第24話「野営と、星空と、焚き火のこと」
日が傾いてきたころ、バルドさんが「今夜はここで野営にしよう」と言った。
街道脇の開けた場所に馬車を止めて、焚き火を作る。バルドさんが手慣れた様子で木を組んで火をつけた。
「野営……!!」
来た。焚き火を囲む野営シーン。異世界旅のテンプレ中のテンプレだ。
「嬉しそうね」とフィリアさんが笑った。
「好きなんです、こういうの! 焚き火囲んで、夜空見て、旅してる感じがして!」
「テンプレってやつか」とカイトが言った。
「そう!!……って、カイトくん覚えてたんだ」
「嫌でも覚える、何度も聞かされると」
バルドさんが干し肉とパンと野菜のスープを振る舞ってくれた。外で食べるご飯は、なぜか格別に美味しい。スープの湯気が冷えてきた夜風の中に立ち上がって、なんとも言えない幸福感があった。
「バルドさん、クレインには何を届けるんですか?」
「香辛料だよ。テンパレスじゃ手に入りにくいものが、クレインでは安く手に入るんでね。逆もしかりで、こういう往復商売が飯の種さ」
「商人のテンプレ……!!」
「?」
「カッコいいってことです!!」
バルドさんは豪快に笑った。
食事が終わって、焚き火を囲んで四人でぼんやりしていると、フィリアさんが静かに歌いだした。
言葉は分からない、エルフの古い言葉らしかった。でもメロディが美しくて、焚き火の音と夜の虫の声と混ざり合って、なんだか胸のあたりがじんとした。
「綺麗……」
「エルフの旅歌よ。旅が無事であるようにって意味の歌」
「いい曲ですね」
「百年歌ってるから上手くなったわ」
焚き火の向こうでカイトが空を見ていた。
この前の夜、噴水広場で一緒に星を見たときと同じ横顔だ。
「カイトくん」
「何だ」
「クレインに着いたら、どうするの?」
しばらく間があった。
「……人を探す」
「人を?」
「昔、別れた人がいる。その人に会いに行く」
「……大切な人?」
「……ああ」
それ以上は聞かなかった。
焚き火がぱちぱちと音を立てた。フィリアさんの歌が続いていた。バルドさんがいつの間にか寝ていた。
旅の夜はゆっくりと更けていく。




