◆164・私のと何か違う……。
――――――――――――――――――――――――
◆ギアンダノッティ
ノッティマクロークから採れる堅果型魔植生物。
危険を感知すると警告音を鳴らすことがある。
火に入れると弾ける。
備考:リリアンヌ・ベルツナーに従属中
――――――――――――――――――――――――
――うわ……。
私にはそんな気など一ミリもないというのに、なぜだか勝手に従属されてしまったらしい。
「《ふむ、リリアンヌに屈服したからだな》」
「くっぷく……」
「《リリアンヌには逆らってはいけないと、本能で悟ったのだろう》」
「はぁ……」
――カラカラ笑う前に悟ってよ。危険感知能力どうした。
勝手に従属してくる、押しかけ従魔どんぐり。
せめて、もっとかわいければ……。
《カラカラッ!》
――鳴くとこ、間違ってるよ!
このどんぐり、普通に感情表現のために鳴いてるでしょうよ。
「これ、解約とか……」
「従魔解除しても、その内また勝手に従魔になっちゃうと思うけど」
「えぇ……」
「まぁ、害がある訳でもないし。これからは、ちゃんと危険を感知したら教えてくれると思うよ?」
――どんぐりの感知能力、当てにならないんですけど?
「リリアンヌ、いいにゃ~! 僕もノッティを従魔にするにゃ~!」
何だか、盛大に押し売りされた気分だけれど、ロックくんがくれたノッティだしね……。
その後、ノッティことギアンダノッティについて、周りの人たちに聞いてみた。
従魔になったとはいえ、特に世話らしい世話は必要ないらしい。
ポニワは分類的には根菜(?)なので、土に植えたり、魔力水をあげたりするのがいいらしいのだけれど、ノッティは木から離れた木の実だからね。
そうこうしている間に、ロックくんもノッティを従魔にしていた。
どうやら、私にくれた小袋とは別に、まだ他にも持っていたらしい。
しかし、カラカラ言うだけのどんぐりを従魔にしたとて……。
いや、ロックくんが嬉しそうだから、それで良いか――。
「魔植生物って、従魔にできるのですね……」
「一応、生物だからですかね?」
「スチューも試してみたらどうだ?」
「そうですねぇ……」
――え? ミルマン兄さんもどんぐりを従魔に!?
いいの? それ、どんぐりだよ? ホントに?
「どうだ?」
「できましたね」
《カラ》
「………………」
なんか、私のどんぐりより紳士的な鳴き方に聞こえるんですけど。
それに、ミルマン兄さんのどんぐりの方が、心なしかキリッとした顔付きだし……。
《カラカラッ♪》
《カラカラッ♪》
《カラカラッ♪》
――おい!
私のどんぐり共が間違いなく、私を嘲笑っている。
こ奴ら……、私に屈服したとか、絶対、嘘だ。
「成敗!」
《カラカッ……カカッコ……》
《カラッ……カッ……カッラ》
《カッカッ……カラッカ……》
私がノッティ入りの袋をシャカシャカしていると、別室で作業中だったらしいロイド様たちが出てきた。
「リリアンヌ、何をしているんだ?」
「どんぐりころころです」
「は?」
「(どんぐり殺殺……)」
「ん? レイ、何か言った?」
「ううん」
「ああ、そうだ。明日、エミリオ殿下と会うことになった。レイ殿にも話し合いに参加してほしいとのことで、場所はまたこの宿でということになったのだが……」
「ああ、うん、分かった」
「《ふむ、では我も参加しよう》」
「え?」
「何だ! 生き物か!?」
「「あ……」」
そういえば、ポニバス様、誰にでも見える状態になっていたんだった……。
私たちの陰からひょっこりと現れたポニバス様の姿に、ハインリヒさんとブラッドリーさんが困惑している模様だ。
私たちが慌てていない様子を見たからか、剣を抜くまではしなかったけれど、ロイド様の前に出て臨戦態勢を取っている。
「お前たち、大丈夫だ、下がれ。それより、白竜様が見えているのか?」
「「……白竜様!?」」
「《誰にでも見えるようにしたのだ。これからは、リリアンヌの使い魔を名乗ることにした》」
「そうなのですね。承知いたしました」
「――っ! では本当に?」
「しかし……」
ハインリヒさん、ブラッドリーさん、大丈夫。
みんな、思っていることは同じだよ? 口に出しては言わないけどね。
まぁ、アルバス様自身は、ポニワ姿を気に入っているらしい。
なぜだかポニワを『愛らしい生物』と認識しているようで、マイポニワを育成中の猫妖精たちに交じって、アルバス様もマイポニワを育成し始めた。
もちろん、そのポニワを配給したのは私である。
ポニワ姿のアルバス様が鉢植えを持って、私に「《ポニワをひとつ》」と言ってきた時には、何の冗談かと思ったけれど……。
とにもかくにも、誰にでも見えるようになってしまったポニバス様のことや、なぜか勝手に従属してきたどんぐりのことなどを、ロイド様たちに話したり何だりをしている内に、夜も更けていった。
今日はいろいろあったからね。ゆっくり休みましょう。
おやすみ――。
◆ ◆ ◆
「で? 回収した資料は見たのか?」
「うむ、先ほどな。まだ軽く見た程度だが」
真っ白い空間で、集った五体の竜と人型のレイ。
ゾルジ邸で白竜たちが回収した資料を広げ、話し合いを始めた。
「ダミアーノ・ゾルジと名乗っていた尾和戸耕紀も、召喚されてこの世界に来たようです」
「召喚……。そんなことをできる者なんて……」
「どうやら、来訪者が召喚したようだ」
「来訪者が!?」
ダミアーノ・ゾルジと名乗っていた尾和戸耕紀。
ウルヒナ・ゾルジと名乗っていた菊川雛。
そのどちらもが、本来の来訪者とは異なる手段でこの世界に現れた。
ゾルジ邸で回収した資料の中には、尾和戸耕紀がこの世界にいた『来訪者』によって召喚され、この世界に来たことが記されていたものもあったのである。
「来訪者が、異世界人を召喚したとは……」
「しかし、だからこそ納得もできる。来訪者のような特殊な力を持たぬ限り、別の世界の人間を喚ぶなどできぬであろう」
「しかし、一体、何のために……?」
「資料によれば、『元の世界に戻るため』だ」
「元の世界に……」
来訪者は別の世界での生を終えたあと、この世界にやってくる。
すでに別の世界での生を終えているため、来訪者が元の世界に戻れることはないのである。
「元の世界に戻るために、なぜ、別の世界の人間を喚んだのだ?」
「喚んだ人間と自分を入れ替えるつもりだったようです」
「ならば、オワトコウキなる者を喚んだ来訪者は、どうなった」
「分かりません」
そう、その来訪者は、異世界人を召喚することには成功したのだ。
しかし、その後どうなったのかは不明だ。
資料は尾和戸耕紀が引き継ぎ、そして、尾和戸耕紀も自分が元の世界に戻るために、菊川雛を召喚したらしい。
「その来訪者って、一体誰なの? 名前は?」
「それも分かりません」
「ふむ、誰ぞ、思い当たる者はおらぬか? 元の世界に戻りたいと言っていた者など……」
「「「「………………」」」」
銀竜の問いかけに黙り込む、他の竜族たち。
それぞれに、今まで出会った来訪者を思い浮かべているのだろう。
「元の世界に帰りたいと言う者はいたが、『できぬ』と言えば、何かに納得したように、受け入れる者ばかりだったからな……」
「うむ、我の記憶でもそういう者ばかりであった」
「私も同じくだな」
「私の所には、そもそも来訪者が来ないのだけれど……」
「お前の所は、海の中だからだろ……」
その後、竜族たちはしばらく黙って考え込んでいた様子であったが、結局、誰にも思い当たる人物が思い浮かばなかったようである。
「何だか、スッキリしないわねぇ」
「そうは言ってもな……」
「どっちにしたって、もう死んでるんじゃないのか?」
「数百年ほど前のことであろうしな」
「でも……」
「その来訪者の資料を、別の奴が持ってたんだろう? なら、その来訪者はもういないってことなんじゃないのか?」
「それって、その来訪者が元の世界に戻ったってこと?」
「それはできないって分かってんだろ?」
「そうだけど……」
「それより、コイツらどうすんだよ? まずは、コイツらの処分が先だろ」
そう言った黒竜が、水晶牢の中にいる尾和戸耕紀と菊川雛の魂を指差した。
「処分って……、消して終わりにするつもりじゃないでしょうね?」
「そんな訳ないだろ」
「じゃあ、どうするの?」
「この者たちは、あまりに多くの者たちを犠牲にしてきたようだからな」
「ふむ……、こ奴ら自身が今まで犠牲にしてきた総ての者たちの苦しみを、追体験させるのはどうだ?」
「なるほど。その身をもって、自分たちのしてきたことを味わえってことか」
「うむ」
「いいんじゃない? 私は賛成」
「我も賛成だ」
「俺もそれでいいと思うぜ」
「俺も」
「レイもそれでよいか?」
「僕? うん。でも、追体験させたあとはどうするの?」
「さあな。それはこ奴ら次第だ」
白竜の答えに、レイは怪訝な表情を見せた。
「……どういうこと?」
「追体験を経て、こ奴らが心の底から深く反省していれば解放されよう。しかし……」
「しかし?」
「追体験を経ても尚、何の反省もなければ、もう一度同じ追体験を繰り返すことになる」
「それって……、反省しない限り、永遠に追体験を繰り返すってこと?」
「そうだ」
「そうなんだ……」
確かにそれならば、『こ奴ら次第』だと言えよう。
しかし、この場にいる誰もが、この二人がそう簡単に反省するとは思っていなかった。
どちらかと言えば、苦しみを与えた者への憎しみを募らせたり、苦しみの原因を他人のせいにする性質であろうと。
二つの濁った魂の色が、それを物語っている。
「反省して解放されることがあっても、この世界にも、元の世界にも戻れることはないがな」
「その時はデイジーと同じ世界に?」
「うむ。あの世界でどうなるかは、あの世界の管理者次第だが……」
「どうなるって、転生が許されたとしても、『人間』以外のナニカに、だろ」
「そもそも、解放される日が来るかどうかだと思うがな……」
「そうだな」
こうして、尾和戸耕紀と菊川雛の処遇は決定された。
しかし、その後も竜族たちの話し合いは続いたのであった――。




