「……残存。衝撃波はフェイクです。本体は未消滅」
遼は歯を食いしばって立ち上がった。腹の底から、鉄の味がする。
「……続ける」
「朝霧、あなたの身体は——」
「聞いた。折れてるのは知ってる。——続けるぞ」
遼はエアキーボードを再展開した。指が走る。衝撃波のフェイクで防御コードが再生されているが、構造は見えている。
(三層目の暗号が変わってる。フェイクと同時にコードを書き換えたのか。頭のいいバグだ)
凛がリストアで通路の空間を補強しながら、遼の背後に回った。
「……接近戦に切り替えます。核を私が拘束します。その間にデバッグを」
「ああ。頼む」
凛が跳んだ。銀色の軌跡が地下通路を切り裂く。銃ではなく、素手。核の表面に手を押し当て、リストアのコードを直接流し込んで拘束する。核が暴れる。凛の腕が軋む。だが離さない。
「——今です」
遼の指が加速した。三層目の新しい暗号を解く。二秒。核の本体が露出する。
砕いた。
深紅の光が核を貫通し、赤黒い塊が内側から崩壊した。空間のねじれが解けていく。通路の壁が元の位置に戻り、天井のタイルが正しい形に整列する。
終わった。
同時に——遼のこめかみに鋭い痛みが走った。
(……代償か)
何かが消えた。何の記憶を失ったのか、今回もわからない。わからないまま、いつものように呑み込んだ。
遼は壁にもたれたまま、ゆっくりと息を吐いた。右の脇腹が鉄を噛んだように痛い。




