表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵鏡花は今日も今日とて霊をみる  作者: 月本むう
case2 ゆめ、cryコwhy
24/25

ゆめ、cryコwhy⑪

「モリアキさん?」


 思わず声をかける。何故、彼女がわざわざここに来たのだろうか。


 俺に任せてくれたのではなかったのだろうか。


「岩山君」


 モリアキさんは俺に一瞥もくれずに岩山をずっと見つめて呟いた。


 まるで、恋する少女のような顔をしていた。


「岩山君」


 探偵女と思われる声が路地裏に向かって声が飛んできた。


「岩山君」


 モリアキさんは岩山の耳元でもう一度、名を呼んだ。


 その声は妖艶で、色気を含む女の声だ。


 彼女の細くて白い美しい指が岩山の頬を撫でた。愛おしそうにモリアキさんの顔が緩む。


 なんだか、それが悲しく感じた。


 俺は頭を撫でられたことはあるけど、顔は触れられたことない。


 何故か、悔しかった。


 とても、寂しく感じた。


「岩山君」


 またあの探偵女の声がした。


 モリアキさんが振り返る。


 その顔はいつもの顔に戻っていた。


「いくよ、ついてきて」


 彼女はまるでそよ風のように空へ舞う。


「ドウシテ」


 俺は叫んだ。


 モヤモヤする。


 なんだろう、怖くなってきた。


 彼女を追って跳躍する。


 必死で、必死に彼女を追う。


 手を伸ばす。届かない。


 もっと、もっと早く。


 俺は跳んだ。飛んで、跳んだ。


 はぁはぁはぁ。


 呼吸が苦しい。


 何とかいつもの待ち合わせ場所に辿り着いた。


 肩で息をする俺を横目に彼女は何やら考え込む表情をしていた。


「モリアキさん、どうしたの?彼を、岩山は連れてこなくてよかったの?」


「まだ、はやいかなって。岩山君、まだ私の事視えてないみたいだったから」


 どういう意味か分からなかった。


 なのにモリアキさんは寂しそうな顔をする。


 どうして、胸が苦しい。


 沢山、跳んだりしたからだろうか。


「モ、モリアキさん。こいつはどうしよう」


 俺は掴んだままの高橋を突き出してみた。


「それ。もういいや、食べていいよ。全部」


 興味なさそうに彼女は言った。


 どうして、


 どうして。


 俺は悔しくて高橋を丸呑みした。彼女の興味を引きたかったから。


 肉も、内臓も、骨も、脳も、心臓も。


 全部、ゼンブ、ぜんぶ。


 綺麗に食べつくした。


 我ながら言い食べっぷりだったと思う。


 オナカガイッパイダ。


 それでも、彼女は遠くを見つめたまま。


 俺に興味は示してはくれなかった。


「食べた、食べたよ!」


 俺は力いっぱい大きな声で言った。


「そう。それで、二人目だね?おいしい?」


 モリアキさんはまだ街を見下ろしたままだ。


「うん、二人目だよ」


「なるほど。君の場合は知能が欠落していくんだね。やはり昨日用意した人間だけでよかったのかな?」


「何の話?」


 モリアキさんの言っている意味がわからない。


 用意した人間?誰の事だろう?


「ねぇ、岩山君にあとどの位、怖い思いをさせればいいのかな?手紙をあげた時はきっと驚いただろうな。できれば、その顔も見ておきたかった」


「どういう事?」


「え?言ったじゃん。堕ちて欲しいって。貴方みたいに獣に堕ちたら私を知覚してくれるかなって」


 モリアキさんはそう言って振り返ると笑ってくれた。


 なんだかこっちも嬉しくなって笑った。


 彼女はこちらにそっと近づくと耳元で囁く。


 優しい声だ。


「ありがとう」


 そう言って。


 細くて、白い美しい彼女の腕が




 ―――俺の心臓を貫いた。




「え」


 彼女の手の中で俺の心臓が躍る。


 どくん、ドクン、どくん。


 彼女の手の中で俺の心臓が、


 ―――握り潰された。


 どうして、どうして、どうして。


 どうして、どうして、どうして。


「同じ恐怖じゃ堕ちてくれないよ。でも、君は結構頑張ってくれたから。直接、私が殺してあげたの。ありがとう。オオカミ男くん」


 彼女は無邪気に笑った。


 こんな風に彼女が笑うのは初めてみた。


 それなのに、どうしてこんなに悲しいの。


「モリアキさん、ドウシテ」


「あ。ところで、君、名前なんていうの?ま、いっかどうせ死ぬんだし。じゃ、ばいばい」


 無邪気な音で彼女は俺に別れを告げた。


 まるで、雪のように彼女の姿が消えていく。


 どうして、どうして、どうして。


 どうして、どうして、どうして。


 悔しくて涙が溢れてくる。


 俺の膝が力なく折れた。


 俺の心が音もなく折れた。


 屋上の床は冷たい、吹いてくる風も冷たい。


 満月が俺を惨めに照らしてくる。


 泣いた、泣いた、泣いた。


 俺はひたすら泣いた。


 子供のように。


「うぉぉぉぉぉぉぉおおぉん」


 月に向かって、赤子くらい、ないた。


 こわいくらいないた。


 まっくらなよぞらに、かのじょはもういない。


 くらい、こわい。


 まぶたがおもい。


 くらい、こわい。


 いしきがどこかにとんじゃいそう。


 これは、ゆめ?


 これは、げんじつ?


 ゆめならいいのに


 ずっと、ずっと


 さめなくていいよ。


 げんじつは


 ゆめくらいこわい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ