第27話「老人の名前と、カイトの過去」
「儂の名前はロウという」
お茶のおかわりを注ぎながら老人が言った。
「ロウさん、ですか」
「さんはいらん。ロウでいい」
「……じゃあ、ロウさんで」
「聞いてないな」
「聞いてます!でもさんをつけないのは失礼な気がして!!」
ロウさんは苦笑して、カイトに「素直な子だな」と言った。カイトは「うるさい」と言った。毎回うるさいで返すのが癖なんだろうか。
「ロウとカイトくんはどういう関係なんですか?」
「師匠と弟子だよ」とロウさんが言った。「カイトが七歳のときから十三歳まで、剣を教えていた」
「えっ、師匠!!」
「テンプレか」とカイトが言った。だんだんテンプレの意味を理解してきているらしい。
「師匠と弟子の再会……テンプレ中のテンプレです……!!」
「そうか、よかった」ロウさんは笑った。「それで、今日はどのくらいいられる?」
「明日の朝には出発します」
「なら今夜はここに泊まれ。部屋は余っている」
「……いいのか」
「お前の部屋はそのままにしてある」
カイトが一瞬だけ、子供みたいな顔をした。
ほんの一瞬だったけど、確かに見えた。いつもの硬い表情じゃなくて、もっと柔らかい、どこかほっとしたような顔。
「……じゃあ、お言葉に甘えます」
「サラちゃんも泊まっていきなさい」
「いいんですか!?ありがとうございます!!」
夕食はロウさんが作ってくれた。シンプルなスープと焼いた肉と野菜だったけど、すごく美味しかった。
食事をしながら、少しずつカイトのことが分かってきた。
カイトは元々、小さな村の出身だということ。その村が三年前に魔物の大きな群れに襲われたこと。カイトは戦ったけど、守りきれなかった人がいたこと。
「……全員は助けられなかった」
カイトは食器を見ながら静かに言った。
「一人、幼馴染がいた。あいつが逃げ遅れて……俺が間に合わなかった」
「……今はどうなってるの?」
「生きてる。重傷だったけど、別の街で療養してると後で聞いた」
「よかった」
「……俺のせいで怪我をした。よかった、なんて言えない」
「でも生きてるじゃないですか」
カイトは黙った。
「生きてれば、また会える。謝ることもできる。死んでたらそれもできないから……生きてるのは、よかったと思う」
ロウさんが静かにお茶を飲んでいた。
カイトはしばらく黙ってから「……そうだな」と小さく言った。
夜が深くなるまで、三人でぽつりぽつりと話し続けた。




