◆165・増殖 □
「《……で、コレを…………な、…………で》」
「《…………ぉ~! …………か?》」
「《ふむ……、…………を…………》」
「《…………か? …………し……いぞ?》」
「《……はっ……! お……は、…………》」
――んん?
薄っすらと聞こえる話し声に耳を傾けながら、重い瞼を開ける。
「むにゃ……、眠……」
「《リリアンヌ?》」
がんばってもまだ半分しか開かない瞼の隙間から、薄茶色っぽい何かが見えた。
「《起きたのか?》」
「……………………」
目の前にいたのは、ポニワ化したアルバス様こと、ポニバス様である――。
ぉおぅ……。寝起きに見ると、情緒が乱れるな。
虚空の奥から《コォォォォォ》という音が聞こえそうだ。
というか……。
「アルバス様、なんか縮んでません?」
「《うむ、少々魔法を使ったら、縮んでしまったのだ》」
「あ~……」
そういえば、小雪ちゃんにあげたポニワも、魔法を発したあとに縮んだんだっけ?
――ん?
「アルバス様、魔法、使ったんですか?」
「《まぁ、少しな》」
「少し?」
「《使い過ぎると、もっと小さくなるであろうからな、少しだ》」
「……そうですか」
――なるほど?
ポニワ姿であれば、使える魔力に限りがあるから、勝手に制限できると……。
ならば、減った分の魔力を補充したところで、そうそう危険な魔法が発動されることもないか。
そんなことを考えていると、アルバス様の後ろから声が聞こえた。
「《よぉ! お目覚めか?》」
そう言って、アルバス様の陰からヒョコッと飛び出てきた薄茶色のナニカ。
「……ふぇ?」
「《あら、ぽやぽやした寝起き姿も愛らしいじゃない》」
「ふぁ?」
「《ふむ、確かに愛らしいな》」
「ふぉ?」
「《リリアンヌ! また会ったな!》」
「ふぎぃ!」
アルバス様の陰から、次々と現れる薄茶色のナニカ。
「……………………」
――増えとる‼
そう、『薄茶色のナニカ』も何も、飛び出してきたのは、ポニバス様とソックリな別のポニワだった。
それが、四体――。
それって……。
――何だか眩暈が……。
いやいや、もしかしたら、私はまだ眠っているのかもしれない。
「《リリアンヌ、こ奴らは我の同胞だ》」
――はい、つまり、やっぱり、中身はお竜様だと?
「《リリアンヌ、貴女のおかげで、本体を動かさずにここに来れたわ》」
「はぁ……」
「《小回りが利くのが良い》」
「《気に入ったぜ!》」
「《せっかくなので、皆にもこの身体のことを教えてやったのだ》」
「なる……ほど……、左様で……」
「《まぁ、この姿でも、俺の覇気が滲み出てしまっているがな!》」
「《何言ってんだ、テメー》」
「《あ? 何か言ったか、アーテル?》」
「《ちょっと、やめなさいよ》」
「《リリアンヌが見ておるぞ》」
「「《――~~~っ……》」」
――もう一回、寝てもいいですか?
「《お主ら、自己紹介でもしたらどうだ?》」
――あ、ダメっぽいですね。
どうやら、現実逃避のための二度寝は許されないらしい。
「《俺はアーテルタイナンノッテだ。アーテルでいいぞ》」
そう言ったのは、黒っぽい葉っぱのポニワ。
みんな、それを表していると言わんばかりの葉っぱの色をしているので、どう考えても、この黒葉っぱなポニワは黒竜様なのだろう。
「《私はアズールメーアウートゥルメールよ。アズールでいいわ》」
次に自己紹介をしてくれたのは、青っぽい葉っぱを揺らす、女性声のポニワだ。
青竜様って女の……メs……いや、女の人なんだ?
まぁ、女性っぽい声と言うだけで、実は違う可能性も無きにしも非ず……。
しかし、今のポニワ姿では分からん。
「《私はアルギュロスレヴォネゼィルヴェル。アルギュロスでいい》」
そして、今度は銀色っぽい葉っぱが靡く、やたらとイケボなポニワ。
多分、銀竜様だろう。
イケボ過ぎて、ポニワ顔なのにカッコよく見え…………ないな……。
一瞬だけの幻覚だったわ。
「《俺のことは知っているだろう! アウルムだ》」
――いや、知らんがな。
まぁ、どう見ても金竜様っぽいけれど、その姿の貴方は初見ですけん。
ポニワになっても暑苦s……、元気ですね!
というか……。
どうしよう、みんなの名前が『ア~なんちゃら~』ってことしか覚えらんなかった……。
「名札付けてほしい……」
ああ、でも、お竜様の名前って、文字にしちゃいけないんだっけ?
「《うむ、しばし待っておれ》」
「《アルバス?》」
「《お主たちも来よ!》」
「《おい?》」
「《行こう》」
「《はいはい》」
アルバス様がぴょんぴょんと跳ねながら、走り去っていった。
それに続く、ポニドラ隊。
――やっぱり、もう一度寝よう……。
「(増殖は夢、増殖は夢、増殖は夢……)」
ボソボソと願望を唱えながら、もぞもぞと布団を被り直す。
そうして、二度寝を続けることしばらく……。
トトトトと軽い足音が聞こえてきた――。
「《む? また寝てしまったのか?》」
アルバス様の声が聞こえたので、横になったまま、目だけを開ける。
「《起きてるじゃねぇか》」
「……はい」
――悲しいお報せだ。夢じゃなかった……。
「《うむ、ならばリリアンヌ、見よ!》」
――ん? 一体何を見よと……。
アルバス様がデデーンと胸を張った姿をよく見れば、アルバス様のポニワボディに、名前が書いてあった。しかし……。
「……ひらがな?」
「《異世界の言葉であれば他の者に見られても問題あるまい。我らかリリアンヌくらいしか分からぬからな》」
「ああ……」
思わず、「ああ」と頷いてしまったけれど、竜族って日本語知ってるんだ……。
来訪者の影響かな?
「これ、アルバス様が書いたんですか?」
「《うむ! よく書けているであろう!》」
「……そうですね」
ちょっと子供の字っぽいけれど、異世界のお竜様が書いたのだと思えば、上手な気がする。
そもそも、指すらないポニワボディで、文字を書けたこと自体が凄いか。
「わざわざ名前を書いてくれたんですね。ありがとうございます」
まぁ、書かれているのは、長~い名前の最初の部分だけだけど。
「《一部だけだがな》」
「そういえば、竜族の名前って、文字にしちゃいけないって聞いた覚えがあるんですが」
「《名前の全てでなければ問題ない》」
「ちなみに、全てを書くとどうなるんです?」
「《文字が消える。それ故、竜族の名前を記すことは元々できないのだ》」
「そうなんですね」
文字が消えるだけかぁ……。
――そんなバカな!
それを信じて試しでもしたら、どえらいことが起こりそうである。
なぜだか、ゾルジ邸の惨事が脳内をチラつくのだ。
最悪、文字と一緒に別のものが消えてもおかしくない気がしてきた。
特にお竜様に関することには、慎重過ぎるくらいがいい。
本当に文字が消えるだけであっても、試すのはやめておこう――。
それより、今更だけど、アルバス様以外のポニワボディは一体どうやって……。
私は出してな……?
いや、そういえば、アルバス様にポニワを配給したね。
もしかして、アルバス様が使った魔法って、ポニワの育成!?
確か、ポニワを土に埋めて魔力水をあげれば、新たな芽を出すとかなんとか……。
え? でも、ポニバス様にポニワをあげたのは昨日だよ?
たった一日……どころか、半日程度で四つのポニワを出した?
いや、竜族なら……?
そういえば、小さかったのはポニバス様だけではなかった。
他のポニワドラゴンズも、ニ十センチくらいの大きさから十センチほどに縮んだポニバス様と同じくらい……。
――なるほど? 節約したんだね。
「《リリアンヌ》」
「はい?」
「《少々、魔力を分けてほしいのだが》」
「ああ……、はい」
まぁ、元の大きさに戻すくらいの魔力ならいいか。
竜族がすでに揃ってしまっているのだから、これ以上ポニドラが増えることはないしね。
………………いいのか?
仮の身体に憑依している状態とはいえ、ここにこの世界の竜族が全員揃っているとか、何気に恐ろしくない!?
「…………まぁ、いっか」
そう! ここは異世界!
喋る猫に、顔がついたドングリだっているのよ?
竜が変な植物を乗っ取って現れることがあっても、変じゃない。
何も! そう、何もおかしくはないわ!
考え過ぎれば、五歳で胃痛持ちになるわよ! リリアンヌ!
「《リリアンヌ、俺にも頼む》」
「ハーイ」
「《あ! 俺にも!》」
「ハーイ」
「《リリアンヌ、できれば私にも……》」
「ハーイ」
「《私にも頼む》」
「ハーイ」
こうして私は、少々の思考放棄をしながら、ポニワドラゴンズに魔力注入をしたのであった――。
「《リリアンヌ、なぜ白目を剥いておるのだ?》」
「ハーイ」




