第28話「カイトの部屋と、朝のこと」
翌朝、私が目を覚ますと窓の外がうっすらと明るくなり始めていた。
ロウさんに貸してもらった客室は小さいけれど居心地がよくて、久しぶりにぐっすり眠れた気がした。
顔を洗って廊下に出ると、奥の部屋からカイトが出てきた。
「おはよう」
「……ああ」
「よく眠れた?」
「まあ」
「懐かしかったでしょ、自分の部屋」
「……うるさい」
でもちょっとだけ、表情が柔らかかった。
台所ではロウさんがもう朝食の準備をしていた。
「早いですね、ロウさん」
「年を取ると早起きになるものだよ。サラちゃんも手伝ってくれるか」
「はい!!」
パンを切って、スープをかき混ぜて、テーブルに食器を並べる。なんでもない朝の支度だけど、なんか好きだこういうの。
朝食を三人で食べながら、ロウさんがカイトに言った。
「強くなったのは分かった。でもな、カイト」
「……何」
「強さってのは、剣の腕だけじゃない。お前もそろそろ分かってきた頃じゃないか」
カイトは何も言わなかった。
「隣を歩く人間ができた。それだけで、お前は三年前よりずっと強くなってる」
カイトがちらりと私を見た。
私も見てしまった。
「……なんで俺を見るんだ」
「なんでカイトくんが私を見るんですか」
「先に見たのはお前だ」
「見てないです」
「見てた」
「見てません!!」
ロウさんが静かに笑っていた。
出発の時間になって、ロウさんが玄関まで見送りに来てくれた。
「また来い」
「……来る」
カイトがそう言ったのは、たぶん初めてだと思う。三年ぶりに戻ってきて、また来ると言った。それだけで、昨日から今日にかけて何かが変わったんだと分かった。
「サラちゃん」
「はい」
「カイトをよろしく頼む」
「えっ……あの……はい!!」
「なんで俺が頼まれてんだ」
「細かいことを言うな」とロウさんが笑った。
私たちはロウさんに手を振りながら、住宅街の路地を歩き始めた。
朝の空気が澄んでいて、石畳が朝日を受けて光っていた。
「……ロウさん、いい人だね」
「ああ」
「カイトくんが七歳から剣を習ってたって、すごいね」
「別に」
「すごいよ。私なんて何もできなかったのに、七歳から剣の稽古してたんだから」
「……お前にはお前の得意なものがあるだろ」
「私の得意なもの?」
「人と話すこと。あと」
カイトが少し間を置いた。
「……明るくいること」
それは、カイトにしては珍しいくらいまっすぐな言葉だった。
「……ありがとう」
「別に、事実を言っただけだ」
空が広くて、青くて、雲が気持ちよさそうに流れていた。




