妃の昇級試験 ふたたび
「また寧々子様の秘密をしゃべりそうな愚か者が現れました」
メイッサの報告に、またか、とベルカントは溜息をつく。
「……この件、寧々子はどう考えておるのだ」
「寧々子様は実はなにもご存じないのでは。
よく見えない位置ですからね」
「だが、王はご存じだろう」
そのはずなんですが、なにもおっしゃいませんね、とメイッサが言うと、ベルカントは溜息をつき、
「わかった。
わしが処理しておくから。
その者はこちらに送り込め」
と言う。
はい、とメイッサが頭を下げると、
「まったく……。
エミールが寧々子に傾倒していなければ、こんなややこしいことには」
と頭の上から、ベルカントの声が聞こえてきた。
笑ってしまう。
「エミール様と寧々子様、今や姉弟のようですからね」
二人で仲良く庭園を歩くさまなど、美しい本物の姉弟のようだ。
「まあ、寧々子は学問に長けているから、親しくしてくれるのはいいのだが。
まだ広まってもいない、見つかったばかりの数式など寧々子は何処で仕入れてきておるのだ。
シャターンは学者連中にコネでもあるのか。
ずいぶん教育に力を入れておるようだが」
「でも、寧々子様の兄上様はそんなに賢そうじゃなかったですけどね」
そう呟くメイッサを見つめ、ベルカントは言う。
「お前、私のことも陰で、そんな風に言っておるのではないか?」
いえいえ、とんでもございません、とメイッサは微笑んだ。
数日後、ついに次の妃の昇級試験が行われるというので、妃たちは広間に集まっていた。
「あら、寧々子がいないじゃないの」
「尻尾を巻いて逃げ出したんじゃありませんの?」
「あらあ、シャターンは遠い遠い田舎の国ですのに。
逃げ出して帰るのも大変ですわね」
ほほほほほ、とみなが笑い合っているところに、ジルと寧々子が現れた。
「あら、まだいましたわ、あのドブネズミ」
だが、そのドブネズミはジルに先導され、広間の高くなっている場所にある椅子に腰掛ける。
おまけに、ベルカントやエミールまで寧々子に従うように現れた。
「さて、お集まりの皆さん。
本日はその場で答えていただきます。
『勝ち抜けっ!
妃昇級試験っ!』
第一問っ!」
「ちょっとっ。
なんであんたが出題してんのよっ」
「正しいと思う方はこちら。
間違っていると思う方はこちら」
と寧々子は左右の壁を指差す。
「勝ち抜いた方には副賞として、私自ら、美貌を保つツボを押して差し上げます」
みながざわつく。
「最下位の方には、こちらのむちゃくちゃ苦い緑の飲み物を」
器に入った、どろっとした飲み物をジャンヌが見せる。
それを黄金の台の上に置いた。
「ま、これを飲むと肌が綺麗になるんですけどね」
みなが更にざわめいた。
「……寧々子様、それだと勝っていいのか、負けていいのかわかりませんが」
とメイッサは忠告してきたが、寧々子は構わず突き進む。
「では、第一問。
『太陽や月の周りに光の輪がかかると雨が降る』
正解だと思う方はこちら、間違っていると思う方はあちら」
みな迷ってウロウロしている。
側に控えていたジャンヌが、壇上の寧々子を見上げ、小声で言ってきた。
「問題考えるのが面倒くさいベルカント様たちに押し付けられたんでしょう?
お断りになってもよろしかったのでは?
負けた人から恨まれますよ」
そのベルカントは、興味津々、緑の飲み物を覗きに行ったエミールについて歩いていた。
「いやいや。
答えるより、出す方が楽しいわ。
ほら、私の出した問題で、みんなが右往左往しているわっ」
そこで、寧々子が笑うと、ジルが、
「……王よりお前の方が王っぽいな」
と呟いた。
「それもかなりロクでもない王だ……」
と。
「まあ、確かに、こんな高い位置にいて、みんなを見下ろしていると、うっかり暴君になってしまう気持ちもわからないでもないですね。
頑張れっ、人間どもっ、って感じですかね」
「……お前が誰より暴君では?」
とジルに言われた寧々子は言いかえる。
「頑張れっ、人間さんっ」
「そこじゃない」
「愚民様?」
――悪化してる!
「愚民さんかな……?」
「もう黙れ」
近くまで戻ってきていたベルカントは腰を屈め、純粋無垢なエミールの両耳を手で覆っている。
「エミール、将来人の上に立つのなら、ああなってはならんぞ」
と教えていた。
「いい反面教師だな」
とジルが呟く。




