第17話「Fランクの洗礼」
Fランクになった翌日、私は掲示板の前でしばらく固まっていた。
「……ゴブリンの討伐……」
Fランクの依頼の中に、ゴブリン三体の討伐というものがあった。
ゴブリン。
言わずと知れた異世界モノの初期モンスターその二。スライムと双璧をなすテンプレ雑魚モンスターだ。大きさは子供くらいで、知恵があって集団で行動する。弱いけど油断は禁物、というのが相場だ。
「行くしかないよね……!」
「ゴブリンか」
隣にカイトが来た。掲示板を一緒に見ている。
「Fランクなりたてで行くのか?」
「そのための昇格だし!」
「三体って書いてあるけど、実際は群れてることが多い」
「……それはちょっと怖いな」
「だろうな」
「一緒に来てくれたりしない……?」
「……俺はDランクだぞ」
「Dランクの依頼と掛け持ちするとか……」
「なんで毎回それを言うんだ、お前は」
カイトは盛大にため息をついた。でも「どうせ近くで採取依頼がある」とぼそぼそ言いながら、結局同行してくれることになった。
街の東にある森の中を、二人でしばらく歩く。
「ゴブリンは匂いで分かる。近づいたら腐ったような臭いがする」
「ファンタジーあるある!」
「……何でなんでもそういう括り方するんだ、お前は」
「異世界モノへの愛です」
「よく分かんね」
しばらく歩くと、カイトが急に足を止めた。
「……いる」
言われた瞬間、私にも分かった。確かに、かすかに変な臭いがする。
木の向こうからガサガサと音がした。次の瞬間、黄緑色の小さな影が三つ、飛び出してきた。
「きたっ!!」
ゴブリンは想像より速かった。一体が私に向かって錆びた短剣を振りかぶってくる。
「っ……!」
咄嗟に後ろに飛び退いて、間一髪で刃をかわした。心臓がドクドクいっている。スライムとは全然違う。相手に意志がある。
でも……怖いだけじゃなかった。
(これが……冒険だ!!)
「ぼーっとするな!」
カイトの声で我に返る。
「分かってる!」
深く息を吸って、足を踏み込んだ。カイトに教わった構えで、正面から向かっていく。ゴブリンが短剣を振ってきた。それを横に体をずらしてかわして、隙ができた脇腹に短剣を入れた。
手に確かな感触があって、ゴブリンが崩れ落ちた。
「一体……!」
残り二体はカイトがあっという間に片付けていた。本当に強い。動きに無駄が全くない。
「……終わった?」
「終わった。怪我は?」
「ゼロ!!」
「……上出来だ」
カイトは短くそう言って、刃の血を布で拭った。
上出来。
さっきのGランクのときとは違う、ちょっと違う言葉の重さがあった。
「……ありがとう、カイトくん」
「別に」
でも今度は、そっぽを向く前に少しだけ笑ったのを、私はちゃんと見た。




