寧々子の罪
「寧々子様に置かれましては――」
宴の途中、高位貴族の一人が進み出て、改まった感じにそう言い出して。
あ、やな話っぽいなと寧々子は思った。
「正妃様としてのお振舞いも徐々に身につき」
……とりあえずは褒め言葉っぽいが?
「――邪魔な者たちを次々に粛清していらっしゃるようですが」
粛清はしてません。
なんか勝手に消えてるだけです。
だが、その貴族は睨め付けるように寧々子を見て言う。
「その者たちは寧々子様の秘密を嗅ぎつけたという噂ですが。
寧々子様には余程知られたくないことがあるようで」
その言葉に他の貴族たちもざわつく。
いや、知られたくないのは私じゃなくて、ジルですよ。
こんな適当な姫を連れてきた、そこの宰相ですよ。
……もし、姫でないとバレたら、我々、鞭打ちの刑とかになるのだろうか。
その前に逃げよう。
でも、ジルと一緒に逃げたら、駆け落ちみたいだから、別々に逃げよう。
そう思ったとき、王が言った。
「無礼であろう。
寧々子は正妃なうえに、他国の姫であるぞ」
いや、まずその、他国の姫、のところがあれなんですが、と思ったのだが、その貴族は予想だにしてないことを言い出した。
「なんでも、寧々子様には奴隷の刻印があるとか――」
奴隷の刻印……?
貴族たちがざわつき、ベルカントとメイッサが舌打ちをする。
このことだったのか、メイッサたちが隠していたのは、と寧々子が思ったとき、いつも物憂げな表情の王が言った。
「知っておる」
えっ?
「寧々子の背にうっすらと残っておる小さな焼印であろう。
奴隷の刻印と似ておるが違う。
あれは、今は無き古代帝国の王の一族が、王族である印として押していた焼印。
卑しき者に押されるようなものではない」
……私にとってはまず、ここが古代帝国なんですけど。
ここより、さらに昔の時代のってことですか?
と寧々子は思う。
そういえば、壁際に飾ってあるのは古美術品らしいのだが。
私にとってはすべてが古美術品なんだが――。
「神代にあったという伝説の王国のですか?」
とベルカントまで身を乗り出し、訊いている。
「モノの本に書いてあった印と同じであった。
シャターンはいにしえの神の帝国があった辺りにあるので、それでかもしれぬな」
いや、どれでだ、と寧々子は思ったが、みな、なんとなく神秘的な伝説を持ち出されたので、納得してしまった。
「なんと寧々子様はいにしえの神の国の王女の生まれ変わりなのか」
そんなこと言ってません。
「ということは、シャターンの王族はみな、神の国のモノである刻印があるとか?」
寧々子は小声でジルに言った。
「兄を見つけ出して、なんか適当な焼印押しておいて」
「……そんな兄上様を牛かロバみたいに」
そう言いながらも、ジルはもう密かに手配しているようだった。
「古代帝国の焼印?
そんなモノ知るわけないであろう」
あとで王様はそう言ってきた。
「ああ言っておけば、みながありがたがるからだ」
「そ、そうなのですね……」
やっぱり王様は王様だな。
やさしげでおとなしげだが、ハッタリかますのは上手いようだ。
「寧々子」
はい、と顔を上げたが、王様は、
「いや……なんでもない」
と王様にしては珍しく話を誤魔化した。
ちょっと気になるな、と寧々子は思う。




