第19話「夜のテンパレスと、星空のこと」
その夜、眠れなかった。
べつに何か悩んでいるわけじゃない。ただなんとなく、外が気になった。
ルコの宿の窓から外を見ると、石畳の路地に月明かりが落ちていて、思いのほか綺麗だった。
「……出てみようかな」
夜の街を歩くのは初めてだった。
テンパレスの夜は昼間よりずっと静かで、でも怖くはなかった。街灯代わりの魔法の灯りがぽつぽつと道を照らしていて、遠くから誰かの笑い声が聞こえる。酒場がある方角だろうか。
ぶらぶらと歩いていると、街の広場に出た。昼間はいつも賑やかな噴水広場が、今は人もまばらで静かだ。
噴水のふちに腰を下ろして、空を見上げた。
「……すごい」
星が、多い。
地球で見た夜空とは比べ物にならないくらい、びっしりと星が詰まっている。天の川がくっきりと見えて、流れ星が一つ、すうっと横切った。
「綺麗だなぁ……」
思わず声に出た。
「……珍しいか、それ」
「うわっ!!」
心臓が止まるかと思った。振り返るとカイトが噴水の反対側のふちに座っていた。いつからいたんだ。
「び、びっくりした……なんでいるの」
「散歩してた」
「こんな時間に?」
「お前もそうだろ」
「それはそうだけど……」
カイトも空を見上げた。しばらく二人で黙って星を眺めた。
「……綺麗だよな、確かに」
カイトが静かに言った。
「うん。地……遠くに住んでたとき、こんなに星が見えなかったから」
「都会だったのか」
「まあ、そんな感じ」
また少し沈黙が続いた。でも不思議と、苦じゃなかった。
「カイトくんって、なんでこの街にいるの? 出身はここじゃないって言ってたよね」
「……少し前に来た。目的があって」
「目的?」
「……まだ、話せない」
「そっか」
私はそれ以上聞かなかった。話せないなら、話せるときでいい。
「サラは……怖くないのか、この世界」
「怖い?」
「頼れる人も、帰る場所もないだろ」
私はちょっと考えた。
「怖くないとは言えないけど……怖いだけじゃないかな。知らないことが多いから、楽しいことも多い気がして」
「……変な奴だな」
「よく言われる」
カイトは短く笑った。
ちゃんと笑った。昼間みたいな一瞬じゃなくて、ちゃんと。
流れ星がまた一つ、夜空を横切った。




