忍び寄る影
そんな風に寧々子たちが平穏に(?)過ごしている頃、憤っているものがいた。
シャターンのセゼリア姫だ。
「なんなのっ!?
身代わりに置いてきたあの娘が正妃になっているってどういうことっ?」
「姫様、声が大きいです」
お静かに、とばあやが居酒屋で叫ぶセゼリアを嗜める。
嫁入りせずにすんだセゼリアは生まれて初めての自由を謳歌していたのだが、町の噂で自分の代わりに後宮に入った娘が、正妃になったと知り、荒れていた。
「たかが身代わりのくせに、こんな巨大な帝国を牛耳れる立場になってるだなんてっ」
「……牛耳ってはないと思いますね」
と冷静にばあやは言う。
「セゼリア様なら、正妃にでもなろうものなら、政治にも口出ししそうですが。
普通の姫はなさいませんから」
「あれは姫ですらないわよっ。
なんか変な格好した女よっ」
じゃあ、なんでその変な格好した女を自分の身代わりにしたんですか、とばあやはセゼリア姫を見る。
「……乗り込むわよ」
「何処へですかっ?
殺されますよっ」
「なによっ。
私が本物のセゼリアよっ」
だからですよ、とばあやは言う。
「王に嫁ぐのが嫌で逃げ出したなんてバレたら、殺されますよ」
「あの女に無理やり入れ替わらされたことにすればいいじゃない」
「えっ?
無理やりですか?
どうやって?」
「私があの女に脅され、仕方なく入れ替わったと言うのよ」
と言うセゼリアに、
「……あなたを脅せる人などいません」
とばあやは率直な意見を述べた。
こんな凶悪な姫を脅せる者がいるのなら、いっそ見てみたいとばあやは思う。
「あと今更戻ったところで、王が気に入っておられるのは、その偽物の方なので」
「じゃあ、そいつは側妃にでもなればいいでしょう。
正式に嫁入りしたのは、この私、シャターンのセゼリア姫なのよっ。
ともかく行くわよっ」
とセゼリアは立ち上がる。
「せっ、せめて明日の朝にしてくださいっ」
こんな時間から乗り込んでいっても王様にはお会いできませんよっ、とばあやは、なんとか宥めた。
カウンターにいたオヤジたちがこちらを振り返り言う。
「そこの威勢のいい姉ちゃん。
奢ってやるぜっ。
こっち来て呑まねえか。
一緒にいるおばさんも」
「ありがとうっ。
いただくわっ」
今夜は前祝いに呑むわよっとなんの前祝いなのかセゼリアは言い、オヤジたちの元に行ってしまった。
すぐに意気投合して呑みはじめる。
「……絶対、今の生活の方が合ってて、楽しそうですけどねえ」
と言いながら、ばあやも、気のいい男たちが奢ってくれた酒を呑む。




