第29話「帰り道と、テンプレの答え」
バルドさんと合流して、馬車はテンパレスへの帰り道を走り始めた。
フィリアさんも合流していた。クレインでの用事は無事に済んだらしく、昨日よりも少し晴れやかな顔をしていた。
「カイトくん、用事は済んだ?」
フィリアさんが聞いた。
「……ああ」
「よかった。顔が違うわよ、昨日より」
「そうか」
「自覚ないの?」
「ない」
フィリアさんが私にそっとウインクした。
馬車はのんびりと街道を進む。昨日通った草原と森が、今日は逆向きに流れていく。
「サラは冒険者になってどのくらい?」とフィリアさんが聞いた。
「テンパレスに来てから少しで、合わせるとひと月くらいですかね」
「たった一ヶ月でEランクか、早いわね」
「頑張りました!」
「何が一番大変だった?」
「ゴブリン初討伐が怖かったです。あとスライムが核を狙わないと倒せなくて最初ちょっと焦りました」
「基本よ、それ」とフィリアさんが笑った。「でも一番大変なことって、戦闘じゃなかったりするでしょう」
「……確かに。お金の管理と、宿を探すのと、あと字が読めなかったのが最初に困りました」
「字が読めなかった?」
「遠いところから来たので、最初は文字が全然読めなくて。今はちょっとずつ覚えてます」
「誰かに習ったの?」
私はカイトを見た。カイトは窓の外を見ていた。
「……ちょっと教わりました」
「へえ」フィリアさんがカイトを見た。「カイトが?」
「俺は暇だっただけだ」
「暇なのにわざわざ字を教える人がいるの、世の中には」
「……うるさい」
馬車が揺れた。
私は荷台の端から街道の景色を眺めた。
ひと月前、始まりの森に転移してきたとき、私は何も持っていなかった。お金も武器も知識も、頼れる人も何もなかった。
テンプレが欲しかった。チートが欲しかった。分かりやすくて強くて、異世界モノの主人公みたいな転生がしたかった。
「……でも」
「何?」とフィリアさんが聞いた。
「テンプレって、探してたら意外とあるもんだなって思いました」
「テンプレ?」
「異世界に来たらこういうことがある、ってやつです。茶番みたいなの」
「茶番……」
「最初は全然テンプレじゃないって思ってたんですけど。振り返ったら結構あって。良い人に助けてもらって、仲間ができて、少しずつ強くなって……全部テンプレといえばテンプレで」
「なるほど」
「テンプレって、探すものじゃなくて、気づくものなのかもしれないです」
フィリアさんが静かに笑った。
カイトが外を見たまま、ぼそっと言った。
「……お前が言うと説得力があるんだか、ないんだか」
「ある方で!!」
バルドさんが前の御者台から「楽しそうだね!」と笑い声を上げた。
馬車は街道を走り続けた。
テンパレスが、少しずつ近づいてくる。




