最悪の組み合わせ
「ニャオン様。
名前が可愛いので油断してしまいますね」
「……お前たちの国ではそうかもしれないが、我が国では普通に成人男性も使っている名前だからな」
と寧々子は王に言われる。
まあ、そうなのかもれしないですけど。
長年染みついた感覚は消えないですよね、と思っている間にも、ニャオンの脅威は迫っていた。
ニャオンは酒場にいた女が面白いことをわめいているのに気がついた。
先に周りで呑んでいる者たちから情報を得て、女に近づく。
彼女のテーブルの横に立った。
「お前が最近、酒場を荒らしているという女か」
女は、ちょっと吊り目だが、美人だった。
背が高く、すらっとしていて、少し高貴な雰囲気もある。
彼女はジロッとニャオンを見、
「麗しい屈強な騎士様。
お城の騎士様かしら?」
と訊いてきた。
「そうだが。
お前は何者だ。
高貴な方の名を騙っては酒にありついていると聞いたが」
無礼な、と彼女は立ちあがろうとしたが、ちょうど注文していたらしい酒がドンと来たので、大きな青銅の盃に入ったそれをグッと飲み干したあとで、ニャオンを向いて言った。
「騙ってなどいないわ。
私はシャターンのセゼリア姫よ」
「……セゼリア様はもっと美しいはずだが。
遠くで拝見しただけだが。
セゼリア様は花が綻ぶように笑い、遠い場所まで芳しいその香りが漂ってきそうな儚げな愛らしさだったぞ」
開戦に反対している王の正妃であるセゼリア・寧々子とは立場的には敵であるが。
そこはさすがに寧々子をかばい、反論したみたニャオンだったが。
「あの女は偽物よっ。
私が持っていたシャターンの姫である証の腕輪が、腕が細くてたまたま、はまったから、私が輿入れを押し付けて逃げただけよ」
ちっ、と彼女は舌打ちをして言う。
「王に顧みられることのない、たくさんの妃の中のひとりになるなんてと思って逃げたのに。
なんで、あの女が正妃になってるのっ?」
「……その話が本当だとして。
お前が後宮に入っていても、正妃にはなれていないと思うが」
とニャオンは、つい、素直な感想を述べてしまう。
「私があの女より美しくないと言うのっ?」
「いや、まあ、充分美しいが……」
えっ? とセゼリアを名乗る女は赤くなる。
「セゼリア様が正妃となれたのは、次々と摩訶不思議な知識を繰り出して王を楽しませたからだ。
それがお前にできるのか?」
「そんなこと行ってみなきゃわからないじゃないっ。
ともかく、今のままじゃ、狂人扱いされて、城の門も越えられないのよっ」
「優秀な門番でなによりだ」
とニャオンは呟いたが。
この女、使えるな、と思っていた。
この話が嘘であれ、ほんとうであれ、寧々子たちを動揺させることができる。
その隙をついて、上手くグルハン様が動いてくだされば――。
「よし、女。
私と来い。
ここのツケは払っておいてやる」
ニャオンは女の座るテーブルに、どさりと貨幣の入った革袋を投げた。
「女じゃないっ。
セゼリアよっ」
と革袋をがしっと取りながらも、女は叫んでくる。
「……狂犬みたいなやつだな」
これが王宮に嫁入りしてこなくてよかった、とニャオンは思ってしまった。




