まだまだ続く贈り物
朝、顔を洗うための水が、二つ取っ手のあるツボ、アンフォラから金の洗面器のようなものに注がれる。
水を注いでもらったり、飲み物を注いでもらったりするにもちょっぴり慣れてきた今日この頃。
そういえば、アンフォラって@って記号の元になったんじゃなかったっけ?
オリーブオイルとかぶどう酒とか、穀物とかを運ぶツボの単位がアンフォラだったからとかなんとか。
……1@
今となっては、遠い世界の記号だと思っていたが、こんな身近に、とネットで得た知識を思い出しながら、寧々子がアンフォラを眺めていると、顔を拭くための白い布を手に側に立っている召使いの女がこちらをじっと見ていた。
なんだろう……とそちらを見たが、視線をそらされる。
「寧々子様、こちら、王様よりお届け物です」
そのとき、唐突にメイッサが言ってきた。
そして、次の日には、その召使いはもういなくなっていた。
なるほど。
私はあまり人の顔を覚えないし。
召使いは妃としての位が上がってから更に増えたのでよくわからなかったが、確かにときどき変わっているな。
……何処に消えてるんだろう、ちょっと怖い。
昼前。
まだ日差しの柔らかいうちに散歩しようと、寧々子は庭から溢れでてくる花々の香りを嗅ぎながら、列柱廊を歩いていた。
左右に孔雀の羽根のようなもので自分を煽いでくれる者たちがつき、歩く速度を合わせてくれる。
いやまああの、確かに暑いんですけど。
どっちかと言えば、鬱陶しいかな~なんて。
狭い場所を通るときには、どうしても羽根が寄ってくるので、顔の間近を掠められて、鼻先がむずむずして、くしゃみが出そうだが。
そんなこと言おう者なら、この煽ぐ係の人たちが不手際を責められて殺されてしまうかもしれない。
……なんせ、庶民に人権とか、まだなさそうな時代だからな。
かと言って、これは王様から贈られた特権なので、断るわけにもいかない。
まあ、この人たちがパタパタやってくれて周囲を塞いでくれているおかげで暴漢に襲われにくい気もするし。
そう寧々子が思ったとき、真正面から、暴漢を使って襲いかかってきそうな人たちがやってきた。
他の妃たちだ。
この人たち、絶対仲良くないのに、なんでいつもつるんでるんだろうな。
ひとりで抜け駆けとかしないようにだろうか。
自分を襲うときも、長々話し合って意見がまとまってからしかやりそうにないので、ちょっと助かってはいる。
おのおのが自分が美しく見える、と思っているのだろうポーズをとり、立ちはだかる。
「ひとつ位が上がったくらいで喜ばないことね。
ほぼ庶民に近い妃のくせにっ」
ほぼ庶民に近い妃ってなんだろうな……。
「次の試験には参加するのかしらっ?
それとも、その地位から上には行けそうにないから、そこで満足しておやめになるっ?」
「一応、参加しようと思ってますが」
……暇つぶしに。
「そう。
楽しみね。
まだまだ試験の出題もされないんだけど――」
長老たちが思い付かないんだと思いますよ。
どっちかと言うと、問題作る側に参加したいなあ、と寧々子は思っていた。
別に位上がらなくていいし。
上がったお祝いにと四方八方に羽根が増えたり、霊柩車に押し込められそうになったら大変だし。
いや、霊柩車は自分のせいなんだが……。
「楽しみにしてるわっ」
「ほんとうに楽しみですね」
なんとなくそう返してしまった。
もうすぐ春ですね。
桜、楽しみですね。
ほんとうに楽しみですね、くらいな感じで。
だが、
「まあっ、自信満々ねっ」
「今度は私が勝つからっ」
「あら、私よっ」
と最後には自分たちで揉めながら行ってしまった。




