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身代わり花嫁の結婚 ~古代帝国の後宮日記~  作者: 菱沼あゆ


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ニャオンの企み


「よし、この娘をシャターンの姫に見えるように整えよ」


 自分の屋敷に戻ったニャオンは家の者たちにそう命じた。


「ちょっとっ。

 そもそも私はシャターンの姫なんだって言ってるでしょうっ?」


「じゃあ、町暮らしが長かったせいだろう。

 姫らしさのカケラもないぞっ。


 お前が身なりを整え、姫らしい所作を思い出している間に、私は寧々子の正体を探る」


 くくく、とニャオンは笑った。


「この優秀な私の手にかかれば、寧々子のどんな正体も暴き出せるぞっ」




 そして、ニャオンはほんとうに優秀だった――。




 王宮の廊下を歩きながら、姫らしくなったセゼリアは言う。


「ちょっと。

 なに背中が丸くなってるのよ。


 あんなに息巻いてたのに」


「もう帰ろうか、セゼリア」


「ここまで来てなに言ってるのよっ」

 さあ、王様に会うわよっ、と言うセゼリアに、ニャオンは引きずられていく。




 その頃、寧々子はずいぶん打ち解けて来た王の重臣たちと宴に出ていた。

 さまざまな珍しい楽器を旅の者たちが披露している。


「寧々子様は音楽に造詣が深いとか」

と貴族のひとりが言う。


 いいえ。


「これは珍しい鼻笛だそうですよ」

と竹のようなもので作られた笛を見せてくれた。


 普通の笛だ。


 ……口で吹けばよいのでは?


「口は嘘をつくが、鼻は嘘をつかないので、愛を伝えるのには、鼻笛がよいそうです」


「ほう。

 寧々子に愛を伝えるためには、私も鼻で吹けばよいのか?」

と王が言って、


「いえいえ、滅相もない」

と貴族は苦笑いし、後退していった。


「寧々子様、これは叩いてリズムをとるものですぞ」

と今度はガリブがなにやら持ってくる。


 カスタネットかな、と思ったが、手の形に彫られた大型動物の骨だった。


「これを手のように打ち合わせるのですよ」


 手を打ち合わせればいいのでは、と思ったが、叩いてみると、手で叩くよりは確かに響きがよかった。


 そのとき、

「遅れまして、申し訳ございません」

とちょっと覇気のない男の声がした。


「おお、ニャオンか。

 遅いではないか」

とグルハンが笑顔で振り返る。


「えっ? ニャオン様っ?」

と寧々子は腰を浮かして居並ぶ貴族たちの向こうを見てみたが、そこにいたのは、屈強な美男子だった。


「……寧々子よ、なにを残念そうな顔をしていおるのだ」

と王が言う。


 なんかふかふかした感じの人が来るかと思ったのに……と思いながら、ふたたび座った寧々子は王に問うた。


「ああそういえば、ニャオン様って敵なんでしたっけ?」


「敵というわけではない。

 あれはあれで国のことを憂えているだけだ」


 そう王は解釈しているようだった。


 やっぱり、この王様、ちょっと好きかな、と寧々子は思う。


「ニャオンは気が荒いが、嘘のつけぬ実直な男でもある。

 前の主人の不正も黙っていられず、暴いて。


 危うく殺されるところだったのをグルハンに拾われたのだ」


「……それは危険な部下では?

 グルハン様、実は人がいいのでは?」


 そう寧々子が呟いたとき、

「その女人は?」

とグルハンがニャオンが連れてきた女性を見て言った。


 頭から薄紫の透けるようなベールをかぶっている髪の長い細身の女性だ。


「旅の踊り子か?」


 そのグルハンの言葉に、

「無礼な」

とその女はよく通る声で言った。


 寧々子と王の前に進み出ようとして、衛士たちに止められる。


「寧々子よ、私の顔を見忘れたかっ!」


 女はベールを落とした。


「……えっ?」


 不適な笑みを浮かべる女を前に、寧々子は言った。


「……誰?」


 寧々子は人の顔が覚えられない人だった。




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