第20話「テンプレを超えるもの」
翌朝、ギルドの掲示板の前で私はしばらく腕を組んで悩んでいた。
「どうした」
カイトが隣に来た。最近、ギルドに来るとだいたいカイトがいる。本人は毎回「たまたまだ」と言うけれど、もう誰も信じていないと思う。受付のお姉さんなんて「今日もカイトくん来てますよぉ」とにこにこ教えてくれるし。
「Eランクへの昇格試験があるって聞いたんだけど」
「ああ、ある。月に一回、ギルマスが直接試験をする」
「次回は……三日後か」
「受けるのか?」
「受けようかなって……でも」
掲示板の端に貼ってある試験内容を指さした。
「試験内容が、指定された魔物を一体単独討伐、なんだよね」
「……まあFからEは壁があるからな」
「どんな魔物が来るか分からないし、一人だし」
「そうだな」
「……カイトくんはどう思う?」
カイトは少し黙ってから、掲示板を見たまま言った。
「お前が決めることだ。でも」
「でも?」
「ゴブリン一体なら、今のお前でも倒せる」
私はカイトの横顔を見た。
それは背中を押す言葉だった。遠回しだけど、確かに。
「……受けてみる」
「そうか」
「カイトくん」
「何だ」
「応援してね」
カイトはまたそっぽを向いた。でも「……まあ、考えておく」と言った。
(応援してくれる気だ!!!)
三日後の試験当日。
ギルドの裏手にある訓練場に、受験者が五人集まっていた。私の他は全員男で、全員私より体格がいい。
ギルドマスターが杖をつきながら現れた。
「今回の試験内容はゴブリン一体の単独討伐じゃ。制限時間は三十分。では順番に行くがよい」
私の番は三番目だった。
訓練場の奥の扉が開いて、ゴブリンが一体入ってきた。
深呼吸する。
カイトに教わった構えを取る。
(冒険は……するかしないか、だ)
ゴブリンが駆けてくる。
体を横にずらして、踏み込んで。
数秒後、ゴブリンは地面に倒れていた。
場がしんと静まり返った。
ギルドマスターがフォッフォッフォと笑った。
「合格じゃ」
訓練場の入り口のところで、カイトが壁にもたれて腕を組んで立っているのが見えた。目が合った。
カイトは何も言わなかったけど、小さく頷いた。
それだけで、十分だった。
「……やった」
テンプレが欲しくて転生した。
チートスキルも、ステータス画面も、最初は何もなかった。
でもこの世界には、ハイルさんがいて、ティックお婆ちゃんがいて、ルコさんがいて、リリィちゃんがいて、カイトがいた。
「テンプレって……案外、こういうことかもな」
一人でそう呟いて、私はEランクのギルドカードを受け取った。
冒険は、まだまだ続く。




