ゆめ、cryコwhy エピローグ
頭が痛い。
深夜の出来事はまだ鮮明に覚えている。
―――君、過去に人を殺したことはあるかい?
鏡花さんの言葉はまるで鈍器か何かで殴られた気分のようだった。
隠しきれないと思った俺は夢子の事を洗いざらい話した。
あの事を誰かに話したのは初めてだった。
でも、鏡花さんは「そっか」とだけ言って終わらせてしまった。
その後に「実は色々と調べていたんだよ」と付け足した。
それを聞くと少し罪悪感が湧いてきた。
結果的に高橋を巻き込んでしまった。
そして、昨日オオカミ男に殺された女性も。
鏡花さんは「君はそもそも被害者」と言ってくれたのがせめてもの救いかもしれない。
この人は全部わかって動いてたのか。
それとも、分かってから動き出したのか。
やっぱり、一番怖いのは鏡花さんだと思う。
そして、知人と言うきみちゃんという人も怖い。
なんでも、怪異専門のハンターです。と言われたときは耳を疑った。
鏡花さん曰く、「関わらなくていい業種の人間」らしいが、お願いしても関わりたくなかった。
その後は、きみちゃんさんの運転で鏡花さんと家まで送って貰った。
その際、脱ぎ捨ててあったジャケットからポケットティッシュを抜き取り「これだけは貰っていくね」と言って鏡花さんときみちゃんさんは帰って行ってしまった。
一人残された俺は当然、寝れるわけもなく朝を迎えてしまったのである。
俺は一体何をしていたのだろうか?
何もわからない。何も理解できない。
ここ数日の体験は俺の頭をぐちゃぐちゃにかき乱しただけだ。
無意識に頬を撫でる。
あの時誰かに触れられた感触。
あれは夢子だったのだろうか?
そんなありもしない事をふと思ってしまった。
ヴヴヴヴ
スマホが鳴る。
鏡花さんから電話だ。
深呼吸してから通話ボタンを押す。
「もしもし」
「あー岩山君、寝れたかい?」
「寝れると思いますか?」
「だろうね。でも、事務所には来てもらうよ。きみちゃんにちゃんと見てもらおう。あと、君まだ有給ないから休んだら欠勤と同じだよ。じゃ」
「え?ちょっと、きょう―――」
スマホからは虚しい無機質の音が流れるだけ。
仕方なく支度をして俺は家を出た。
それでも、俺は日々を生きなければならない。
わからないまま、惰性に生きる。
こんな俺を夢子は許してくれるのだろうか。
いや、許されるために俺自身が考えなければいけないのだろう。
今日も駅のホームは混雑している。電車へと乗り込もうとする人々をかき分けながら俺は何とか改札口まで辿り着いた。
やはり車で来た方が断然早い。
駐車場がないなら自転車通勤も視野に入れるべきかもしれない。
改札を抜けると正面のバスロータリーに丁度バスが停車した。学生らが大勢降車してきた。
あんな事があろうとも彼らの日常は変わることはない。
それは、俺も同じだった。
ここからは事務所まで徒歩十五分ほどだ。始業時間まで余裕に時間はある。
岩山が歩を進めると、いつもいる筈のティッシュ配りの男が今日はいなかった。
今日は休みなのだろうか。
何かと彼と交わす挨拶は俺の日常の一部となっていた。
それが、今日はないとなると少し寂しくなる。
今日も風が冷たい。
いつもより軽いジャケットが吹き抜ける風に煽られた。




