ホンモノとニセモノ
「しらばっくれるでない!
お前を身代わりにしたこの私を忘れるわけないであろうがっ」
そんなセゼリアの言葉に、ああ、と寧々子は呟いた。
横で王が、ぼそりと言う。
「……身代わりにしたとか、この場で言っていいのであろうか」
――確かにっ。
「我こそはシャターンのセゼリア姫っ。
ニセモノよっ、王の隣から去るがよいっ」
「面白くなってきましたな」
とガリブは、にまにまと笑いながら言う。
「人が悪いですな」
とその右隣でベルカントが言い、左隣ではグルハンが言う。
「……こういうときに、人の本性が見えるもの。
さて、寧々子様はなんと――」
寧々子は立ち上がり、迷いなく言った。
「その者をひっ捕えよっ!」
迫力ある寧々子の声に、ザッと城の衛士たちがセゼリアに槍を向け、取り囲んだ。
ガリブが笑い出す。
「ちょっとっ。
ニセモノはあっちの方だって言ってるでしょっ」
寧々子は豪奢な金の椅子にもう一度、腰掛けて言う。
「なにをおっしゃいます。
ホンモノの寧々子はわたくしです」
ちなみに、この金の椅子、見てくれはいいが、硬いので、クッションがいっぱい置いてある。
「そりゃ、寧々子はあんたでしょうよっ。
でも、シャターンの姫にして、この後宮に入るはずだったセゼリアは私よっ」
そう繰り返すと、寧々子は、あーあ、という顔をする。
……もしかしたら、とりあえず、この場をおさめて、穏便に事を済ませようとしてくれたのだろうか。
だが、ここまで来た以上、もう後には引けないっ、と頑なに思うセゼリアに、
「……セゼリア姫よ」
と想像より遥かに逞しく麗しいカムラン王が呼びかけてくる。
「お前は私の後宮に入りたいのか?」
「えっ?」
改めてそう問われ、セゼリアの声はひっくり返ってしまった。
「私の側にはべりたいのか?」
「えっ?
……いや」
とセゼリアは言い淀む。
まあ、改めてそう問われると――。
キラキラした椅子に座り、品の良い装いで、大きな孔雀の羽根にあおがれていたりする寧々子がうらやましくはあるのだが。
正直言って、自堕落に過ごし、夜は気の合うおっさんたちに酒をおごってもらいながら、みんなで呑む生活の方が、シャターンでの王宮暮らしよりも楽しかった。
「……確かに。
私には町での暮らしの方が性に合っていたっ。
私はこうなるべくして生まれてきたのかなと思ってしまうほどにっ」
とセゼリアはおのれの手を見ながら呟く。
そもそも、シャターンでも、王族の暮らしは窮屈だった気がする。
王女として期待に応えようと頑張ってはきたけれど。
また、王族ならば、常に隙を見せてはならないし。
容赦なく、相手を断罪したりもしなければならない。
私には寧々子のような、自分に歯向かうのなら、容赦無くぶった斬るっ、みたいなところはない気がする。
寧々子、濡れ衣でも平気で斬り捨てそうで怖い……、
とセゼリアは怯える。
今、まさに、私も斬り捨てられそうだし。
ホンモノのセゼリア姫なのにっ!




