新たなる問題
帰っていく兄を見送りながら、寧々子はジルに言う。
「……双子だったことにしたらどうでしょうね。
セゼリアとセゼリア寧々子がいたとか」
「なんでそんなややこしい名前をつけたんだって言われるぞ」
まあ、そうなんですが。
私が偽物なことで、兄や国まで責め立てられるような事態は避けたい。
いや、初めて会った兄だし、その国に行ったこともないし。
こういう事態を招いたのは、セゼリア王女のせいではあるのだが、なんとなく――。
「兄君が突然訪ねてこられてビックリしただろう」
夜伽のあと、王がそう言ってきた。
そりゃうもうビックリですよ。
「私も挨拶したかったのだが、嵐のように来て去っていってしまわれたようだから」
ボロが出ないようにですよ。
「お前の昔の話など聞きたかったのだがな」
どのみち、あの兄は妹のことなぞ知らないそうですよ、
と思いながら寧々子は言った。
「兄とはあまり一緒に育っていないので――」
「まあ、王族というのは、何処もそんなものなのだろうな」
と素直な王は納得してくれた。
「……ところで、お前はなにか望みはないのか。
こうして、夜毎、女性のもとに通うと、毎度なにかねだられるとみな申しておるのだが」
「望みですか?
いえ、特に」
異世界に迷い込んだのに。
こうして、食べるものがあって、寝るところがあるだけで満足ですよ、
と寧々子は思っていた。
ま、あえて言うなら、さっきからずっと天蓋の薄布の外から涼やかな風が吹いてるんですが――。
この国は、古代らしく、いつでも何処でも、あけっぴろげな感じなのはどうにかして欲しいですかね。
だがまあ、郷に入っては郷に従えというしな、と思い、そこは黙っていた。
「そういえば、お前が悪辣なことをするので。
次々、お前に仕える者たちが替わっていっていると聞いたのだが」
「悪辣なこと……。
なんですかね?」
寧々子は口を開こうとしたが、王は、
「言わずともよい」
と言う。
「なにかとんでもない恐ろしいことを言い出しそうだから」
「……例えば?」
王は小首を傾げて言った。
「例えば――
私の知らない間に、何処かの国を侵略して属国にしておるとか」
そんな有能な妃なら、正妃にしたらいいと思いますね。
「でも、それで私の召使いが次々替わっていくのは意味がわからないんですけど」
そう寧々子は王には言ったのだが――。
火のないところに煙は立たないと言うしなあ。
まあ、後宮だから火元なくても立つか、
と思いながら、ふと薄布越しにメイッサとジャンヌを見てみた。
今の話を聞いていたのだろう二人は、それぞれ、違うタイミングで、ふい、と目をそらす。
王もあの二人を見た。
二人は用事をするフリをして、何処かに行ってしまった。
侍女たちは替わっていないから、替わったのはその下の下働きの女たちだろう。
寧々子は目で王に訴える。
『なにかありそうですよ。
あとで訊いてみますね』
「頼んだ」
口から出てますよ、王様……。
まあ、王様のこういうところは嫌いではない。




